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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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大悪魔

サンドワームの頭上から飛び降りたヤマモトが素早くタナベを肩車して流れるような動きで大剣を鞘に収め、大荷物を背負い直し、そして砂漠を高速で北へと駆け始める。

「で、上手くいったけどどうやったんだよ?

何であの芋虫の化け物が、あの場所に居たと分かったんだ?」

ヤマモトは前方へと砂を踏みしめ走りながら、肩車しているタナベに語りかける。

「……さっきの巨大芋虫の視点の実況動画の映ったブラウザと、ヌーグルで検索した巨大生物の現在地が分かるサイトを同時に二つ開いて交互にタップしながら、それぞれ見比べてた」

「……すげぇな。遅延もなしかよ。でも別にあの虫が配信機材で実況してるわけじゃないんだろ?」

タナベは笑いながら

「そうだね。実況動画のタイトルには"巨大サンドワームの生活を覗いてみた"ってついてて、このスマホの能力が勝手に生き物の生活を覗き見てる動画みたいだ」

「……あああああああ!羨ましい!羨ましすぎんだろ!なんでお前が、怪力で魔法が効かない身体じゃないんだ!?絶対、そっちの能力の方が人生楽しい!」

タナベは苦笑いしながら

「いや、リュウと委員長が居るから僕は何とか生きてるんだよ。これ以外には何にもないからね。リュウが居なかったら、さっきの襲撃で死んでたし」

ヤマモトはいきなりピタッと砂漠のど真ん中で止まると

「あ、さっきの船の上の二人、見覚えあるんだけど検索してもらえないか?」

「僕も黒魔術師の館のどれかで見たことある面子だったから、もうやってるけど、検索ワードが悪いのか画像検索には、二人とも引っかからないな」

「ほら、確か!ブラウニーだろあれ!レインボードラゴンジジイが言ってたやつ!」

「ああ、そうか……」

タナベは集中して、白い金属の塊をいじりはじめた。

ヤマモトは再び北へと走り始める。




船を立て直して荷物を載せた俺たちは北へ向け、あの二人の追跡はじめた。

「……あれほど、華麗にかわすとはな。恐らく、今頃、あの魔法の機械で調べ始めたタナベによって、我々の身元は割れているころだ」

ブラウニーは再び船の後部で立って操船しながら言ってくる。

俺は先頭で座り込んで、前方を眺めながら

「……ブラウニー、お前の魔力でどうにかしてくれ。俺はやつらを直接殺す手伝いしかできない」

「……まあ、焦るな。名前と位置が知れることが、即ち不利ではない。むしろ、戦術的に有利になることもある」

「ああ、勝手に向こうが襲撃して来てくれるからか」

俺が振り向いて、彼を見ると

「そうだ。それに我々の真実の姿を知ることで恐怖心が増すという作用もあるかもしれないな」

ブラウニーは砂漠を一羽飛んできたカラスを肩に着地させた。

そして何度か頷くと、カラスを西へと飛ばし

「……竜騎国が陥ちた」

「そうか……スベン総司令の予想より多少持ちこたえたな」

ブラウニーはニヤニヤ笑いながら

「……ここは、攻撃目標を変えてみるか。少し、投入が早まるが"彼ら"を使ってみよう」

「……いいのか?竜騎国が平らになるぞ……」

すでにスベンと共に"彼ら"については聞いているが、最初は自分の耳を疑った。

「……心配するな。"彼ら"では、あの三人には勝てないが戦力を多少削げるかもしれない」

ブラウニーは怪しげな笑いを浮かべる。


再び、砂漠を北上中のヤマモトたち

「ブラウニーの実況動画はないのか?」

「……検索してみたけど、ない感じだね。でも、ブラウニーのムキピディアは見つけた」

「マジか。俺もよくプロ野球選手の年間成績とか特徴とか調べてるやつだ。そこまであるのか……」

タナベは黙って、白い金属の塊の画面を見つめ


「……リュウ、ヤバいよこいつ。地上に出てきた、大悪魔だ……」


「悪魔ってデーモン的なあれか!?デビル的な!?」

ヤマモトが素っ頓狂な声を上げてまた立ち止まる。

遠くにはオアシスを囲んだ集落が見えている。

「十七階層ある逆さの楽土……つまりこの世界の冥界の下から二番目の主だ……正式名称は ブランアウニス虚無王……」

「……ゲームだったらラスボス的なアレだな!?心配すんなって!委員長と俺とお前が居れば余裕だろ!?」

顔面蒼白になったタナベが

「ムキピディアの経歴の一番下に"使役しているアンデッド、ターズその他を使い、異界転移者オクカワ・ミノリをジャンバラード城内、中庭にて破る"……って」

スッと冷静な顔になったヤマモトが

「……委員長のその後は?」

「今、名前からリンクを辿ってる……出てきた……そ、そうかユタカさんが救出して遥か遠方の地で療養中だって……良かった」

「あいつは、簡単には死なねーよ」

ヤマモトはそう言うと、真剣な表情で再び北へと走り出した。

瞬く間にオアシスの集落は横に通り過ぎていく。

タナベは心臓の辺りを右手で握って必死に

「大丈夫だ……大丈夫、僕たちはきっと大丈夫」

自らに言い聞かせていた。

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