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人間です


オクカワ・ユタカはまるで生き物の体内のように脈打つ壁に囲まれた

広い道を歩きながら

「運って言うのは流れがあると思います」

ポツリと呟いた。

グランディーヌが背後から

「何の話?」

すぐに尋ねると、彼は振り向かずに苦笑しながら

「ただのどこでも言われているような一般的な話ですよ。

 運気が良いときに上手く運をつかめば流れに乗って行けて

 そして運気が悪い時に、そっちに引きずられないようにする。

 どう思いますか?」

微笑んで振り返ってくる。

触手に繋がれて数十センチ浮きながらゆっくり飛んでいるクーナンは首を傾げて

「どうもこうもない。良いときに動いて悪いときは静かにしているだけだ」

ハーツも頷いて

「そうだね。でも、私は……ずっと運悪かったけどね」

グランディーヌが深くため息を吐いて

「"運"や"流れ"なんてものは存在しない。

 いつだって、悪い要素も良い要素も無数に転がっているし

 それらが如何様にも変えてくる。

 そもそも良いとか悪いという解釈自体が狭いと思う」

オクカワ・ユタカは立ち止って

「みなさん、素敵な考えですね。

 僕は運気という概念を持ち合わせています。

 なのでそれ前提に話しますけど」

「どうぞ」

グランディーヌが頷いた。

「天啓と言えるような瞬間って、僕のような人生にも何度もありました。

 病院で素敵な女性に会ったり、いつもの通り道で美しい光景を見たり程度ですが」

「いま、あなたは天啓そのものでしょ?」

冷静な顔でそう言ったグランディーヌに

オクカワ・ユタカは首を横に振り



「違いますよ。僕は天とか神じゃありません。人間です」



三人は黙ってオクカワ・ユタカを見つめる。

「僕には運気という概念はありますけど

 実はそれが好きではありません。なので今まで

 天啓と感じれば、全て振り払ってきました。

 進むべきだと示された方向へは絶対に行きませんでした」

「ひねくれてるねぇ……」

ハーツが同情するように言うと

「僕は人間です。僕は、僕の望むように人生を創りたい。

 僕は運気とやら……つまり誰かが造った概念の奴隷ではない。

 けれど地球では、僕は弱すぎてそれが叶いませんでした。

 なので、人間として僕は、この世界で自らの望みをかなえます」

グランディーヌはふーっと大きく息を吐いて

「立派。だけど急にどうしたの?」

「……この先にあるものを見る前に言っておきたいと思いまして」

オクカワ・ユタカは微笑んでそう返す。

「ああ……」

グランディーヌは脈打つ壁を見回して

「元大悪魔王ね……」

眼を細めた。

四人はまた進み始める。




ところ変わって嫉妬界。




パンツ一枚のネールが、煌びやかな服の大量に賭けてある中で

小じゃれた制服の女性店員から採寸されている。

「エンヴィーヌ杯に優勝するような服を頼む。

 金ならあるからのう。優勝したらさらに成功報酬で倍払うわ」

そう言ったネールから金貨を大量に渡された店員はニッコリ微笑み

「お任せください。明日までには仕上げてきます」

ネールは店員から渡された仮の服を纏い

ずっと近くでその様子を眺めていた俺たちに

「ん?どうした?戦略を多様化した方が可能性はあがるじゃろ?

 わしは他人に任せるという作戦じゃ」

ソーラに抱きかかえられた黒猫が

「まあ、昔からダサかったしにゃ」

ネールは余裕な顔で

「ふん。大悪魔にも得手不得手はあるわい。

 ほら、マロタベラも服着られる格好にならんかい」

「えーめんどくさいにゃー……あっ、思いついたにゃ」

いきなり、ソーラの腕の中から飛び出た黒猫は

身体の形状を瞬時に変えた。

ソーラが顔を真っ赤にして、俺の背中に隠れる。

そこには、サンガルシアを誘惑していた時と同じ

浅黒い肌と黒髪の女が、最低限の茶色い布面積しかない水着姿で立っていた。

「どうだ?私はセクシー担当だ。これで良いな?」

俺の近くに顔を近づけてきてニヤリと笑うと

またすぐに黒猫に戻って、今度はネールの頭の上に飛び乗る。

「はーっドキドキした……エッチすぎる服は何かダメなんだよね……」

ソーラはそう言いながら、

広い服屋の中で、服を探し始めた。

俺も探してみることにする。

どれも華美な服ばかりで、似合うようなものが無い。

最初に悪魔から渡されたこのツナギが最も俺には似合っている気がする。

上着は換金してしまったが、中にはシャツを着込んでいるので上半身裸ではない。

悩みつつ、とにかく並んでいる服を一枚ずつ丹念に見ていく。

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