表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/166

帝国へ

翌日早朝

俺とブラウニーとジェシカは

身ぎれいな格好をした商人の一団として

王都ジャンバラードを発った。

最小人数の先遣隊として、東の帝国に向かうのである。


体格の良い茶色の馬に引かせた大きな荷車には

宝石などを満載して

さらにその上に、鳥の羽根と布で

いかにも商売人が好みそうな帽子をかぶり

口元までスカーフをまいたブラウニーが乗っている。

俺と、黒髪を短く切ったジェシカは、いかにも召使いのような布の服と

日用品の入った布袋を担いでいる。

ゆっくりと人も疎らな帝国への道路を歩きながら

荷車の上のブラウニーに尋ねようと、顔を上げ

「なあ、こんな速度でいいのか?」

俺の地理的な勘が正しければ

間違いなく、帝国に着くまで不眠不休でも三日はかかる。

そして生き物ではないと俺と

生き物か怪しいブラウニーと違って

ジェシカと馬には休息が必要なので

夜間には休息が絶対に必要だ。

それも入れると、一週間はかかるような気がする。

ブラウニーは、荷車の上にゆったり腰を下ろし

朝の光を浴びながら

「……夜中は馬を近くの城に預け

 君に荷車を引いてもらう。そして朝には

 次の城で馬を借りる。ということを三日繰り返せば帝国だ」

「……本気か?」

ジェシカは黙って歩きながら聞いている。

ブラウニーはこちらを見下ろして

「アンデッドである君は、私がさりげなく重量魔法をかけた

 あのモーニングスターも難なく扱えた。

 すでに、人の腕力を超えている」

「……そうだったのか」

「ふっ、文句を言わないんだな。

 馬車馬になるんだぞ?」

スカーフのしたからでも笑っているのが分かる

目つきでブラウニーはこちらを見下ろしてくる。

「……クソガキどもをこの世界から駆逐できれば

 なんだってやるさ。俺は全てを失ったんだ」

「……その意気だ」

ブラウニーは朝の陽ざしを見上げながら

頷いた。


昼には、馬とジェシカに食事休憩をさせた以外は

ひたすら東へとまだ戦火の跡が残る街道や

地慣らしされた大道を進み続け。

その夜、本当にブラウニーはオースタニア傘下の

キグナー城へと立ち寄り、馬を預けて王都へと

送り返すように、城兵に命令すると

俺に荷車を引くように言ってきた。

実際にやってみると、まったく問題なく引くことができた。

しかも夜目が効くので、炬火も必要ない。

ジェシカもブラウニーと共に荷車に乗りこんでいる。

「昼間にやると、さすがに人目がつくのでね。

 撤退していった帝国の諜報員もウロウロしているので

 オースタニア国内で見つかるのは避けたい」

ブラウニーが背後の荷車の中で

「ジェシカさん、どうかな?

 君が任務中に死んだとしたら

 ターズのようにアンデッドにならないか?

 そうなると私としても有能な駒が増えて助かるのだが」

ずっと黙ってついてきたジェシカは

「……申し出はありがたいのですが

 私は人として死にたいと思います。

 そして、逆さの楽土で罰を受けます」

毅然とした声で答える。

ブラウニーはいかにも残念だといった感じの

ため息を吐いて

「……美しい決意だ。

 だが、冥界で亡者の群れと何千年もさ迷うよりも

 この世界でターズのように亡者として生き

 そして、復讐を成しえるほうが合理的だと思わないか?」

「……いえ」

ジェシカはそう言うと、黙りこんだ。

「ふふふ。尊重するよ。無理強いはしないし

 嫌だというものを死んだ後に勝手に

 アンデッドにはしない。安心したまえ」

「……申し訳ありません」

「いいんだ。それにいつでも心変わりしたら

 言ってきてくれ。いつでも受け入れる」

俺の引く荷車は、月が隠れ、光のない夜道を進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ