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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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38/166

休戦協定

時時は少し進み、竜騎国の首都城内



「いいか、ミディア、相手を突く時は腰を落として、拳を突きだすんだ」

「はいっ!師範!」

頭巾を目深にかぶった女がショートパンツとランニングシャツ姿で石造りの訓練場らしき場所で同じような格好をした坊主頭の体格の良い男に見守られながら

空手の突きのような型を繰り返している。


十分ほど、それを繰り返すとミディアと呼ばれた女は

「疲れた……ちょっと休憩」

と呟いて、師範と呼んだ男を右手の人差し指で指さした。

次の瞬間には師範はその場に正座して俯いて動かなくなる。

頭巾を取ると、頭の上に金髪を団子状に結んだスズナカだった。

やる気なく彼女は立ち上がり

「暗殺に備えて、護身術習ってみたけど、なーんか、すぐに上達しないのよねぇ……」

などと腕を組んで、石造りの天井を見上げ、そして考え込んだ後

「……ま、いっか。ご飯食べに行こう」

と言って、頭巾を目深にかぶり直した。


城内の食堂では広いテーブル奥に、ワタナベその隣のファルナ王女

そして何席か距離を取ってユウジが豪奢な夕食を食べていた。

入ってきたランニング姿のスズナカにユウジがニヤニヤしながら

「寝技の特訓か?」

いきなり挑発する。彼女は右手をシッシッと払いながら、ユウジの向かいの席に座り

「そういうのは、そこの児童買春法違反の陰キャには言ってねー」

ファルナの開いた口にスプーンで切り分けたサラダを持って行こうとしていたワタナベは

チラッと嫌そうな顔でスズナカを見て

「それ日本の法律だろー?ここ異世界の竜騎国だし。それに初夜はまだだよ。ファルナちゃんが僕のことを心から愛してくれるまでは、やらないって決めてるんだ」

スズナカは脱力しすぎて、一瞬テーブルに頭を打ち付けそうになりながら何とか頭を上げ

「……あのですねーワタナベさーん。ファルナ王女はですねーわーたーしーがー操っているわけですよー。愛とか愛じゃないとかそういうんじゃないんですよー?」

ワタナベはスズナカをキッと睨むと

「僕の愛はきっと!ファルナちゃんに通じるよ!君の能力が無くてもね!」

スズナカは目線も合わせずに地味なおさげ髪のメイドがにこやかに持ってきてくれた

料理に口を付けようとして、顔をグルンそのメイドへと向け

「あんた、この城の者じゃないわね。どっから入ったの?」

既にワタナベは、冷徹な顔で黒光りするピストルをメイドに向けていてユウジはいつの間にか、ニヤニヤ笑いながらメイドの背後へと周り込んでいる。

メイドは警戒心を向けられても微笑みを絶やさず

「わたくしは、霧のルバルナと申します。ブラウニー様の序列第三位の配下です」

と深く頭を下げてスズナカに挨拶した。


両眼を見開いてルバルナを、身動き一つせずに見つめているスズナカに

「本日は、休戦協定を結びたいと思い。その折衝にやってまいりました」

と言いながら、いきなり霧のようにその場から消え、次の瞬間には、ユウジが座っていた席に座っていた。

そして、勝手に切り分けられた肉料理を食べ、グラスのワインに口を付けてから

「クマダ・ユウジ様はリラックスしておられるようですね。唾液の成分から感知いたしました」

と言いながら、ワタナベが無表情で自分に連射してきたピストルの弾を左手を残像を残しながら全てつまんでは、テーブルに置いていく。

「六発目です。弾倉は空でございますね。リロードする前に話をお聞きください。わたくし、こう見えても、虚無界有数の武闘派でございます。逆さの楽土内全体での序列は、そうですね……」

と頭を上げて考え込んでいる所、音もなく背後に近づいていたユウジが左右開いた両掌からほぼゼロ距離射程でルバルナの頭の両サイドへと放ってきた稲妻が何事もなかったかのように彼女の頭の中へと吸い込まれていく。

「……最下層の高位悪魔の方たちと各層の王様たちを入れてもそうですね……二十一位というところですかねぇ。元々の力が膨大ゆえに、地上での制約も多く、この不便な身体で発揮できる実力は、一割の半分にも満たぬ程度とは言え、ここでの私への総力戦はお勧めいたしません。とてもとても、長引いて、あなた方の貴重な余生のお時間が無くなります」

と言いながら霧のように消え、今度はワタナベの使っていたフォークで彼の皿の上のサラダを突く。そして美味しそうに食べると

「……少し緊張状態にあるようです。偽りの愛と、やせ我慢によるものだと推測いたします。わたくしとしましては、ワタナベ様はそれほどの実力があるのです、生身の女性の愛を求めた方が良いと思いますが?」

ワタナベは血管を浮きだたせ

今度はいつの間にか肩に背負った小型ロケットランチャーをルバルナに向ける。


いきなりユウジが笑い出した。

そして両手をパンパンと叩いて拍手すると

「分かった分かった。負けたよ。あんた、最初から全然、殺気がないしな。ナベワンが、食堂をぶっ壊す前にさっさと言いたいことを言ってくれ」

ルバルナはまた霧のように消え、次の瞬間にはユウジ側の少し離れた席に着席していた。

そして懐から紙を取り出すと、それを拡げ、目の前のテーブルに置きながら

「我が主ブラウニー様は、あなた方三名との休戦をご所望されています。こちらも、攻めぬ代わりに南のオースタニア、そしてその以東の国々への再侵攻を止めていただきたいのです」

今まで黙っていたスズナカが

「……つーまーりー私たちが殆ど廃棄したようなもんの帝国をそっちが貰うとー?」

呆れた顔で言ってくる。ルバルナは地味な顔を綻ばせて

「ご理解が早くて助かります。もちろん、休戦協定にご同意していただける場合はこちらも、それなりのものを提供させていただきます」

スズナカ、ワタナベ、そして立ったまま腕を組んでいるユウジに向け彼女は

「三日後に予定されている逆さの楽土から、わたくしも含めた、各層選りすぐりの三十万七千五百十一体の悪魔、そして鬼の方々による竜騎国への総攻撃を取りやめにいたします。先日、ユウジ様達が相手にされた五名のジャマルはその先遣隊です。それらの約六万倍の数の悪魔と鬼たちが逆さの楽土最上層に、現在、仮初の身体に入れ替わりながら待機しています」

ワタナベの顔がサッと青くなる。ユウジが笑いながら

「証拠がない話で脅しながら言われてもな。ガキじゃねぇんだ。信じるわけないだろ」

ルバルナは微笑んで、スズナカを見つめる。

彼女は腕を組んで、少し考えた後に

「……ユウジ、嘘じゃなさそうよ。飲むわ。ただ、南や東南の辺り以外は別に攻めに行ってもいいのよね?それに、攻めなければオースタニアや、帝国に遊びに行くのもありよね?」

ルバルナは微笑みを崩さずに

「竜騎国以北や以西、以東などオースタニアと帝国周辺以外を切り取るのはご自由にどうぞ。わたくし、この後、オースタニアの首都にて守備に就きますので遊びに来るのは、お勧めいたしません」

スズナカは冷静な顔で頷いて

「いいわ。じゃあ、オースタニアと帝国は捨てる。私たち三名が行くこともない。ただ、帝国での私の精神操作は勝手に破ってね」

ルバルナはテーブルに広げた紙に、新たな文字が滲み出てくるのを確認しながら

「もちろんでございます。皆様、では休戦協定は成りました。くれぐれも、協定を破らぬようにお願いいたします」

と言いながら、霧のようにその場から消えようとするその寸前でユウジが

「もし破ったら?」

と問いかけると、消えかけていたルバルナは

ピタッと薄れていくのを途中で止め


「私含め、数名の大悪魔が、逆さの楽土から、あなた方を罰するためにそのままの状態で出てこられるようになります。こちらが破れば、地上に出てきて活動している悪魔や鬼は逆さの楽土へと一名残らず帰らねばなりません」


そう述べると、にこやかに微笑み、そして完全に消えた。

スズナカが苦笑いしながら

「どうせ、そんなことだろうと思ったわ」

と呟く。

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