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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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"彼女"との取り決め

竜騎国南西部の大樹海奥から、謎の巨大生物たちが発生しだしたのとほぼ同時刻



獣人国西部の無人山岳地帯で雄大な自然を眺めながら、ヤマモトとタナベが山頂付近の高台に腰を下ろしていた。

「キャベルちゃんのお父さん、あっさり治ったな。市場の元締めも懲らしめたし、もう大丈夫だろ」

「そうだね。これからどうしようか……」

タナベはうな垂れる。

そしてポケットの中の金属の塊を出そうとしては止め出そうとしては止めを繰り返し続けている。

ヤマモトはいきなり立ち上がり腰に両手を当て空を見上げると

「……四つの選択肢があると思うんだけど言っていいか?」

タナベが黙って頷く。

「その1!二人で大悪魔とそのシモベどもをぶっ殺しつつオースタニアを取り戻す!」

「……」

タナベが浮かない顔のままなのをヤマモトがチラッと見てから

「その2!クソワタナベとクソスズナカとクソクマダと合流して!頭を下げつつ、みんなでオースタニアを取り戻す!」

「うーん……」

タナベは腕を組んで考え込んでしまった。

「じゃあ帝国に戻るか?」

「……いや、あそこはもういいよ。帝都にはスズナカさんの操り人形しかいない」

ヤマモトは笑いながら

「だよなぁ。俺も同じ気持ちだ。じゃあ、本番の4つ目だ!」

少し黙ってから

「委員長と、その兄のユタカさんとあとついでにあいつと合流して!態勢を整える!」

「……それが現状一番マシだと思う。ここ二日間、このスマホでオースタニア各地の動画を調べてたけど国民は僕たちが出ていったのをとても喜んでるみたいだ……。支持率のサイトも見つけたけど、代理王の国民支持率97%だったよ……」

「……まあ、俺たち強引だったし殺しすぎたよな……。そりゃ、大悪魔に付け狙われるわ」

タナベは大きくため息をついて

「敵国の戦争に関わった人たちを全部殺せば平和になると僕と委員長は考えたけど……世の中の歪みを大きくしただけだった。それに帝国でやったみたいに操り人形だらけにしても、空しいだけだ」

「……よっし、決まったならさっさと行くか!」

タナベが立ち上がるのと同時に、ワタナベがその背中に銀の大剣を抜いて立ち

「……ヒサミチ、そのスマホで今すぐにブラウニーの弱点を検索しろ」

タナベは青くなりながら背後を振り返る。



ヤマモトたちの眼前、十数メートル先



十数メートル先は崖の山の高台

目の前には真っ青な顔をしている小柄なタナベを自分の背中に隠し、銀の大剣を抜いている大柄なヤマモトが居る。

クソガキどもをやっと見つけた。

この二日間、不眠不休でブラウニーと共に獣人国を探し回り足の底の皮が、結構剥げてしまった。

当然戻らない。アンデッド化がまた進んだようだ。

俺はプレートメイルを着込み、自家製のモーニングスターを構えている。

獣人国で売られていた、かつて俺の造った武器をブラウニーが買い戻して与えてくれたのだ。

俺の隣のブラウニーは腕を組み、顎を上げ、継ぎはぎだらけの顔を嬉しそうに歪ませながら

「やあ、君たち、元気そうでよかった。このターズと戦ってやってくれないか」

ヤマモトはブラウニーを睨みつけながら

「おい!大悪魔!来るなら来い!今度こそお前をぶっ殺す!」

いきなり叫んできた。ブラウニーは小首をかしげながら

「残念ながら私は、地上に上がってきたときの"彼女"との取り決めで能力が限定的なのだ。君たちと違って、世界のバランスを重んじているのでねぇ」

ヤマモトは急に嬉しそうな顔になって

「ほっ、ほんとかよ!?」

チラッとタナベの顔を見た。

「……今、ブラウニーのムキピディアに新しい項目が出来た。"ヤマモトたちとの獣人国西部ドルモバス山岳地帯の遭遇で地上での能力が限定的だと明かす ※要出典" だって……」

「よ、ようしゅってん……!?」

「つまり、根拠となる資料がはっきりしないってことだ……。う、嘘かもしれないってこと……」

ヤマモトは一瞬迷った顔をした後にすぐに肝を据えた表情となり

「……俺たちは、生き残ってユタカさんと合流する。邪魔するなら容赦なくぶっ殺すぞ!」

ブラウニーは吠えたヤマモトを鼻で哂い、殆ど聞き取れないような速さで何かを詠唱したあと

「ストーンアーマー……ウインドシャット……ブロックフィジカル……」

三度、俺に指を差す。

同時に俺の全身と両手持ちしているモーニングスターを鈍い光が包んだ。

予定通りだ。三つの防御魔法で物理攻撃への耐性を極限まで高め、ヤマモトの攻撃を正面からはじき返す。

そして、この鈍器で隙あらば、弱いが放っておくと最も危険なタナベを殺す。

「では、我が友、ターズ。世界のバランスを崩す、邪魔な彼らを狩りたまえ」

ブラウニーはそう言って、笑いながら背後に下がっていった。

「ああ、任せとけ。ふざけたクソガキどもをぶっ殺す」

俺はモーニングスターの先端についた鉄球を振り回し始めた。

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