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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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33/166

ただの幻

朝食後、俺たち全員は

朝食後、俺たち全員はサキュエラに城内の地下倉庫からさらに下へと続く階段を案内され、降りていく。

「本当に、こんなどこの馬の骨か分からないアンデッドに特殊鍛冶させていいんですか?」

長い階段を先頭で降りていくサキュエラは時折、チラッと振り返ってその後ろのブラウニーの顔色を窺う。

五回、同じことを訊かれた時に彼は

「……サキュエラ、良いかな、可能性というものは、自らより他の存在に伸びていく枝や蔓のようなものだ。草木は自らが大きくなるためには虫や獣、人の力を借りることさえ厭わない。君も、それを心することだ」

「……何でも利用しろってのとは違うんですよね?それも調和ですか?」

「そうだ。複雑に無数の可能性が絡まった存在こそがこの世界だ。一層を統べる大悪魔ならば、理解せねばな」

「……私は、王様の使い魔で十分ですけれど……ありがたく、拝聴しておきます」

ブラウニーは軽く笑い、そして黙った。

サキュエラもそれ以降は黙りこくって千段近くある階段を降り切ると、紫色に発光した鉄扉に突き当たった。

「開門」

サキュエラが呟くと鉄扉は重々しく開き、中には誰もいない大きな鍛冶工房が広がっていた。

全ての炉には赤々と火が灯っているのだが、不思議なことに室内は全く熱くない。


四人で入ると、背後で扉が自然に閉まり、鍵がガチャリとかかる。

「馬の骨、ありがたく使いなさいよ。逆さの楽土の鍛冶工房よ。魔法をエンチャントできる魔武具、魔防具をここでは造れるわ」

サキュエラは面倒そうに説明した後、ジッと俺を見つめ

「鍛冶レベルは……52ってとこか……元人間にしては、悪くないわね。馬の骨、あとモブ女、いいこと?ここの炎は熱くないけれど、冥界の特殊な炎なの。うかつに触ったら、傷が残るわ」

やる気なく説明した後、ブラウニーを見つめ

「あとは、お任せしてもよろしいですか?仕事が立て込んでいまして……」

申し訳なさそうに頭を深く下げる。ブラウニーは継ぎはぎの顔で微笑み

「時間を取らせて済まなかったね。私が細かい説明はする」

サキュエラはもう一度、頭を下げてから自動で開いた扉から、足早に階段を上っていった。

すぐに、再び扉は閉まりだし完全に閉まってしまうとブラウニーがため息を吐きながら

「優秀だが、強情な部下というのは困ったものだ。君たちにもそういう経験はあるのではないか?」

こちらを見回してきた。俺は真面目な顔で

「ああ、鍛冶屋に居たよ。スパンキーっていう十四のガキでな。十一から俺が仕込んで、恐らくは俺より鍛冶の才能があったんだが、言うこと中々聞かなくてなぁ……まあ、帝国の侵攻後は行方不明だ」

ブラウニーは頷いて、ジェシカを見つめる。

「私にも居ました。数少ない部下の一人でゴーマといううだつが上がらない上に、強情な中年男で、でも手先がとても器用で、諜報活動に役立ちました。侵攻後に同じく行方不明です」

ブラウニーは「ふふふ」と笑うと

「君たち、もう出てきても良いぞ」

俺とジェシカは目を丸くして、その場に固まる。


鍛冶設備の奥の棚の陰から、ボロを着て小柄で目を輝かせた坊主頭のスパンキーと、痩せこけ真っ白な前髪で顔を半分隠した黒装束姿の中年の男が静かに出てくる。

「生きていたのか……」

「親方っ!」

スパンキーは俺に駆け寄って抱き着いてくる。

一瞬、アンデッドとして蘇ったのかと疑ったが体温を感じる。

「親方、すっごく冷たいですね……」

哀しそうにスパンキーは俺から身体を離した。

「ああ、何度も死んだ身だ。ここに居るブラウニーから、何とか生かされているだけだ」

「でっ、でも、俺、今度こそ親方から、色々教えてもらいたいです!俺、分かったんです!今を必死に生きないと明日は無いかもしれないって!」

必死に縋りつくように言ってくるスパンキーに俺の両目は涙をこぼした。

いや……こぼしたはずの涙は、それを拭おうとしたとき、ただの幻だと分かった。

ああ、だけど、それでいいんだ。

俺はとっくに人として終わってる。

でも、伝えられる相手が、目の前にまた現れたじゃないか。


ジェシカとゴーマは俺たちから離れ、ボソボソと何でもないように喋りだしたが、微妙に二人とも笑っている気がする。

背後で腕組をしながら涼やかな笑みを浮かべているブラウニーを、俺は振り返り

「ありがとう」

頭を深く下げ、感謝を告げると

「いや、私はサキュエラの正しい扱い方を君たち二人から学びたいだけだ。それよりも、冥界の鍛冶のやり方を教えようか」

少し照れたように笑った。

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