表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/166

ごめんなさい

グランディーヌの首元から上へと伸びる紫の触手で

足元を縛られたクーナンが

嫌そうな顔で三人を先導している。

「あのさ……何でグランディーヌちゃんは触手使えるの?」

ハーツが小声で尋ねると

「これは私の身体的な能力で、別に魔法でも特殊能力でもないから」

グランディーヌが事も無げに答えた。

「そ、そうか……」

「昔、虚無界でアシュラドアにも同じ質問をされた。

 私が試合をしていたサンガルシアの封印魔法が

 効かなかったように見えたから」

ハーツがビクッとして

「あっ、あの方は別に嫌なこともしてこなかったけど

 何考えてるか分かんなくて怖かったね……」

グランディーヌは薄く笑いながら

「サンガルシアは考え過ぎで、アシュラドアは考えなさすぎ。

 あいつらは相性が悪そうでとても良かった」

「……すっ、すごいなー……私は大悪魔様たちを観察する余裕なんて……」

隣を歩きながら黙っていたオクカワ・ユタカが微笑んで

「グランディーヌさんの本来の能力は微塵も見せていないのでしょう?」

ふっと尋ねてくる。

「……まあ、貯めこんでる魔力の無駄遣いは避けたいし

 今のところ、私の力が必要なほどの事態にもなってない」

「そっ、そうだったの!?」

驚いたハーツの声に、触手に繋がれて前方を飛んでいるクーナンが

迷惑そうな顔をして振り返り

「そろそろ、迷宮への扉だ」

とボソボソ言ってくる。


迷宮への高さー三メートルほどの錆びた金属扉からは

無数の髑髏が浮き出ていた。

「ひっ……」

驚いたハーツに着地して翼を畳んだクーナンが満足そうに

「引き返すなら今だぞ?」

オクカワ・ユタカが近づいて、髑髏のひとつの額に触れると

「……違うな」

と言いながら、他の骸骨の額にも次々に触れていき

「これだな」

額が矢じりか何かに貫かれたようにひび割れている

髑髏の額に触った。

同時に錆びた金属扉は上へと上がって開いていく。

「よっ、横に開きそうだったのに……」

「くそっ……お前ら、私を捕まえた意味ないんじゃないか」

クーナンは呆れた顔をしてくる。

グランディーヌが無表情で

「心配しなくても色んな用途に使える。

 盾にしたりとか、枕にしたりとか他にもいろいろ」

「なっ、栄光のハーピー族を便利な道具扱いするな!」

オクカワ・ユタカは微笑みながら

「何か明かりが点く道具は持ってますか?」

扉の先に出現した暗闇を指した。

ハーツたちもクーナンを見つめる。

「わっ、分かったよ!栄光のハーピー族はこんな能力もあるのだ」

ピカーッと両眼を光らせた。

「お、おおお……」

心底驚いているハーツにクーナンは満足そうにニヤリと笑うと

超低空飛行しながら、触手に足を繋がれたまま先導し始めた。




同時刻。竜騎国南東の廃棄された砦周辺の戦場。



「いっけええええええ!ケイオスストーム!!」


オクカワ・ミノリが夜空へと巻き上がる何本もの竜巻を操りながら

北から迫る鬼や悪魔たちを一掃していく。

辺りには切り刻まれた死骸が広がり

それらが雲の無い月夜から照らされてまるでこの世の地獄のようだ。

オクカワ・ミノリは掃討し終えると、両手を降ろして竜巻を小さくしていき消し

右手の甲で額の汗を拭う。

「こんなもんでいいかな。帰ったらお兄様に褒めてもらおう」

次の瞬間には背中に現れた気配に振り向く暇もなく

右の脇からナイフを胸に向けて刺されていた。

「ごっばっ……」

ナイフを刺した黒いマントを羽織った旅装続姿のハモは

「帝国の恨みを思い知れ……」

と言いながらナイフを抉って傷を深くしていく。

オクカワ・ミノリは振り向こうとして、そのまま力尽きて倒れた。

ハモはナイフを抜き、その体を冷酷な眼で見下ろす。

そして近くに降下してきたドハーティーとターシアを振り向いて

「……やりました!」

と言った瞬間に、いきなり背後で立ち上がったオクカワ・ミノリの

鬼気迫る形相から放たれた巨大な炎魔法に包まれた。

瞬時にその炎の塊に詰め寄ったドハーティーが桃色に発光する刀を一閃して

服が焦げた孫娘を救出して、ターシアのいる位置まで下がると

「エバーヒールじゃな。

 厄介なものを体に埋め込んだものじゃ」

ターシアがため息を吐きながら

十メートルほど先で、口から黒い塊を吐き捨てたオクカワ・ミノリを見つめながら

「自分が瀕死になったら、魔力を溜めた魔法具で

 リビラストも発動するようにしてるわ。今それを吐き捨てたでしょ。

 どっかの誰かさんがオースタニアで仕損じたから、より防御策を練り込んできたわね」

「ハモ、いけるかの?」

ドハーティーは自分の両腕の中の孫に声をかける。

ハモは薄目を開けて

「……い、いけます……」

「無理じゃな。良いか?覚えておくんじゃ。

 例え死骸になっても、敵に背を見せてはならぬ。

 大魔導士を侮った結果、お前はこうなった」

「……すいません……おじい様……」

ハモはそう言って気絶した。

「ジジイ、撤退する?

 名前の無きものの罠にばっちり嵌ってて援護もなさそうだし

 三体一なら確実に殺れたけど」

鬼気迫る形相で両手を掲げてブツブツと呟き始めたオクカワ・ミノリを

ターシアは嫌そうに見つめる。

「孫を頼む。安全な場所まで連れていったら

 ここへとすぐに帰ってきてくれ」

「知らないわよ。あいつの唱えてる禁呪

 唇を読む限り、多分光と闇の混合魔法なんだけど」

ターシアはそう言いながら、サッとハモを受け取って

上空へと去って行った。

ドハーティーは桃色に光りだした刀を両手持ちして

横向きに構えながら

「……思い出すのぉ……帝国の魔道殺しと呼ばれた若き日を」

ニヤリと笑った。


猛烈な痛みと不意に襲い掛かってきた死の恐怖と

恐怖と怒りと悲しみが一気に噴き出したオクカワ・ミノリは

混乱の海の中に居ながら、とにかく生き延びようと

無意識で知っている魔法の中で最強の禁呪を唱えていた。

そして


「……全ての陰陽よ、全ての慈悲よ、全ての悪意よ。

 拡大され、拡散される解釈を分解して混ざり合わせ

 我が道の果てにあるものを滅したまえ……

 デュアルフォーセス……」


辺りが白い閃光と真っ黒な瘴気に同時に包まれて

ドハーティーの足元にも瞬くに迫ってくる。

ドハーティーはそれに一切触れずに、桃色の刀を一閃し続け

「ははははは!伝説の堕天使の禁呪か!

 生きているうちにまみえ様とは!」

嬉し気に叫びながら、瘴気と閃光を切り裂きつづけながら

オクカワ・ミノリに迫っていく。

それを彼女はボーっと見ていた。

死が迫ってくる。

あっさりと自分の全力を乗り越えながら

死は狂気の表情をした老人の姿で桃色の刀を振り回し

光も闇も切り裂きながら自らに迫ってくる。

目前にまで死が迫った時に、オクカワ・ミノリはボンヤリと

まだ生きたいな……と思った。

それと同時に兄の声が聞こえたような気がした。


「ミノはやっぱり分かってないなぁ……そんな戦い意味ないのに」


お兄様、そうですね。結局世界をよくするなんて

私たち子供の傲慢でした。

世界は良くなりません。でも悪くもならないです。

そこに住む人々がそう望んでいるのなら。

余計なお世話でしたね……他所から来た我々が世界を救うだなんて。

「ははははは!!()ったぞ!」

光と闇を掻い潜って切り裂いてきたドハーティーが

自らの首元に刀を当てて、首を斬り落とそうとした瞬間


「パラリジィ……」


という兄の声が脳裏に響いて

ドハーティーは泡を噴きながら、その場に崩れ落ちた。

ピクピクと痙攣しながら、足元にうつ伏せに転がった老人を

オクカワ・ミノリは、今起こった現象に

驚きも喜びも悲しみもない顔で

しばらく見下ろして、先ほどハモから刺された脇の痛みに我に返ると

「ごめんなさい。……アイスナイブズ」

と呟いて、巨大な氷の刃を点から幾重にも老人の背中へと降り注がせる。

ドハーティーの身体はグチャグチャに分断されて

そして痙攣も呼吸も、当然のことながら永遠にしなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ