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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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13/166

神そのものの存在

真っ白な光が消え、いつの間にか、激しく痙攣しているオクカワを抱きかかえている痩せた若い男が目の前に居た。

薄茶色のベストと、白いスラックス姿で背は高くも低くも無く、真ん中分けにした髪は真っ白だ。

男は顔を上げその整った細面を俺に晒してくる。眉毛まで真っ白で、瞳は茶色だ。

「……ああ、そうか」

気付いた顔で若い男は

「……あなたは、アンデッドなのか。動いてはいるけれど、生きていない。だから、ミノリに毒を飲ませるほどに憎んでいるのにブラックハンズの効果が無かった」

その腕の中でオクカワは痙攣している。

俺は若い男の異様な雰囲気にその場に固まったまま動けない。

「ミノリから、毒を取り除く合間に少し、僕たちの話を教えますね」

若い男は、そう言うと

「……ヴィブラツィオーネ」

ボソリと何かを呟いた。同時にその腕に抱きかかえられているオクカワの身体が細かく振動し始める。

「オーディナメント……」

若い男が続けて呟くと、さらに振動を激しくし始めたオクカワの全身から湯気が立ち始めた。

俺は、若い男の圧倒的な雰囲気に圧倒され一歩も動けない。

「僕は、見た通り、生まれつき色素の弱い身体です。それに、内臓に幾つも持病を抱えていました。週に三度ほど短時間、学校に通う以外は病院と生まれた我が家を行き来しつつ、本を読んだりして主に室内で過ごしてきました。ミノリは、そんな僕に外の世界を精一杯生きてその様子を教えてくれる素敵な妹なんですよ」

若い男はそう言いながら、振動して蒸気を立てているオクカワの身体を愛おしそうに見つめる。

「……残念なことに、妹の友人たちは、一人を除いて侵略行為は復讐の繰り返しを呼ぶだけで、まったくの無意味であるという、僕の意見を聞き入れてはくれませんでした。このミノリもです」

俺は一切動けない。まるで、この男の話が終わるまで聞かなければいけないように体が動いてはくれない。

意識も強制的に、この若い男の言葉に集中させられている。

若い男は憂い顔でため息を吐くと俺を見て

「……きっと、僕があなたから救ったこの元気のいい妹は性懲りもせず、あなたたちに復讐を企むでしょうね。仲間たちと共に」

今すぐに逃げ出したいが身体がそれを許さない。

「僕は分かっています。あなたが、僕たち全員を殺すまで決して、戦いを止めないであろうことも」

若い男は、振動と蒸気噴出が収まったオクカワを両腕で抱えて抱き上げ俺にニコッと微笑むと

「……妹たちと遊んであげてください。その手帳は預けておきます」

オクカワごと、真っ白な光に包まれて消えた。


ようやく、異様なプレッシャーが消えその場にガクリとうな垂れる。

な、何だあれは……まるで神だ。ちっぽけな蟻になった気分だ。

あの男は、きっと、俺を何のためらいもせずに一秒かからずこの地上から完全に消せるだろう。ブラウニーたちですらそうだ。

いや、この城だって一分かからず制圧するだろう。

震えが止まらない。

あ、あれが、オクカワ・ミノリの兄なのか……。

あんな神そのものの存在が兄なのか……。

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