表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/166

ガソリンタンク


同時刻。

南の大砂漠地帯


頬に深い切り傷のある真っ白な羽根で造られた帽子を目深に被った女が

白いシャツの下のショートパンツから伸びた長い両足を投げ出して

ダルそうに小舟ほどの大きさの魔法船の先端に乗っている。

地上から数十センチ浮いている魔法船は舵が勝手に右へ左へと動き

自動操縦のように砂漠の起伏の激しい地形をゆるやかに走っていく。

「あーやってらんないわ」

女はポツリと呟いた。

「来たくもない異世界で

 だっさい能力を貰った挙句に、けんぼうじゅつすう?やらされて

 恨み買いまくって、悪魔たちから殺されかけて

 頬に傷まで残されて、それで決死の逃亡生活?

 はぁ……死んだ方がマシかもね。そろそろ休憩するわー。

 海岸沿いにでも停めてー」

女が帽子を取ると、頭の上に結われた金髪が露出して

スズナカだと分かる。

魔法船は緩やかに大砂漠を進み続けて

そして水平線を望む海岸の近くまで自動でやってきた。

自動で停止した魔法船からスズナカは帽子を被り直して降りる。

波打ち際までスズナカは歩いていくと

大きくため息を吐いた後に、遠くから肌色の大きな何かが波に打ち寄せられて

こちらへと流されてくるのが分かる。

「何あれ……ああ、死体か」

面白くもなさそうに、スズナカは

近くに漂着してきた全裸の女の遺体を

少し離れた場所からしゃがみ込んで眺めた。

「まだ形が保たれてる。水も全然飲んでない。

 死んでそんなに経ってないなあれは」

そして、いきなり思いついた顔をして、魔法船へと駆けていくと

漂着した死体の近くまで魔法船を近づけさせて

腹を押し、水抜き下死体を魔法船の後尾へと、力を入れて担ぎ上げた。

そして、その体中の穴という穴に魔法船の後部のタービンから

伸ばしてきた管をグチャグチャと音を立てて入れていく。

さらに死体が落ちないように船の欄干に荷物から

縄を取り出して縛り付けると

「……ふん。よろしい。魔法力を吸わせてねー。

 ガソリン代わりに頑張って頂戴ね。

 行き先、変更なし、大陸最南端の街ターズリン」

前方に寝そべった山根がそう言うと、魔法船は再び動き出した。



一時間後。



エンヴィーヌは「カリカリカリ」と言った音でふと目覚める。

確か、船に乗ってワナンから大陸に渡ろうとして

そして猛烈な嵐に巻き込まれて破砕した船から投げ出されて……。

無事だったらしい。この仮初の身体の高い再生能力が失われていないことに

彼女は感謝しようとして、すぐに止めた。

逆さの楽土に置いてきた本体ならば、嵐そのものを消し飛ばせるのだ。

感謝ではなく、恨むべきだろう。無能女神を、そして

にっくきブランアウニスを。

空は青い。風が肌を直接刺していて寒い。

服を着ていないのか……嵐の海ではぎ取られたらしい。

移動している何かに乗せられているようだ。

全身から急激に力が抜けている感じがする。

口や耳、鼻の穴から、へそからその下の穴まで

管に繋がれているようだ。

この感じは知っている魔法力を吸われている時だ。

微かに上半身を起こすと、どうやら魔法船のようなもので

カリカリカリという何かを削る音は前方に胡坐をかいて座っている女が

乾燥させた木の実か何かを齧っている音らしいと気づく。

……ふんっ、暢気に喰ってればええわ。

自分がこの後、死んでこの魔法船を奪われるのも知らんで。

エンヴィーヌは心の中で嘲笑いながら

まず縄を力任せに解こうとして、それが無理だと気付いた。

オクカワ・ユタカに悪魔の能力を封印されたままだ。

クマダ・ユウジに二度も不覚を取ったのも

この人間程度まで下げられて抑制された身体能力のせいのはずだ。

彼女はどうにかして、一糸まとわぬ状態で

縄からすり抜けようと藻掻き始める。

コトンッと音がした時は時すでに遅しだった。

ゆっくりと、目深に帽子を被った女が振り返ってきて

「おおー生きてたのかー。じゃあ、もっかい死ぬまで

 人間ガソリンタンクとして頑張ってねぇ」

ニヤーッとした嫌らしい笑みを浮かべてきて

自分の顔に手を翳した次の瞬間には意識が飛んでいた。





同時刻。




二百の小型魔法船に乗る千二百人のオースタニア精鋭兵たちと

俺も陸上を走る高速魔法船に乗り、その先頭で竜騎国国境付近の山道を進んでいた。

この中型の魔法船の操縦は何とドハーティーがしていて

つまらなそうなターシアが前方に座る俺の隣に座り眺めている。

ハモは船の後尾で後ろからついてきている兵団を生真面目に見守っている。。

「多分、魔法生物があの雑魚悪魔連れて話し合いに来るわよ」

ターシアがポツリと呟く。

「……谷でも煉獄から来た子供たちに加勢してたんだろ?

 そろそろ殺していいか?」

「……まあ、ご自由にどうぞと言いたいところだけど

 あんたブラウニーには恩があるんでしょ?」

少し考えて

「いや、無いな。……ああ、弟子を救ってもらったことは感謝している」

と答えると、ターシアは乾いた笑い声を立てて

「その力を与えてもらったことは微塵も感謝してないのね?」

「そうだな。あいつが勝手にやったことだ。

 あいつも感謝してほしいとは思ってないだろ」

「つくづく変な関係ね。

 とにかく、ブラウニーに恩があるなら

 魔法生物と小悪魔殺すのは止めなさいな。あいつの策略の一部よあれらは」

「分かった。だが、拘束はさせてもらうぞ。

 その後に南部を制圧する」

「それがいいと思うわ。ってか、敬語ぐらいつかいなさいな。

 オースタニアの守護天使よ?私」

「知らん。俺は煉獄からきた子供たちを全員殺して

 最後は逆さの楽土に堕ちるだけだ。

 王国の人々には敬意を払うが、天使とか悪魔とかは関係ない」

ターシアはまた乾いた笑いを立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ