こちらの話
目の前には銀の大剣を両手持ちして構えているヤマモトが居る。
……最初から、こいつは標的ではない。
俺の身体的な能力では、絶対に殺せないのは
ブラウニーから何度も説明されて理解している。
今回の標的は、やつの後ろに居るタナベだ。
あっちは身体的な特殊能力は全くない。情報収集に優れているだけなのだ。
殺す、いや、少なくとも重傷を負わせられれば即、俺たちは撤退する手はずになっている。
モーニングスターの棘の生えた鉄球をぶん回しながら微かに後ろを見る。
ブラウニーは二十メートルほど後退して
腕を組み、のんびりとこちらを眺めている。
……さあ、目の前のデカいガキを何とかして退けて小さなガキに一撃喰らわすだけだ。
ヤマモトと俺は十メートルほど距離を開け、にらみ合いをしばらく続ける。
ヤマモトの背後三メートルほどにタナベが居り、そのさらに十数メートル先は崖だ。
突如、背後のブラウニーが
「ピィーッ!」
と口笛を吹いた。合図だ。
近くの山林の森から、一斉に山鳥が飛び出し空へと飛んでいき、俺は一直線に、鳥に一瞬気を取られたヤマモトに向け突っ込んでいく。
「おっさん!死にてぇのか!?」
ヤマモトは怒号と共に、銀の大剣を俺に向け、正確に一閃してきた。
それを横にしたモーニングスターの長い金属の柄で受ける。
一瞬、火花が飛んで俺の体ごと押し込まれるがその瞬間に俺はモーニングスターの棘付き鉄球と柄を繋ぐ金属の鎖を銀の大剣に巻き付けた。
そして、スッと身体を後ろに引く。
同時にヤマモトがモーニングスターが絡みついた銀の大剣握りしめたままガクリと膝をついた。
「なっ、なんだこれ……重っ……」
と言っているヤマモトの横をすり抜け恐怖で顔面蒼白になっているタナベに駆けより、今までの怒り全てを込めて右の拳を振り被ると
銀の大剣を放棄したヤマモトが俺を羽交い絞めにして止めてきた。
「ヒサミチ!!崖まで走れ!俺を信じて飛ぶんだ!」
タナベは白い金属の塊を握りしめて崖に向け、全力疾走しだす。
その右足首に向けて、いきなり鳥の羽根が背後から正確に放たれた。
ヤマモトが背後を向いて力が緩んだ瞬間その拘束から抜け出した俺は
痛みで崩れ落ちるタナベの背中に飛び蹴りを一発喰らわせ、そのまま崩れ落ちたガキの小柄な体を血まみれになるまで必死に踏み続けた。
「やめろおおおおおおおお!!」
背後から、ヤマモトの声が響き、俺の視点が、スローモーションで斜めにずれていく。
どうやら、ここまでのようだ。
背中の辺りから、体が両断されたな……。
……だが、タナベは恐らく死んだ。
満足だ、あとはブラウニー……任せ……た……。
俺は意識を失った。
ブラウニーはモーニングスターの巻き付いたままの銀の大剣で両断されたターズの身体にさらに一閃を加えようとしているヤマモトを見ながら
「友よ。まだ、ここが君の死に場所ではない。……ランドスライド」
両断されて分断されたターズの身体を右手を翳し念力で引き寄せながら、左手をパチッと鳴らし、周囲に局地的な大地震を起こした。
辺りの崖は轟音をたてながら激しく崩落していき血まみれのタナベごと、ヤマモトをその土崩れの中へと巻き込んだ。
轟音とともに
「てめえらああああああああ!!ゆるさねええからなあああ!」
ヤマモトは吠えながら、タナベの血まみれの身体とモーニングスターの巻き付いた銀の大剣を瞬時に抱え、土崩れの中消えていった。
「ふん……許せぬのはこちらの話だ」
ブラウニーは怪しげに笑うと、ターズの身体を引きすりながら、その場から去っていく。




