表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/166

ボディガード

重そうな王冠を頭にかぶった

代理王マーリーンが玉座に座り

その数段下のカーペットが敷かれた床に

重鎧を着込んだクリスナーが頭を下げて跪いている。

玉座の間には、二人以外は誰もいない。

「スベン総司令官付き護衛官クリスナーよ。

 襲撃時に有能な働きをしたこと感謝する。

 さらに、無罪のそちを

 収監してしまった、この不手際、大変すまなかった。

 国家に成り代わり、余が謝罪する」

クリスナーは下げたままの頭を上げずに

「決して、そのようなことはございません!

 我がスベン家は、国家に忠を誓う家

 父も母も、帝国と闘い、死にました!

 国家に尽くすことができれば、どんな状況でも本望です!」

代理王は思わず、立ち上がり

そして目頭を拭うと

「余は、そなたのような優秀な戦士を

 警護官として必要としている。

 特務近衛兵として、仕えてくれるか?」

「ははっ!仰せのままに!」

頭を上げたクリスナーは即座に深く下げて

そして立ち上がり、退出しようとして

「あの、お兄ちゃん……クリスナーお兄ちゃん。

 私……あの、お兄ちゃんが必要なの……」

ボソボソと頼りなげに玉座から降りてきて

数段下の床まで、降りてくる。

クリスナーはスッと振り向いて

「ははっ。ちったぁ大人になったかと思えば

 まだまだ子供だな。

 まあ、爺ちゃんも俺もいるし

 ブラウニー公も居るし、他にも国のために

 立ち上がった、優秀な勇士たちもいる。

 全部任せて、安心して代理王しとけよ」

と一度、頼りなげな代理王の小柄な体を抱きしめて

そして、サッと身体を引くと

深々と頭を下げて

「では!代理王様、ルバルナ代理執政様との

 会談がございますので!

 これにて!」

ニカッと顔を綻ばせて、玉座の間から

カーペットの上を颯爽と歩いて、去っていった。

代理王は、その後ろ姿に決意を新たにしたような

表情を向けた後に、王冠をかぶり直し

玉座に再び座ると

「では!次の者!」

と良く響く威厳ある声で、

クリスナーの出ていった扉の方へと声をかける。


クリスナーが次に向かった

ジャンバラード城内の会議場の

広い円卓には、

スベン、そして、漆黒のフード付きローブを着込んだ

黒いおさげ髪の地味な顔の女性が

二人並んで、ポツンと座っていた。

スベンは

「クリスナー・スベン入ります!失礼します!」

と背筋を伸ばして入ってきた孫の顔を見るなり

「その様子では、代理王様が

 泣かれたな!?

 はっはっは!王様を泣かしてはならぬぞ!」

そう言って、笑いながら孫を

自分を挟んで女性の逆隣りに孫を座らせる。

「爺ちゃん、いえ、スベン総司令

 そのお方がルバルナ様ですか?」

祖父を挟んで向こうに座る女性の顔を

クリスナーは見ようとして

少し身体を傾けると

いつの間にか、ルバルナはクリスナーの背後に立っていて

「ふむ……お孫さんは乱世の奸雄ですね。

 ただし平世では能臣ではありません。

 本来は国家システムの手に余る能力のようです。

 ある意味、時代により選ばれた戦士か……」

後ろ手を組み、彼の背中を見つめながら

にこやかに言ってくる。

クリスナーは困惑した顔でスベンを見つめると

「ルバルナさんは、不思議な黒魔術を使うのじゃよ。

 じゃが、あのブラウニー公のご推薦じゃ

 間違いはあるまい」

クリスナーは背後に立ったままのルバルナの方を見ずに

「……摂政様に失礼だけど、何を考えてるのかわかんねぇ。

 でも、俺たちの敵じゃない」

ルバルナはニコリと微笑み

「その通りです。お孫さん、合格です。

 代理王様の警護を今日からお任せしましょう」

スベンは嬉しそうに

「はっはっは!自慢の孫なのですよ!

 ああ、今日はいい日だ。

 将来を心配していたお前もとうとう近衛兵か!

 こんな日が来るとはなぁ……」

スベンは笑った後に、シンミリと天井を見上げた。

「いや、爺ちゃん、代理王様から

 もう任命されてるんだけど……」

ルバルナは不思議そうに振り向いてくるクリスナーに

ニコリと笑って

「我々二名が代理王様の教育係兼政務のチェック機能で

 あなたは、二十四時間付き添うボディガードです。

 我々三名のチームで、今後は代理王様をお守りします。

 心得ていてくださいね」

そして、スベンに軽く会釈すると

音もなく会議室から出ていった。

「え……爺ちゃん、ルバルナ様が

 二十四時間って……」

スベンはニヤリと笑い

「ああ、代理王様に近づくメイドや

 他の警護官も全て、お前が同行して必ず見て

 操られているものや怪しいものが居たら、即座に捕らえよ。

 それが新しい仕事じゃ」

クリスナーは顔を引き締めると

「……我が家の名のもとに誓う。

 俺は代理王様を傷つけさせない」

スベンは深く頷いて

「それでこそ、わしの跡継ぎじゃ」

聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。


五時間後。


スベンは、真っ黒で大柄な馬に乗り

人けのない山道を飛ぶような異常な速度で

オースタニア東部の帝国との国境近辺まで疾走していた。

山道が途切れると、広大な平原に大量のテントが張られ

数万人の兵士たちが野営している陣地が広がっていた。

「はっはっは、皆の準備はできているようじゃなぁ!

 妖しげな力でもなんでも、わしは使う!

 この国の若者を市民を守るために!

 二度とオースタニアを失わぬためにな!」

黒馬は、陣地の中へと吸い込まれるように

入っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ