仕上げに
竜騎国廃砦、ほぼ完全に崩れていて跡形もない西門。
「あははははーっ!!煉獄から来た子供たちも大したことないわ!!
たかが使い魔の私に手も足も出ないなんてねぇ!?」
そう叫んだ、城門跡の数メートル上に全身が炎に包まれて浮いているサキュエラの
その十メートルほど手前で血まみれのヤマモトがシルバーソングを微動だにせずに構えていて
更にその隣には、憎々し気にサキュエラを見上げるオクカワ・ミノリが青い光に包まれている。
さらにその数メートル後方で、城壁の瓦礫に隠れたスズナカがブルブル震えながら
「もう、にっ、逃げない?何あいつ、不死身なの?」
近くで倒れた血まみれのエンヴィーヌを解放するタナベに弱音を吐く。
「……いや、あの強さはおかしい。
あんなに強いなら、僕たちを最初から単独で襲撃してきて殺しているはず」
彼は冷静にそう言いながら、エンヴィーヌの太ももの傷口を縛る。
「ゆっ、ユタカさんが、封印された地下迷宮とかに行ってるからでしょ!?」
スズナカが青い顔でそう言うと
「……いや、何か強化装置や、または強化アイテムみたいなものを使って
一時的に強くなってるだけだと思う」
「検索してよ!あんたのスマホなら何でも出るでしょ!?」
「いや、ダメなんだ。間違いなくあれが悪魔のモウスミル大公のはずだけど
検索しても"この検索結果は権利者からの申し立てにより削除されました"
って文面しか出ない」
「なっ、なによそれ!?悪魔がヌーグルに削除要請したってこと!?」
いつの間にか二人の頭上に居たサキュエラが
「ざんねーんでしたー。私は悪魔じゃありませーん」
と言いながら炎の雨を降らせ始めた。
「ひっ……」
思わず頭を抱えたスズナカや冷静にサキュエラを見上げるタナベ
そして寝たままのエンヴィーヌの頭上に
真っ青で透明な膜がかかる。
そして
「氷の精霊たちよ、我が敵を切り裂き、
血の一滴までもその流れに加えたまえ、アイスストーム!」
オクカワ・ミノリがサキュエラ目掛けて
猛烈な雹交じりの竜巻を発生をさせ、遠くへと吹き飛ばした。
ヤマモトが三人へと駆け寄り
「大丈夫だったか!?」
タナベにだけ声をかけた。
「僕たちは大丈夫。またすぐに来るから
場所を変えよう、砦内なら簡単には好き勝手できないはずだ」
「こいつ、どうすんだ?」
ヤマモトは血まみれで倒れているエンヴィーヌを見つめる。
スズナカがナイフを懐から取り出して
「殺しましょう!!私の催眠がもし覚めたらきっと敵になるから!」
駆けてきたオクカワ・ミノリが
「……考えがあるの」
と言ってきた。
竜巻に呑まれて上空まで巻き上げられたサキュエラは
楽しげな顔でその渦巻にまわされ続け
事も無げに竜巻内の巨大な雹を溶かし続け
そして上空へと脱出すると
眼下に広がる廃砦の全貌を見下ろし
「ドハーティーの方が死んだかぁ。今のところ虚無王様の計画通りと。
あー凄いなぁ。じゃあ、私が仕上げにかかりましょうかねぇ。
褒めてくれるかなぁ……」
北門の方へと飛んで行った。
同時刻、斜陽界の切り立った聳え立つ崖。
「うわー凄いなー!全部見えるよー!
遠くに斜陽王様の城まで見える!
あっ、私の小屋も見えた……あれは見えなくていい……」
ソーラが俺の背中にしがみつきながら言ってくる。
もう数百メートル登った気がする。
「自分で登らないのか?」
「いや、だってさ、おっさん強そうだし
私一人くらい抱えてても居ないのと同じでしょ?」
「確かにそうだが……」
まったく疲れることもなく岩肌を登っていける。
そうこうしているうちにあっさりと崖の上までたどり着いた。
「見てみてよ!あっ、足元気を付けてよね!?
大事なパートナーが落ちたら
私の脱出計画がダメになっちゃうし、あ、引っ張っといてあげる」
ぎゃあぎゃあと五月蠅いソーラに後ろに腕を引っ張られながら
崖の向こうを見ると、確かに絶景だった
俺たちが歩いてきた紅葉の森が美しく広がっていて
遠くには夕暮れが射している枯れた蔦塗れの古城も見える。
古城のさらに向こうには、
みすぼらしい掘っ立て小屋だらけの集落が
レンガ造りの落ち着いた建物が並ぶ街に併設されている。
「あそこの集落だけ、浮いてるな」
「あれ、私の住んでる地区。ゴミ溜めって呼ばれてる」
「ああ……弱い悪魔が住んでるのか」
「うん……他の住人たちも雑用にこき使われてる」
「そうか。行こうか」
手を繋いできたソーラと黙って、崖の向こうに広がる枯草の草原の
さらに先に延々と伸びている一面紅葉の山脈へと歩いていく。
同時刻、竜騎国南東廃砦、北門付近。
ワタナベが次第に巨大になっていく火球が降下してくる空を見上げながら
「ああ、嫌だなぁ。たぶんモウスミルがこっちに落ちて来るよ」
ピストルを上に向けて構えた。
しゃがんでいたユウジが立ち上がり
「西門に皆を引き付けてエネルギーの切れた俺たち狙いか。
最高の死地じゃねぇか」
両眼を輝かせて、頭上へと手を挙げた。
ワタナベは諦めた顔でピストルを消すと
「ユウジ君、あとは頼んだよ。僕は寝ることにする」
その場にゴロンと横になった。
辺りにはゾンビや悪魔たちの死骸が折り重なっている。
「……それじゃ誤魔化せんぞ」
ユウジがニヤリと笑うと
「やってみる価値はあるでしょ。寝てるうちに死ねるなら楽だし」
ワタナベは両眼を閉じて本当に寝始めた。
ユウジは両腕を火球の方へと掲げたまま月夜を見上げ
「来い!俺に最高の死地を与えろ!」
と吠える。