計画
俺は全くの迷いも無く
「やろう」
木こりに変化したブラウニーの誘いに同意する。
彼は冷たく笑いながら
「……二度も、彼女たちから殺されたからな」
「ああ、そうだ。確かに、俺の武器が戦いで人を殺していたかもしれない。だが、俺の武器が人の命を守ったことだってあっただろう。少なくとも裁判も無く、有無を言わせずに処刑される覚えはない。それに……」
俺が深く息を吐くと、ブラウニーが
「いきなり、胴体を分割される覚えもない」
俺は苦笑いしながら
「その通りだ。その二つの理由だけで、地獄まで恨みを引きずる理由にはなるだろう?」
「だな。済まないな。二度目は防げたかもしれないが」
「……いや、いいんだ。二度目の襲撃でやつらが、現地の俺たちを人として見ていないことがはっきりした。俺が全員殺して、やつらをこの世界から永遠に退かしてやる」
静かに深く、殺意は心の奥底で燃えている。
異世界から来たガキどもを全員殺すまで決してこの炎は消えないだろう。
ブラウニーは二杯目の薬草茶を勧めた後
「……気が早いと思うが三人の殺害計画を話してもいいか?」
「ああ、誰から殺るんだ?」
彼は少し黙った後に
「オクカワ・ミノリからだ。残りの二人から隔離して、毒殺する」
俺は余計な質問かと思いつつも
「全ての魔法が使えるなら、解毒魔法は当然使えるんだろ?」
「ああ、アンテポイズは水の初級魔法だからな。それ以上の高難度無属性魔法のバフォールまで使えると考えている」
「……バフォールとは?」
「呪いや、毒や麻痺、精神錯乱、詠唱不能などの全ての魔法的や物理的妨害を予めかけることで、完璧に無効にする魔法だ」
「……どう乗り越えるんだ?」
「……バフォールを使う前に、彼女の魔法を打ち尽くさせ、一時的に魔力を空にした状態で捕らえ、竜毒を直接口の中に突っ込む」
「……斬殺や刺殺しない理由は?」
「帝国の宝物庫から持ち出した、常時細胞回復魔法のエバーヒールの効果がかかったネックレスを、彼女は肌身は出さずに携帯している。傷が多少深い程度では、跡形も無く修復する代物だ。それを奪えないと、我々は想定している。竜毒ならば、エバーヒールの回復効果より先に心臓を止められる」
少し考えて
「作戦の概要は理解したが……。大魔導士に魔法を打ち尽くさせるというのはとてつもなく、大変じゃないのか?」
当然の疑問を口にする。ブラウニーは眉をひそめ
「ああ、とてつもない犠牲が必要だろうな。だが、君も含めて、すでに志願者は三名確保している。中に入れてもいいかな?」
「待たせてたのか。入れてくれ」
俺たちの居る小部屋の一角からいきなり気配が現れ
「……あたいは、最初から一緒に居るよ」
黒装束と黒頭巾に口まで身を包んだ、小柄な女性が姿を現した。
ブラウニーは真顔でそちらを見て頷き、パンッと大きく手を打ち鳴らす。
すると小屋の扉が開いて大きな気配が体をかがめながら入ってきた。
モヒカンの顔は禍々しい刺青だらけの大男だ。
身長は二メートル近くあるかもしれない。
そして、俺は思い出す。
あの体格と刺青には見覚えがある、凱旋パレードで何度も見かけた……。
「……もしかして、元王国重装歩兵団長のクライバーン様か……。じゃあ、そちらの黒装束の女性は……」
漆黒に身を包んだ女性がこちらへと歩み寄ってきて、手を差し出しながら
「……元王国諜報部隊長のアヤノだ。よろしく」
黒頭巾の合間から見える復讐に燃えた両眼をこちらへと向けてくる。




