波乱の予感
大サルガ砂漠でのブラウニーとターズによる
ヤマモトたちへの襲撃から二日後の朝
「はい、ファルナちゃん、あーん」
縦長で十数人は座れそうなアンティークのテーブルに、ポツリと四人座り、小太りで迷彩服姿の青年がフォークでサラダをつつき、口を開けている青髪の少女の顔面に運んでいる。
「はい、パクッ」
青年がそう言うと少女はパクッと口にサラダを入れ幸せそうにモグモグと食べだした。
近くに座って、黙って食べていた金髪の女子が舌打ちをすると
「ワタナベさーん、きっしょいんすけどー」
横目で文句を言う。
「ふんっ、君には僕たちの崇高な結婚生活のことは理解できないだろうね」
「あーそっすかー。日本だったら捕まるロリとの結婚がねー。あと一応、その操り人形造ったの私なんですけどねー」
大柄な青年が
「はぁ、つまんねぇ光景だな。降伏した兵士たちはスズナカの能力で完璧に操って、警備させてるから、ひっとことも喋らねぇし、反乱の一つも企みやがらん」
「ちょっ、ちょっと……ユウジくーん。平和が一番だよぉ……ファルナちゃんの旦那である僕のことを国民は一応は王として認めてくれたわけだし……」
「嫌々、ね。そりゃ、あんたみたいな兵士とドラゴン殺しまくったやつ怖いでしょうよ」
スズナカと呼ばれた女子が長い金髪をかき分け呆れた顔で、ワタナベと呼ばれた小太り青年を見る。彼は少し傷ついた顔になり
「……タナベ君は、ランダムに割り振られた役割だから気にする必要ないって言ってくれたんだけどなぁ。三人とも、どうしてるかなぁ」
ワタナベはファルナと呼ばれた少女の口に再び食べ物を運んで食べさせた。
スズナカが
「そもそもスマホをあいつしか使えないのが間違ってるんすよねー。なんでこの世界には、携帯ショップもネット回線もねぇんだよ!」
突如シャンデリアの下がっている天井に向けて吠えた。ユウジと呼ばれた大柄な青年が
「スズナカ、そう怒るなよ。俺からしてみたら、クソみたいなSNSとか見ないで済むからありがたいけどな。どーでもいいんだよ。愚痴とか自撮りとか」
「はぁ!?自撮りの楽しさも知らないで否定しないでくれる!?」
「ああ、お前は自分大好きだもんな、サキちゃん」
「彼氏でもないのに、名前で呼ぶなっ!」
激高して立ち上がったスズナカにユウジがニヤニヤしているといきなり、扉が大きくノックされ
「王様、女王様方!!緊急の連絡が!」
ワタナベが何か言う前にスズナカが
「さっさと入って来いっ!」
苛立った顔で呼びつけた。
青い金属鎧姿の百九十センチ程の背丈の兵士が扉を開け入ってきた。そして、扉の近くに立つと大声で
「竜騎国南西部の大樹海奥から体長二十メートルほどで翼の生えた異様な生き物たちが、次々に姿を現し、近隣の街や村を踏みつぶしながら、この竜騎国王都グラムリスへとまっすぐ進撃してきております!」
立ち上がったユウジが嬉しそうな顔で
「雑魚警備兵たちは役立たずだな!?」
兵士は頭を軽く下げながら
「すでに七百名以上の死傷者が出て現地領主の指令で領民ともども抵抗せずに生き物たちの進路から退避させています」
スズナカが眉をひそめて
「その領主は処刑したほうがよくない?南西部なら無傷のまま降伏してるから、ちょっと私たち舐めてるっぽいし」
ワタナベが慌てながら
「いやいやいや、スズナカさん、それは人民を余計に殺させない中々なナイス判断だよ!あ、君!僕たちが現地に行くからそう伝えてね!」
「はっ!伝えます!」
男は頭を深く下げて、回れ右して退出していった。
ユウジが両腕を伸ばし軽くストレッチしながら
「じゃあ、謎の化け物をぶっ殺しに行くか」
スズナカはやる気なさそうに
「私、残るわ」
ワタナベが心配そうに
「大丈夫ー?」
「この城で一番強い兵士たちに不眠で私とファルナの部屋を守らせるから、そいつらが寝られなくて死ぬ前に戻ってきてねー」
そう言うと、右手をヒラヒラと振って食堂から出ていった。
「まあ、動きやすくていい」
ユウジはそう言って見送る。ワタナベが不安げに
「……心配だから、僕が造り出した銃を何丁か渡しておくよ。何か嫌な予感がするんだ……」
「……いいね。波乱の予感か」
ユウジは、そう言ってニヤリと笑った。




