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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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28/166

帝国へ

翌日早朝には、俺とブラウニーとジェシカは

身ぎれいな格好をした商人の一団として王都ジャンバラードを発っていた。

最小人数の先遣隊として東の帝国に向かうのである。


体格の良い茶色の馬に引かせた大きな荷車には、布で隠した金貨宝石などの財貨を満載にし、さらにその上に、鳥の羽根で飾られたいかにも商売人が好みそうな帽子を被り、口元にスカーフを巻いたブラウニーが乗っている。

俺と、黒髪を短く切ったジェシカは、いかにも召使いのような布の服と日用品の入った布袋を担いでいる。


ゆっくりと人も疎らな帝国への道路を歩きながら荷車の上のブラウニーに尋ねようと、顔を上げ

「なあ、こんな速度でいいのか?」

俺の地理的な勘が正しければこの調子だと帝国に着くまでに、不眠不休でも三日はかかる。

そして生き物ではない俺と生き物か怪しいブラウニーと違い、ジェシカと馬には休息が必要なので、夜間には停止するはずだ。

それも入れると最速でも一週間はかかるはずだ。

ブラウニーは、荷車の上にゆったり腰を下ろし朝の光を浴びながら

「……夜中は馬を近くの城に預け、君に荷車を引いてもらう。そして朝には次の城で馬を借りる、ということを三日繰り返せば帝国だ」

「……本気か?」

ジェシカは黙って歩きながら聞いている。

ブラウニーはこちらを見下ろし

「アンデッドである君は、私がさりげなく重量魔法をかけたあのモーニングスターも難なく扱えた。すでに、人の腕力を超えている」

「……そうだったのか」

「ふっ、文句を言わないんだな。馬車馬になるんだぞ?」

スカーフの下からでも笑っているのが分かる目つきでブラウニーはこちらを見下ろしてくる。

「……クソガキどもをこの世界から駆逐できれば、なんだってやる。俺は全てを失ったからな」

「……その意気だ」

ブラウニーは朝の陽ざしを見上げながら頷いた。


昼に馬とジェシカに食事休憩をさせた以外は、ひたすら東へと、まだ戦火の跡が残る街道や地慣らしされた大道を進み続け、その夜、本当にブラウニーはオースタニア傘下の

キグナー城へと立ち寄り、馬を預け王都へと送り返すように城兵に命令した。

そして予定通り、俺に荷車を引くように言ってきた。

実際にやってみると、まったく問題なく引くことができた。

しかも異様に夜目が効くので、炬火も必要ない。

ジェシカもブラウニーと共に荷車に乗りこんでいる。

「昼間にやると、さすがに人目がつくのでね。撤退していった帝国の諜報員も、この辺りには未だウロウロしているのでオースタニア国内で見つかるのは避けたい」

ブラウニーが背後の荷車の中で

「ジェシカさん、どうかな?君が任務中に死んだとしたらターズのようにアンデッドにならないか?そうなると私としても有能な手駒が増えて助かるのだが」

ずっと黙ってついてきたジェシカは

「……申し出はありがたいのですが、私は人として死にたいと思います。そして、逆さの楽土で罰を受けます」

毅然とした声で答える。

ブラウニーはいかにも残念だといった感じのため息を吐き

「……美しい決意だ。だが、冥界で亡者の群れと何千年もさ迷うよりもこの世界でターズのように亡者として生き、そして、復讐を成しえるほうが合理的だとは思わないかな?」

「……いえ」

ジェシカはそう言うと、黙りこんだ。

「ふふふ。尊重するよ。無理強いはしない。嫌だというものを死んだ後に勝手にアンデッドにはしない。安心したまえ」

「……申し訳ありません」

「いいんだ。いつでも心変わりしたら言ってくれ。いつでも受け入れる」

俺の引く荷車は、月が隠れ、光のない夜道を進んでいく。

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