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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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135/166

それ相応のもの

目覚める。

きちんと下の階層へと来られたのだろうか。

上半身を起こして、辺りを見回すと

石造り街の廃墟が広がっていて、そこら中が燃えている。

近くからサンガルシアの声で

「加虐界やな。被虐界の逆さの法則の世界やで」

そう言って彼は燃えていない方の手を差し伸べてきた。

「そうか……」

俺は手を引かれて立ち上がる。

「まあ、難しい話は省いて、道中カットしよか」

「頼む」

と言う前にサンガルシアは空へと舞い上がっていた。

山河も廃墟もそこかしこが燃え盛っている。

散見される体の各部位が腐った亡者たちは、殺し合っているようだ。

「ここまで三時間ちょっとや。いいペースやと思うで」

「悪魔たちが居ないな。過食界から続いて」

サンガルシアは笑いながら

「だから、お前が降りやすいんや。

 分かるか?虚無王様のお陰やで?」

「……ああ、地上へと進行する準備をしてるんだったか」

「そういうことやな。

 煩わしい悪魔や王たちは大半がそっちへと集められとる。

 ああ、過食界の王はわざわざお前に会いに来たけどな」

「……さっきの爺さんだな?」

「そやな。過食界は天界への食糧供給庫でもあるんや。

 亡者たちを肥しにして、食いもんを作っとるわけや。

 なので戦ごとは免除されとる。

 とはいえ、過食界の悪魔どもは好き好んで準備に参加しとるけどな」

「……何でだ?」

「出世したいがためや。例えば煉獄から来た子供たちを一人でも殺してみ?

 大金星で、小悪魔でも大悪魔に出世できるんや。

 能力もそれ相応のものが与えられるしな」

「……そんなことが可能なのか」

頷いていると、サンガルシアは笑いながら

「実際はほぼ不可能やな。

 もっと上の能力の悪魔からこき使われてやられて

 逆さの楽土に帰るだけやろうな。

 俺もそうやけど、悪魔としての能力は

 こっちに堕ちてきたときに、予め器が決まっとる」

「……」

黙り込む。

遠回しに何かを伝えたいのだろうが、察する余裕がない。

考えていると、眼下の燃え盛る街は通り過ぎて

無数の、それこそ数えきれないほどの

亡者たちが殺し合いをしている草原の上空に連れてこられた。

腕を取られ、上半身を叩ききられても、

踏まれながら戦い続けている。

サンガルシアはそれを見下ろしながら

「……納得いくまで戦って死ねたら

 下へといけるで。覚悟はええか?」

「……ああ、必ず下へ行く待っていてくれ」

サンガルシアは降下して行って手を離した。

俺は三メートルほどありそうな巨人の肩に飛び降りて

その背中を蹴って、近くの死にかけの右手の無い亡者の左手から

錆びた剣を奪い取って、俺は殺し合いをしている亡者たちの群れに加わった。




同時刻、帝都大会議場。



将軍たちや、高官たちから

地方の小領主までほぼ全員が出席されて開催されている会議の中心で

無数の濁った瞳に囲まれながら

ど真ん中に立った真っ赤なローブを着て

髪を美しく盛ったサキュエラが、両手を高い天井へと掲げ

妖しげな美しい小さな姿からは信じられぬほどよく通る声で

「もはや、竜騎国の横暴は看過できないところまできつつあります!

 煉獄から来た子供たちを引き入れ、国家を再建しているのです!

 何という恥知らず!何という無道!!

 我ら正義の帝国が、図に乗った者どもを完膚なきまで駆逐するべきです!」

グルッと周囲を何段にも囲む一癖も二癖ありそうな老若男女が座る席を見回す。

その後部の高い席に座る真っ青な軍服を着た恰幅の良い禿げた老人が手を上げる。

サキュエラは彼を指さして

「どうぞ、ソーン大将」

老人はゆっくりと立ち上がると低い声で

「……モウスミル大公、失礼だとは思うが、わが軍は

 前回の防衛線でオースタニアから受けた傷がまだ癒えておらん。

 長城も失ってしまった。

 さらにはスズナカの支配下にあった高官たちは皆死んだ。

 どこに、巨大戦力を手にした竜騎国を攻める兵力が残っているのかね?」

サキュエラは妖しげな笑みを浮かべると

「……そこは、問題ありません。

 わたくしが、東方の黒魔術兵団とすでに話をつけております。

 二万七千の精鋭兵たちが、すでに帝国北部を迂回して分散しながら

 煉獄から来た子供たちの潜む廃砦付近へと集結しつつあります。

 帝国の兵団はオースタニアを警戒しつつ、後方支援に徹してくれれば良いのです。

 それに、この場にはいらっしゃいませんが

 ピラティ・ドハーティー卿も、"帝国七勇士"を結集して

 参戦する予定だそうです。他にも私の伝手で勇者を大陸の各国から呼びます。

 それらの費用は、帝国の穀倉庫である我が領地の

 収入から賄いますので心配には及びません」

大会議室内がどよめく。

サキュエラはニヤリと笑って

「では、反対意見がないのならば、決定ということで

 皇帝陛下へと言上いたしますが?」

誰も言葉を発しない。

サキュエラは静かに頭を四方へと下げると

退出して行った。

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