ジェシカ
ブラウニーは長時間に及ぶターズの処置を終え、何かを考えながら真夜中のジャンバラード城内の中庭を月明かりに照らされつつ歩いていく。
しばらく前にオクカワ・ミノリとクライバーン、アヤノたちの激闘が繰り広げられた壊れた噴水近くまで行くと止まった。
帝国兵たちの死骸はすでに片づけられ、血糊は丁寧に拭き取られ、埋められているが、ているが未だに不吉な雰囲気は拭えない。
ブラウニーは静かに噴水の脇に腰掛けると
「そろそろ、来る頃だろう」
何かを気にする様子で辺りを見回した。
中庭の木々の間から音もなくボロボロのメイド服を着て髪の毛がボサボサの女性がフラフラと出てきて
「……スズナカ・サキの暗殺は成功しました」
そう言った瞬間に両腕の服の袖に隠し持ったナイフを両手にそれぞれ持ち一瞬でブラウニーに斬りかかった。
彼は座ったまま右手を開いて翳し、女性の動きを止めると、動こうと全身に力を入れる彼女を月明かりの下、しばらく眺める。
「……脳の中枢までは侵されていないようだな。まだ能力の使い方にこなれていないか」
そう呟いて、フッと笑い。
「新陳代謝か……"彼女"が焦るわけだな」
右手を翳したまま、左手を女性の額に当て
「……君は、君に戻る。スズナカ・サキは君を支配できない」
そう、落ち着いた声で呟いた。
次の瞬間、女性はその場に崩れ落ちる。
そして、いきなり上半身を起こし
「あっ、あれ……ここは……私、スズナカを悪鬼を……」
そう言ってから、ブラウニーの月明かりに照らされた継ぎはぎだらけの顔を見上げ怯えた表情を浮かべる。
「敵ではない。黒魔術師のブラウニーと言う名くらいはアウバースから聞いているだろう」
「で、では貴方が……」
ブラウニーは頷いて
「……私は君には、追々知るより、さっさとトラウマを乗り越えてもらいたい。意味は分かるかな?理解するまで待つ時間はある」
女性はアッと開けた口を右手で塞ぐと
「……も、もしや……操られた私が……皆を」
ブラウニーは二ヤリと口を歪め
「賢い子で助かる。悪いのはスズナカだ。罪に感じる必要はない」
ブルブル震えだした女性をブラウニーは壊れた噴水の端に座ったまま見下ろし
「……名前は?」
「ジェ……ジェシカです。元々は竜騎国の諜報員でした……」
ブラウニーは立ち上がると、後ろに腕を組みそして月を見上げ
「……君は、私の元で働く気はないか?もしも罪を感じるというならば、その罪滅ぼしも兼ねて」
女性の顔を見ずに提案した。
所変わって、ジャンバラード城内の祭壇にターズが安置されている石造りの室内
起きた。そう簡単には死ねないようだ。
すこぶる気分が良いのはブラウニーが、何か怪しい薬でも打ったのかもしれない。
ローブを着た上半身を起こし、室内を見回す。
祭壇を蝋燭が囲っている。他には何もない。
俺の身体のヤマモトに斬られたはずの位置には継いだ跡すらない。
足の裏は相変わらず骨が剥き出しだ。
身体を自分で一通り触って確かめてから
祭壇から降り、部屋から出ていこうとすると
扉をガチャリと開け、ブラウニーが入ってきた。
ボロボロのメイド服で乱れた黒髪の見慣れない女連れだ。
ブラウニーは、俺を見て嬉しそうに
「ターズ、こちらはジェシカ。元竜騎国の諜報員で、我々の新たな仲間だ」
ジェシカが軽く頭を下げてくる。俺も頷いて
「……よろしく。ブラウニー、俺がまた意識を取り戻したってことはまだ利用価値があるってことだよな?」
ブラウニーは薄く笑いながら
「……ああ、次は転移者たちが一人も居なくなって隙だらけの帝国を落とすぞ。わが友よ」
「いいね。クソガキどもから全てを奪いつくすのか。最高だ」
ジェシカはニヤニヤ笑い合う俺とブラウニーを恐怖と驚愕の入り乱れた表情で見つめていた。。




