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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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145/166

吸収容量の限界


両掌を開いて、頭上を見上げているユウジに向けて

上空からまっすぐに落下していくサキュエラは

「あはははははははははははっ!!」

叫びながら、さらに巨大な火球となりそれで身を包み

速度を上げ一直線にユウジの頭上へと到達した。

ユウジは狂喜した表情で

「吸収、炎」

と呟いて、辺りを焼き尽くす業火にワタナベごと呑まれる。


数秒後

辺りの業火を瞬く間に全身へと吸い込んだユウジが

大きく息を吐いた。

「結局、死に損ねたか……」

パチパチと彼の身体の周囲は稲妻で覆われている。

寝転んでいたワタナベが起きだしてきて

「あ、もしかして全部吸い込んじゃった?」

驚いた顔で言う。

「ああ、今回も楽勝だった。

 術者ごと吸い込んだようだ」

ワタナベが、顔を顰めて

「それ、大丈夫なの?」

と言った瞬間に、ユウジの身体が膨れ上がり始める。

「お、おおおおおお!!」

低く唸りを上げるユウジの口や鼻の孔から

炎が大量に噴き出してきて、さらに身体は燃えながら膨れ上がっていく。

「は……?ひぃぃぃ……」

ワタナベは小さく悲鳴を上げながら四つん這いで逃げていく。

巨大な風船のように膨れ上がったユウジの身体は

燃え上がり、空高くまで巨大な火柱を立てだした。

北門の北に広がる悪魔やゾンビたちの横たわる荒野を

そしてドハーティーの細切れの死骸も焼き尽くしていく。

その火柱の中から、ニヤニヤと笑いながら裸のサキュエラが出てくる。

そして、小さく悲鳴を上げながらその光景を見つめるしかないワタナベに近づき

彼の身体にまたがると

その真っ青な頬にキスをして、耳元に囁くように


「どんなものでも限界っていうのがあるの。

 クマダは、以前に虚無王様たちの火柱を吸い込んで

 一度、火属性に関しては、吸収容量の限界に達してる。

 容器がひび割れてたのね。

 そこにもう一度、大量の火属性を突っ込むと弱っていた容器ごと割れて、

 はい、サヨナラって感じ」


そして、ブルブル震えるワタナベに

「ついでにあんたも殺したいんだけど、拡張した魔力ももうないし

 オクカワ・ミノリが余計なことし始めたから

 ここらで退却してあげるわ」

サキュエラはワタナベの身体から離れると

漆黒の翼を生やし飛び去って行った。

ワタナベは。失禁してその場で泡を噴き気絶した。



真っ青に発光しているエンヴィーヌと

ヤマモトたちが北門の近くへと到着したときには

悪魔とゾンビたちの死体に囲まれて気絶しているワタナベと

そして北の荒野を火柱で焼き尽くした跡があるだけだった。

「遅かったか……」

オクカワ・ミノリはそう言うとワタナベの頬を叩いて起こす

「あっ……委員長……ユウジ君が……」

ヤマモトがしゃがんで、ワタナベに詰めより

「おい、まさか死んだのか!?」

「うん……炎を吸収しすぎて、燃え盛って……。

 あと、モウスミルが……逃げ……た……」

とだけ言ってワタナベは気絶した。

スズナカが悲鳴を上げそうな口を手で必死に抑えている。

タナベが悲痛な顔で

「……僕たちも竜騎国の首都まで退却しよう。

 この消耗した状態でここに居たら、次は帝国兵たちに襲われる」

ヤマモトが頷いて

「城内に乗り入れた魔法船もってくるわ。

 お前らは、ここで待機していてくれ」

オクカワ・ミノリは大きく息を吐いて

発光したまま突っ立っているエンヴィーヌを指さすと

「アイスシールド解除、アイスエンチャント解除」

と言って、発光を消した。

「そっ、それもう消して大丈夫なの?」

パニックになったスズナカが尋ねてきて

オクカワ・ミノリは冷静な顔で

「たぶん、もう来ない。

 もしモウスミルに余力があったらワタナベ君も死んでる」

スズナカはまたナイフを取り出してエンヴィーヌに向け

「こ、こいつもう殺さない?」

タナベが首を横に振り

「いや、きっと逆さの楽土に戻したら復讐しに来る。

 だから、このままどこかに封印した方が良い。

 きっとユタカさんが良いやり方を知ってるよ」

「……うぅ、大丈夫かな」

スズナカはうな垂れる。





同時刻、竜騎国地下の空間内。




「ついたぞ。下への扉だ」

触手に繋がれて数メートル上を飛行しているクーナンがめんどくさそうに振り返る。

「ありがとう」

オクカワ・ユタカは礼を言って

クーナンが照らし出した古びたエレベーターの扉のようなものを見つめた。

その辺りには、壁に幾つかの古びた電灯がボンヤリと点いていて明るい。

「こっちが地下へと進む扉だ。

 それから私は上の通路から、棲み家に帰るから

 そろそろ解放してくれ」

グランディーヌが触手を引っ張って

嫌々着地したクーナンをグイッと自分の前まで寄せると

「……ついてきて欲しい」

「……悪いが、栄光のハーピー族は道案内じゃないんだ。

 お前らが強いのはわかったから

 もう解放してくれ」

「……分かった。股と胸と尻の辺り

 どの辺りの毛を毟ればいいか選べ」

「ちょ、ちょっと待て!

 解放の条件は私の毛なのか!?」

グランディーヌは真顔で頷いた。

「くっ、くそっ……下賤なお前らは知らんかもしれんが

 ハーピー族で服を着ているやつは二流だ。

 私のような皮膚の見えぬ剛毛こそが、ちょっ待て待て待て待て!行くから!行くからやめろ!」

触手を背後に回し、クーナンの尻の辺りの毛を引っ張った

グランディーヌに慌てて、折り畳んだ翼の先についた手を振り回して

クーナンは止めてくる。

オクカワ・ユタカが近くの壁を触り

「ありました。開きますよ」

扉を左右に自動で開かせた。

中は空っぽの錆びたエレベーター内のような金属の壁に囲まれた空間だった。

グランディーヌはクーナンを小突きながら中へと一緒に入って行く。

心配そうなハーツと、微笑んだオクカワ・ユタカも中へと入る

古びた扉は軋みながら自動で閉まった。




二時間後、斜陽界の紅葉が舞う山脈内の岩場。




「おっさん頑張れー頑張れー」

背中にしがみついているソーラが応援してくる。

俺たちは、いや俺は、険しい岩場を滑落しないように慎重に

登っている最中だ。

「早いなー!私が前に来た時は一週間はかかったのに。

 おっさんに任せてたら一日で終わりそうだ!」

「さっきのあの崖も登ったのか?」

「うん。お菓子と引き換えに、強い悪魔の兄さんたちに

 浮遊魔法かけてもらって」

「よく一週間も仕事休めたな」

「たまたま、斜陽王様が機嫌よくてね。

 数年前に一か月殆ど休暇になったことがあったの。

 何でも虚無王様から、久々に手紙が届いたとかで」

「……本当にここの王はあいつが好きなんだな。

 どこがいいんだろうか」

「おっさん、虚無王様と知り合いなの!?」

「一応な。虚無界を目指してる」

「お、おおお……私も見初められたらそっち行けるかな……虚無界って

 才能ある悪魔の宝庫なんだよ……」

「知らん。だが、連れて行ける所までは連れて行ってやる」

「優しいなー。やっぱり優しすぎて死んだの?騙されたとか?」

「……」

岩場を登り切ったので、安全な平たい場所まで歩いて行き

そしてソーラを降ろしてから

二人でそこに座り、遠景や歩いてきた岩場を見下ろし

「復讐だ。その途中で仇の一人に殺された」

「えー……そんなことするタイプじゃないでしょ?

 真面目な職人さんって感じの手や筋肉なのにー」

不思議そうにソーラは俺のゴツゴツした手を取って見つめる。

「職人だったのはもう前の話だな。

 ところで、ここからどれくらいあるんだ?」

ソーラは頂上まではまだまだある紅葉の美しい山脈を見上げて

さらに辺りを見回すと

「うーん……今のペースなら七時間くらいでいけそうだけど」

「そうか。下の界へと続く場所はやはり穴があるのか?」

「そうだよ!渦巻いてる大穴が開いてるの」

俺はゆっくりと立ち上がり

再びソーラを背負うと、目前に広がっている

紅葉した山林の中へと静かに分け入っていく。

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