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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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そっくりさん

瞬く間にスズナカを殺したメイドは他のメイドたちに取り押さえられた。

口の中に含んだ毒薬を噛み潰して死のうとしたところを頭巾を目深に被ったメイドの一人が湯船の中に静かに入り、そのメイドの額に手を当てると何と、自ら進んで毒薬のカプセルを吐き出した。

頭巾を取り払ったメイドは結んだ金髪の頭を晒した。

「はぁ、やっぱりね。占領直後はこういうことになりますよねー。帝都のやつらと思考はそっくりだわー」

顔を出したスズナカは湯船から出されて大浴場のタイルに仰向けに寝かされている、首元から血が流れ続けている自らそっくりの死骸を見つめる。


カプセルを吐き出したメイドの格好をした暗殺者や他のメイドたちと共に、湯船から彼女は出ると

「で、誰に雇われたの?作戦は?侵入経路は?」

誰からも取り押さえることなく、独りでボーっと突っ立っている暗殺者の顔を覗き込んでやる気なく尋ねる

「……雇い主は、黒魔術師ブラウニー……です。南西の、悪魔たちの行進とこの暗殺作戦は同時進行です。侵入経路は、城下町の黒魔術師結社のアウバース主任が、用意してくれました」

スズナカそっくりの少女は、纏めていた金髪をほどきながら

「じゃあ、今からあなたはそのアウバースと、後この暗殺に加担した全ての人間を作戦が成功したと偽って隙を見ながら、全員殺してきなさい。そして、それが済んだらあなたも迷わず自害してね。ほらっ、行ってらっしゃい」

シッシッといった感じで右手を振ると暗殺者の女性は、深く頷いてそのまま大浴場から、出ていった。

「そっくりさんも、あと三人かぁ。また補充しないとなぁ。あーめんどくさいなぁ。まあでも、メイドごっこは悪くないか。結構、年配のおばさんにこき使われての皿洗いとか配膳とか掃除とか楽しいんだよね……。私って、じつはドエムだったりして?」

彼女はそう言って、再び金髪を結び直し、頭巾を目深に被ると、死骸の掃除が始まった大浴場をニヤニヤ笑いながら一人出ていく。



その夜、所変わってジャンバラード城内のブラウニーが新設した呪術室



石造りの冷たい部屋の中、周囲に蝋燭の並んだ祭壇に寝かされているターズの切断された身体をブラウニーは紫色に怪しく光る糸や、接着剤のような煮えたぎる液体を使いつつ

ヘラや針で丁寧に縫合していた。

真新しい金属の扉が静かに開いてボロボロのローブを着た黒魔術師らしき、茶髪をおさげにした若い女性が入ってくる。

彼女は音もなくブラウニーに近づくと耳打ちをする。

ブラウニーは自嘲するような笑みを浮かべ

「そうか。"彼ら"は破れ、アウバースも死んだか。だが……彼らの能力をさらに知ることができた」

そう言いながら、ターズの両断された身体を

糸で縫合して、二の腕から離れている右腕に取り掛かりだす。

「サウニーよ。スベン総司令に伝えてくれないか?作戦の第一段階は最低限の成功を勝ち取った、第二段階に移る。とね」

サウニーと呼ばれた女性は頷くこともなくサッと後ろを向くと、音もなく室内から出ていった。

ブラウニーはヘラで液体を切断面に塗り付けながら動かないターズに向け

「ターズよ。転移者たちをオースタニア外に留めおくことは成功した。これで、彼ら三人は、警戒して竜騎国からは出てこない。残りの二人は北へと逃走中だ」

そして口を大きく歪めながら

「我らオースタニア王国はこれより東進してがら空きの帝国を取る……君の力が必要だ」

そう言うと、ターズの口から微かに呼吸のような音が聞こえ始めた。

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