シルバーソング
ヤマモトは崩落する崖の中で必死に血まみれのタナベの身体を庇った。
そして意識を失い、かなりの時が経ち、彼は気がつく。
「……ヒサミチ!」
自分の両腕に抱いた親友の微かな呼吸を彼は確認すると
「うおおおおおおおおおおお!!歌え!!シルバーソング!!うがああああああああああ!」
崩落した岩石や土砂に囲まれた自身の全身に力を入れるように叫んだ。
すると、近くに埋まっていたモーニングスターに絡みつかれた銀の大剣が強烈に発光し、辺りの土砂や割れた岩石を粉々にし始める。
「いけえええええええええええ!!」
ヤマモトは口から吐血しながらも叫び続け、とうとう彼とタナベを包み込んだ崩落現場は
半球形に抉れた地面を残し、砂となった。
「ごふっ……くそっ……代償がでかいな」
ヤマモトは立ち上がり、口内に噴き出した血を纏めて、吐き捨てると血まみれのタナベの身体を調べる。
「チッ……手足が変な方向に曲がってやがる。背骨も逝ってるかもな……」
ブツブツとそう言うと、自分の着ているボロボロの上着を脱いで切り裂き始めた。
それらを包帯代わりに、タナベの出血箇所に丁寧に巻き付けると今度は、銀の大剣に絡まった異様に重いモーニングスターを唸り声をあげながら解いていく。
「ちくしょう……何なんだよこれ。人が持てる重さじゃねぇだろ……ぐぼっ」
時折口から血を吹き出しながら鉄球と鎖を、銀の大剣の刃から取り去ると
「鞘!」
彼はそう叫んだ。すぐに地中に埋まったシルバーソングの鞘が飛んでくる。
ホッとした彼は、鞘に銀の大剣を収めると今度はそれを添え木代わりにタナベの背中に巻き付け、彼を背負い
「ヒサミチ、死ぬんじゃねぇぞ……」
北の丘陵が広がっている方角へと、全速力で走り始めた。
ほぼ同時刻、竜騎国王都から南西に五十キロ地点の平原
「あはははははは!」
ユウジと呼ばれた青年が狂ったように笑いながら四方八方から飛ばされた炎の渦や、氷塊をすべて自分の両手に吸い込んでいく。
彼と数十メートル間隔を空けた周囲には怪獣のような異形たちが囲んでいた。
体長二十メートルほどの巨体はゴリラのような身体つきで灰色と黒の斑模様の全身毛むくじゃらで、顔は紫色の唇、真っ赤に輝く両眼で大口からは犬歯が飛び出ている。
頭の上には灰色と黒の斑の髪の間から、黒い二本の角が伸び、背中には折り畳まれた蝙蝠のものような巨大な翼という悍ましい化け物たちが、ニヤニヤしながら、五体で取り囲んでいた。
「いい!いいぞ!もっと来い!最高だよお前ら!」
ユウジは絶え間なく、化け物たちの攻撃を吸収しながら顔を歪ませて、笑い続ける。
そこから、さらに三百メートルほど離れた山中ではワタナベが森の開けた場所で双眼鏡で壮絶な光景を眺め、腕を組み、必死に考えていた。
「……きっとマシンガンとロケットランチャーじゃ通用しないな……。電子レーザー砲……いや、小型核ミサイル……ダメだ。僕が喰ってるのは硝石だけだ。大量の電子もプルトニウムも食べてない。いや、待てよ……電子なら人の身体にも……」
一瞬、思いついた顔をして、恐ろし気にブルブルと首を横に振り
「たぶん、僕の身体が崩壊するな……。どうしたら……」
頭を抱え込んだ。そして、すぐに閃いた表情をして
「そ、そうか……水だ!」
必至に近くの川へと走っていた。




