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レナード城

「あ、失礼いたしました。

 わたくしとしたところが……」

すぐに我に返ったサキュエラと呼ばれた女性は

スッと身体を引いて、荷車を降りようとして

ブラウニーから腕を掴まれて

「いや、良いのだ。

 このままレナード城まで案内してもらおう。

 臣下のものは、引かせたまえ。

 我が友たちが心休むことができない」

サキュエラは深く頭を下げると

パチッと右手の指を鳴らした。

同時に、荷車と馬や俺たちを取り囲んでいた全員が

山林の中へと消えていく。

いきなり荷車の上でサキュエラは

灯火を持って立ち上がり

「あなたたち!!

 最初に言っておきますけど!!

 ブランアウニス王の臣下として最も長いのは

 わたくしですからですね!?

 そこを勘違いしないように!」

俺とジェシカは口を半ば開けて

荷台の上を見上げる。

ブラウニーが、サキュエラに座るように

手で促して

「……失礼した。彼女が

 帝国を私に変わってコントロールしていた使い魔なのだ。

 少し、性格が尖っているのは、この子の特性だ。

 気にしないでくれたまえ」

俺たちにそう言ってくる。

二人で頷くと安心したように

「サキュエラ、馬を進ませなさい」

「はいっ」

嬉しそうに彼女は荷台を引く、馬に指をさす。

黒馬は瞬く間に、巨大な毛むくじゃらの生き物に変化した。

暗いので炬火に照らされている足元しか

はっきりと見えないが、体長二十メートルはありそうだ。

その生き物は、荷車ごと二人を持ち上げて

広い山道をゆっくりと歩きだした。

俺とジェシカは唖然としながらそれを追う。


ゆっくりとは言え、歩幅が圧倒的に違うので

あっという間に離されていく。

二人で必死に走って山道をついていくと

巨大な生き物はいきなり立ち止まり

荷車を降ろした。

その先には、暗闇の中、灯火に照らされた大きな城門が見える。

巨大な生き物は、音もなく黒い馬へと戻り

サキュエラが荷車に繋ぎなおしている所に

俺たちも駆け寄った。

「ふんっ……」

彼女はサッと横を向いて、黒馬を引いて

ブラウニーの乗る荷車ごと、静かに開いていく城門へと進んでいく。

俺とジェシカも首をかしげながら続く。


城内でブラウニーは荷車から降り

「サキュエラ、皆への食事は用意してあるね?」

「はい!もちろん!」

「では、行こうか」

「こちらへ!」

殆どスキップのような歩き方で

サキュエラはブラウニーを先導して

カンテラに灯された夜の人けのない城内を先導していく。

当然、俺とジェシカも続くが

深夜とは言え、この警備の薄さにはまた首をかしげざるを得ない。


大きな食堂の中心に、

ポツンと四角いテーブルが置かれている部屋に

俺たちは案内された。

テーブルの奥には、豪華な料理がこれでもかと盛られ

手前の席には白い皿の上に、骨……恐らくは馬の骨が一本

そして、右の席の前には嫌がらせのように

サラダが山盛りにされた皿とナイフとフォークが置かれ

その反対の席には、何も置かれていない。

サキュエラは奥の席にブラウニーを座らせて

そして、顎を上げ、俺とジェシカを挑発するような

目つきで見つめてくる。

その意味は即座に分かった。

面倒な女だ。

俺はまず、ジェシカをサラダが山盛りにされた席へと座らせ

自分は、皿の上に馬の骨が置かれた席に座る。

「よろしい」

満足げにそう言ったサキュエラは何もない席に座り

明らかに苦笑いしているブラウニーを

ウットリと眺めだした。


ブラウニーは目を細めてサキュエラを流し見して

「まずは、サキュエラの非礼を謝らせてもらう」

サキュエラは不満そうな顔を一瞬うつむいてした後に

グッと堪えて、またうっとりとブラウニーを

見つめだした。

「……この子も今は私の使い魔とはいえ

 元は逆さの楽土の悪魔なのだ。

 悪魔たちは調和を重んじない。

 私の言うことを聞くのは、私が上位の存在だからという

 その一点の理由だけだ」

またサキュエラは不満そうな顔をして俯いて

グッと堪えて、うっとりとブラウニーを見つめだした。

そして、自分の皿の肉料理を皿に大盛りで分けると

ジェシカに分け与えた。

サキュエラは口を開けて唖然とした顔をして

その様子を眺めている。

「明日から忙しくなる。ジェシカさん食べてくれたまえ」

ジェシカはサキュエラの悪意と殺気に満ちた眼差しを

見ないようにしながら、肉を切り分けて

サラダと共に食べ始める。

「サキュエラ、私は今度の争いではもしかすると

 一度、この身体を失い、地上から退避せねばならないかもしれない。

 その時、君は私の後継者として、ターズたちを導いて

 欲しいのだ」

彼女はあからさまに不満そうな顔で

「ブラウニー様が居ないなら、わたくしも一緒に逆さの楽土へと

 還ります……」

ブツブツとそう呟いた。ブラウニーは優しい目で

「いつも、言っているだろう?

 真の大悪魔になるためには、その燃え盛るような欲望の上に

 調和を学ばねばならぬ。

 君は一層を任される大悪魔になる素質があるという

 私の言葉を覚えているはずだが」

「……ブラウニー様の居ない冥界など塵にも

 劣ります……」

またブツブツと呟きだした。

俺はとりあえず、目の前の馬の骨を齧ってみる。

……自分でも意外だが、旨い。

バリバリと齧りだすと、サキュエラが蔑んだ顔で見てきて

ブラウニーは両手をパンパン叩いて笑い始めた。

彼は笑いを収めると

「サキュエラの足りぬものを、ターズは

 すべて持っている。機会があれば彼から学ぶとよい」

サキュエラはあからさまに嫌そうに顔をゆがめて

俯き気味に

「はい……善処します」

と言葉を濁した。

ジェシカは気にせぬ顔で、さっきから

皿に盛られたものを食べ続けている。


ブラウニーは全員の顔を見回して

「アラナバル・ヴィーナ大佐は買収には応じぬか」

いきなりサキュエラに質問した。

不満そうな顔を

あっさりとサキュエラは収めて真顔で

「はい。帝国への忠誠心までは換金せぬようですね」

「そうか。ならば彼にはスベン総司令の相手をしてもらおう。

 帝国に潜り込ませた二重スパイに、

 三万のオースタニア軍の帝国への大反攻の知らせと

 その総司令は生き残った名将スベンだと情報を流すのだ」

「……直ちに」

サキュエラがピンッと右手の指を鳴らすと

どこからともなく蝙蝠が飛んできて

彼女の右手に留まり、そしてサキュエラからボソボソの

何かを告げられると、その手元からスッと消えた。

「あと、勘の良いもので正気な者は帝都内に居るかな?」

サキュエラは少し考えてから



「ご所望の、アナバル・マグリアくらいですね。

 残りはほぼ、スズナカ・サキのマインドコントロール下です」



「分かった。では我らはこの城で数日休み

 ヴィーナ大佐が帝国軍を引き連れ、西の国境へと大挙して向かうころに

 空の帝都目指して、東へと出発することにしようか」

「転移者三名は、竜騎国から動く気配はありません。

 ただ、少し、気になる情報が……」

サキュエラは困り顔で

ブラウニーを見つめる。

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