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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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硝石

暗雲が垂れ込めた空の下、険しい山岳に囲まれた高い山の山頂に建つ古めかしい要塞を麓から三人の少年、少女たちが見上げている。

要塞からは煙が立ち上り、所々、その複雑に入り組んだ城壁は欠けている。

要塞の上空には、体長五十メートルほどの巨大な赤、黄色、青と三色のドラゴンが悠々と飛んでいて、時折こちらを見下ろしている。

彼らのすぐ横には、膨れあがった布袋がいくつも摘まれている。

「あーファルナちゃん、こんなところに逃げ込んじゃってそんなに僕の愛が怖いかい……」

両手にマシンガンを持ち、背中に小型のロケットランチャーを背負った迷彩服姿の小太りで小柄な短髪の青年が愛おしそうに要塞を見上げた。

長い金髪を頭上で団子状に結んだ中背の少女が

「キモ。つーか、もうめんどくさいわ。委員長、自分でやれっつうの。一人でできるっしょ」

脱力しながら大きくため息を吐く。

セーターを上に着た制服姿の彼女もスナイパーライフルを背負っている。

そして、その隣の身長百八十以上ありそうな黒髪を横分けにしてツーブロックに刈り上げた体格の良い制服姿の青年が

「……つまんねぇ。弱すぎてつまんねぇぞおおおおお!!」

いきなり、大声を要塞に向け放った。

その声にドラゴンの一匹が反応していきなり巨大な火炎弾を三人に向け連発して来る。青年は、ため息を吐きながら

「吸収……炎……」

三人に向かい轟音と共に迫る火炎弾に右手を翳す。

すると巨大な火炎弾は、彼の右手にシュルシュルと吸い込まれていき辺りは何事も無かったかのように静まり返った。

ドラゴンもそっぽを向き、再び、要塞上空を飛び始める。

「さっすが、サッカー部のエースキーパー!プロ入りも決まってたんだっけ!?」

小太りの青年が甲高い声で褒めると、体格の良い青年はやる気なく

「……いや、どんだけ頑張ってもプロチームの下部組織の奴らにはどうせ敵わんし。爺ちゃんの跡継いで大工になるか、反社会勢力になるか迷ってたところにこれだ。ほんと、人生つまんねぇわ……」

金髪の少女が腕を組みながら深く同意して

「ほんとだわ……私も卒業後に風俗行くか、一生バイトするか迷ってたところにこれだ。ほんと人生つまんねぇわ……」

青年の口真似をする。小太りの青年が焦りながら

「ちょ、ちょっとぉ……二人とも冗談キツイよぉ……僕たちは正義の使者なんだから言動にも気を付けないとぉ……」

そう言いつつ、自分の背後にマシンガンの狙いを定める。

次の瞬間には三人の背後に気配も無く、忍び寄っていた真っ青な鎧兜姿の女性兵士たちが鋭い槍を両手に持ち、横に水平に跳躍しながら綺麗な隊列を組み、突撃して来た。

「悪鬼いいいいいいいいいいいい!!滅せよ!!」

小太りの少年は、何の感情も沸いていない顔で右手のマシンガンのトリガーを引きそして、左右に乱射する。

「ぐっ……あああああ」

「ぎゃああああ……」

「きゃあああああ!」

瞬く間に女性兵士たちは、彼らの十数メートル手前で体中ハチの巣になって倒れていき、そして自分たちの血の海の中、絶命した。

「……よく、国家のためとか言って勝てもしない相手に、突撃してくるものだわー。尊敬するわー」

金髪の少女が脱力しながらそれを眺める。小太りの青年は

「……委員長によると、戦いを挑んできた兵士たちは死ぬ覚悟してるし、支配者層は負け戦の責任があるから気にせずに殺っちゃっていいってことだけど……なんていうか……」

そう言いながら、今撃ったマシンガンのマガジンを捨てると何もない所から新しいものを取り出して付け替えた。

捨てられたマガジンは地上に着地する前に音も無く消える。

その様子を隣で見ていた体格の良い青年は鼻で哂いながら

「みんな、人生つまんねぇんだろ。死に場所を探してるんだよ」

「そうー?私は、まだ死にたくありませんけどー?あっ、そろそろ、食べたら?」

「うぇー……嫌いなんだよ。そりゃ、一から作るより、遥かに効率良いけどさぁ……」

小太りの男は、マシンガン二丁を少女に渡すと脇の膨れあがった袋に右腕を突っ込んで漁り、その中から白く固まった石のようなものを取り出し口の中に入れる。

ボリボリと噛み砕く音を、少女は引いた顔で見つめてチラッと体格の良い青年の方を見た。

「ふふふっ。あれはつまらなくない。毎回、面白い」

口の中に石を含んだ青年は肩をすくめ、また食べ始める。

少女は金髪をかきながら、嫌そうな顔で

「私、委員長から聞いて最近知ったんだけど、硝石って、人家とか家畜のトイ……」

何かを言いかけて、振り返ってキッと睨んできた小太りの青年を見て、慌てて、口を噤む。

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