サイコ
「悪魔どもから脅迫されて、公平に見える休戦協定をむりやり結ばされたわけだ」
ユウジが近くの椅子に座りながら楽しげに述べる。
スズナカはそちらを見ず先ほどルバルナの持ってきた肉料理を切り分けて口に運ぶと
「美味しい。まあ当然、ここで毒なんて入れたら、全部終わりだからね」
パクパク食べ始めた。
ワタナベはファルナに抱き着いて真っ青になりながら
「や、やばいよ……何かあの人、大悪魔とか言ってた……ほんとヤバいよ……」
ブルブル震えだした。
「今更おびえんなよ。少し前に高校サッカーで例えたろ?十代でフル代表に入るクラスがちょっと尋ねてきただけだ。大したことない」
ニヤニヤしながら自分を見てくるユウジに
「そ、そそそそそれ……全然大したことあるじゃないかあああ!!」
涙目で声を立てたワタナベをスズナカはチラッと見ながら切り分けられた肉料理を食べ終わり
「どうせ、向こうが欲しいのは帝都の"アレ"でしょ?」
鼻で大きく息を吐きだしてから
「あ、アレ?」
首を傾げているワタナベにスズナカは呆れた表情で
「とっくにユタカさんたちが、持ち出してるやつよ」
「あ、ああ……ジンカン君と一緒に持ち出したやつか……」
「アキノリ元気にしてっかな……」
懐かしそうなユウジにスズナカが嫌そうな顔して
「あいつの顔、毎日見なくて済むのだけは楽しいんだけどねぇ」
「お前、ぶつかるたびに超陰険に裏でいじめられてたからな。あいつは、本物の高知能サイコだよ。俺も機嫌を損ねないようにしてた」
「ジンカン君、僕やタナベ君に優しかったしクラス、いや学校の人気者だったでしょ?ほんとに、そんなことあったの?」
ワタナベが首を傾げてスズナカに尋ねると彼女はチッと舌打ちして立ち上がり、後ろを向くと
「あんたら、とにかくオースタニアと、帝国領土には一切手出ししないように。私これから、諜報も全部引き揚げさせるわ」
「へいへい」
ユウジがいい加減に答えるとスズナカは不機嫌に食堂から出ていった。
ワタナベは不思議そうに
「ジンカン君って、そんなに陰険だったの?」
ユウジに尋ねる。彼はニヤニヤ笑いながら
「ある日スズナカが、アキノリの仲のいい女友達に廊下ですれ違いざまに"ブス"って言ったんだよ。翌日、何が起こったと思う?」
「……ジンカン君が、直接抗議しに言ったとか?」
ユウジは楽し気に首を軽く横に振り
「翌朝スズナカの靴箱の中に、山ほどの剃刀が詰められていて、その直後にあいつのスマホに何百件という出会い系や業者からのメールやラインが届いた。ウイルス入りのアプリもいつの間にか山ほどインストールされてた。そんなこと、普通ありえんだろ?」
「……ほんとにぃ?話盛り過ぎじゃない?それにそうだとしても、たまたま別の人たちがやったんじゃない?スズナカさんやりたい放題で、色んな人に恨まれてそうだし」
ユウジは真面目な顔で
「信じられんと思うが、本当だよ。近い時期に、そういうことが頻繁に何度も起こって、あいつから相談受けた俺が、ひとつひとつ話を聞き、二人で考えていったら全てアキノリの遠回しの復讐だっていう結論に落ち着いた」
「……そっか」
真剣なユウジの顔に、ワタナベも真面目に頷いた。
「それから、あいつは絶対にアキノリ本人やその周囲の人間関係には手を出さないようになった」
「こっち来てからも避けてたもんね」
「まあな、お前もアキノリには気を付けろよ。ある意味、さっきの大悪魔とか言ってた女より、ヤバいと思う」
ユウジはニヤニヤしながら言って席を立った。
「お、思い出したら震えてきた……ジンカン君は怖くないけど!さっきのあいつはなんか本当に怖いんだって!!」
ワタナベは、食堂から出ていくユウジに抗議してから、またキョトンとしているファルナに抱き着く。
ところ変わって、深夜の山中
「タナベさんって軽いですね」
長い板に縛り付けられているように寝かされているタナベを、小柄なハーツが角の生えた頭の上に乗せ両手で支えながら、坂道を歩いている。
ハーツの右腕には、真っ赤な下地に紫色の呪文のようなものが刺繍されているリストバンドがつけられている。
「怪力バカ悪魔……ヒサミチ落としたらぶっ殺すからな」
ハーツの背後ではヤマモトがシルバーソングを腰に提げ、そして大荷物をいくつも背負って歩いている。
「あの、もうちょっとあの民宿で休んでも良かったのでは?」
振り返らずに、不思議そうに尋ねてきたハーツにヤマモトは呆れた顔をしながら
「ヒサミチ寝てる間に、ちょっと話を聞こうとしたらお前が"殺される助けてえええ"とか絶叫するから、宿の客とか従業員から通報される前に、慌てて逃げてきたんだろうが!!」
「すっ、すすいません……あ、あの……あまりにも怖かったもので……でっ、でも……」
「でもなんだよ」
「……おしっこは我慢しましたよ。偉くないですか?進歩です」
ヤマモトは脱力しながら
「……今も我慢してるなら、漏らす前に言えよ」
「してます……」
ヤマモトは大きくため息を吐くと
「ヒサミチ置いて、そこらの、茂みでして来い。帝国の宝物庫から逃走防止用の腕輪持ってきてたヒサミチに感謝しろよ」
「いや、私としては、見て頂いても全く問題ないというか……もう全て見られた仲ですし……」
立ち止まって、タナベを抱え上げたまま、耳まで赤らめるハーツにヤマモトはシルバーソングを鞘から抜いて
「俺が殺したくなる前に、ヒサミチを丁寧に地面に置いて、草むらに行け」
「はっ、はい……!」
ハーツはタナベを寝かした板を地面に置くと
焦りながら近くの草むらに駆け込んでいった。
ヤマモトは深くため息を吐いて鞘に大剣を収める。




