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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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紹介

翌朝、帝都への道を向かう黒馬の引く荷車とのターズたちの道中


細い山道を下っている最中

「ジャマルって言ったか……便利だな、この馬……いや、鬼だったな」

馬の手綱を引く俺が荷車の上のブラウニーに声をかける。

今朝、夜中も進み続ける荷車の上で目を覚ますとゴーマは消えていた。

ジェシカによると、ブラウニーが帝都周辺の防衛都市のひとつに重要な使いを頼んだそうだ。

代わりに、今日は彼の凄腕の手下が加わるらしい。

ブラウニーは白雲が浮かぶ空を見上げながら

「……ジャマルは勤勉な一族だ。仕事に抜かりが無い。まぁ、今日来る男は、対照的に隙が多いが実力は一番だな」

いきなり黒い馬がピクリと耳を立てて停まった。

ブラウニーが苦笑いしながら

「ああ、位置が悪いな。エアシールド……ウッドフィールド展開……闇のエンチャントか……サンフラワー」

ブラウニーは素早く背後を向くと両手を翳し

荷車の後方を緑に輝く透明で分厚い魔法の壁で覆った。

同時に、俺を含んだ荷車と馬全体が鈍く黄金色に発光し始める。

そして、何かを感じたらしいジェシカが俺を荷車の中へと引っ張り込むのと同時に

「王様ああああああああああ!!!おっ久しぶりでええええええええええすうううううう!!」

遥か後方から真っ黒な何かが空気を切り裂く音を立てながら猛烈に飛んできた。

そして、魔法の壁に跳ね返され

「がはははははははははは!!試合しましょ!!試合!!もう待ちきれんですわ!」

全身黒レザー服の身長百九十はありそうな

額に角を生やした大男が、顔が割れんばかりに口を歪ませ、ブラウニーに手招きしてくる。


次の瞬間には、黒馬がシュルシュルと小さくなり、なんと、真っ黒なドレスを着たサキュエラに変わっていた。

頭からは、二本のトナカイのような枝分かれした立派な角が生えている。

サキュエラは荷車の上の俺に

「馬の骨!!さっさと荷車を引いていきなさい。私があのクソバカの相手するから」

と言いながら

「サンガルシアアアアアアアアアア!!ぶっ殺す!!ころおおおおおおおおおすうううう!!」

辺りの空気が切り裂かれるような絶叫を上げながら大男へと全身に炎を纏い目にもとまらぬ速さで突進していった。

十数メートル向こうでは、周囲の木々をなぎ倒しながら二人が猛烈な死闘を始めた。

俺は状況がこうなった理由がよくわからないがサキュエラが言うように離れた方がいいのは間違いないので、荷車の前方に飛び降りると取っ手を持ち、坂道を走って下り始める。

荷車の上からブラウニーが苦笑いしながら

「お二人には、ご迷惑をかけて申し訳ないが、分かりやすい紹介ではあったと思う」

そう謝りつつ

「長身の男はサンガルシアと言い、私の最も優秀な配下だ。そして、サキュエラが二番目だ。サキュエラに黒い馬に化けてもらっていたのは血の気の多いサンガルシアの相手をして貰い、その血の気を一度、抜いてもらうためだ。彼女は闘い終わった後、居城へと帰る。そして代わりに、気分の落ち着いたサンガルシアが加わる予定だ」

「……あのプライドの高い女がずっと馬、いやジャマルに化けていたのか……」

荷車を引いて、坂道を走りながら尋ねると

「……私にはどこまでも忠実なのだよ。それ以外は、中々に困ったものだがね」

「あ、山道が爆発して崩壊しました。ターズさん、少しスピードを上げてください。山崩れに巻き込まれるかも……」

ジェシカが後ろから声をかけてきて俺は背後を見ずに必死に坂道を下りだす。



同時刻。オースタニア王国、ジャンバラード城地下牢獄



広い牢獄のど真ん中に藁の筵を敷き、ボロボロの本を積み上げ、蝋燭の光で読んでいるクリスナーが顔を上げると、格子の向こうに祖父であるスベンが立っていた。

「クリスナー、容疑が晴れた。釈放じゃ。代理王様がお前に会いたいと言われておるぞ」

クリスナーは気にしない様子で

「これ、超面白れぇんだよ。爺ちゃんも読まない?ハレンチ剣士の珍道中シリーズって言うんだ」

ピンクの装丁のボロボロの本をヒラヒラと見せてくる。

「クリスナー……出たくないのか?」

呆れた顔をスベンに向けられたクリスナーは

「……作者、このジャンバラードの城下町で死んだんだよな……煉獄から来た悪鬼たちの襲撃で。続編はもう読めない……これ、勧めてくれた衛兵の友達も戦って死んだ……」

「……そうか。行くぞ。代理王様をお待たせしてはならぬ。昨晩、ルバルナという高位黒魔術師の方がブラウニー公の代理摂政になられた。彼女にも顔を会わせておいて欲しい」

スベンはそう言いながら、牢の扉のカギを回して開ける。

クリスナーはニコリと微笑んで、蝋燭を消し、ボロボロの本を積み上げ、それらを両腕で抱えると、牢屋から出てきた。

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