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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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要望

ズルズルと暗闇の中、俺の上半身はどこかへと引きずられて行っている。

「気づいたかね」

ブラウニーの声だ……生きていたのか……。

「……あのような襲撃があるのは見越していた。君に、あの子供達の力の一端を見せたかったので、あえて、誘い込んだのだ」

まったく乱れの無い冷静な声色だ。

強がりではないのが分かり、俺はホッとする。

「今頃、あの二人は各地の黒魔術結社を血眼になって襲撃しているだろう。その間に、我々は時間が稼げるというわけだ」

眼が見えず、声が出ないので一方的にブラウニーの言う言葉を聞き続けていると

「ここだ。私が"木こりのアンガス"として造った小屋。これならば、あの魔法の地図でも簡単にこの場所は探せぬだろう」

ブラウニーは、引きずってきた俺を置くと、扉の鍵を開ける音をさせ、小屋の中へと入っていった。


しばらくすると俺は小屋の中へと引きずられていく。

そしてブラウニーは、俺を持ち上げ台座の上のような場所……いや、たぶんテーブルに俺を乗せると

「一緒に持ってきた下半身と接合する。短時間で済むので少しだけ待っていてくれたまえ」

そう言った直後に

「楽土、戴冠、王の居間、赤い汚泥、世態始原の通牒、染まる庭、青月、潮目……」

などと、短い単語を呪文のように幾重にも唱え始めた。



……



次に気付いて目が開けたときは完全に、手足の感覚が戻っていた。

腰のあたりを触ってみる。

相変わらず冷たいが縫い目は見つからない。

寝かされていたベッドから起き上がり、薬草の匂いがする隣の部屋を見ると人の良さそうな恰幅の良い分厚いチョッキを着た、顔中、こげ茶の髭だらけの男がこちらを見ながら、静かな足取りで、陶器のコップに入れた薬草茶を持ってきた。

一見、無神経そうな見た目の男はとても繊細な口調で

「私だ。ブラウニーだ。姿を変えている。ちなみにあの会議に出ていた他の黒魔術師たちも、既に別の姿だろう」

コップを受け取って、匂いを嗅ぎ飲めそうなので飲むと全身にジワリと温かさが広がった。

「体表や内臓を維持する薬だ。いずれ必要なくなるだろうがまだ、君には早いだろうから」

姿を変えたブラウニーはベッド脇に椅子を置いて座ると

「一応、確認する。あの二人を見て、怖気づいてはいないか?」

俺は少し、足元にかけられているシーツを眺め自分の心に訊いてみる。そして

「いや、すでに二度も死んだ身だ。今さら、何が起こっても、恐れることはないな……。恐怖より、むしろ、何であれほど正確に襲撃して来たのか気になる。それにブラウニーあんたは、とても強い魔術師に見えたんだが……」

彼は質問の意図を察した顔で


「あの銀の大剣を持った赤毛の若者はヤマモト・リュウジと言う。彼らの故郷の煉獄では苗字が前で、名前が後ろだ。彼は並外れた運動能力と腕力を持ち、あらゆる魔法が一切効かないという異常な防御能力の戦士だ」


「魔法が効かないのか……それで」

「その通りだ。身体能力的には完璧に見える彼だが、知力はそこらの十代の頭の良くない子ども並みだ。なので、彼のサポートとして一緒についてきた小柄な少年が……」

ブラウニーは少し考えるように数秒だまってから


「タナベ・ヒサミチ。身体能力はてとも低いが、知能は高い。そして、君も体験したようにあの子はどんな情報でも引き出せる魔法の機械を所有している」


「その機械は、あの白い金属の塊だな……」

よく覚えている。あの金属の塊を彼は熱心に見ていた。

「……そして、二人を組ませたのが今、オースタニアの王都ジャンバラードの玉座で彼らの仲間が落とした領土を管轄している……」


「オクカワ・ミノリだ。彼女は七属性の魔法全て使える大魔導士だな。知能はそれなりだが、支配欲が強い少女だ。リーダーとしての適性も高い。彼女が今述べた二人を使って占領した地域の統治を安定させる役割を担っている」


「……残りの五人は?八人居ると聞いたが」

ブラウニーは首を横に振り

「オースタニア北のライグバーン竜騎国に侵攻中の三人と戦闘に加わらずに、その先へと旅に出た二人が居るが今は私が話した三人に集中するべきだ」

その真意がわかってしまって、深くため息を吐く。

「……残りの五人は、もっと恐ろしいのか」

ブラウニーは変装した髭に覆われた顔でも分かるほどに自嘲的な笑みを浮かべ

「言いたくはないが、その通りだ。残りの五人は、我ら黒魔術師の手にあまる能力だ。今述べた三人と共に、同時に対峙することはできない」

俺はしばらく手元に目を落として

「もちろん、ただでアンデッドとして二度も蘇らせたわけじゃないな?」

ブラウニーに尋ねると

「君には、私が今言った、三人を殺して欲しい」

俺の目を覗き込みながら、そう言ってきた。

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