透明な
しばらく黙って、二人で応接間に座り
お互い何も尋ねようとしない、無言の時間がさらに流れる。
仕方がないので、ハモを誘い、外で武術の訓練を始めることにする。
庭に居る数人衛兵たちや、ちょうど庭仕事をしていたトムにも
一応、二人で武術の訓練をするので邪魔しないで欲しいと断り
裏庭の、広いスペースへと二人で移動して
「じゃあ、かかってきてくれ。
あくまで組み手で頼むぞ。お互いケガをしたくない」
「……分かりました」
ハモはスゥーッと大きく息を吐くと
次の瞬間には俺の足元に詰めて来ていた。
スッと、バックステップして避けるとまるでそれを予測していたかのように
土を蹴って、俺の頭目掛けて正確にパンチを放ってくる。
何とか右横へと避けて、軽くハモの身体を横に押して
吹き飛ばした。
体勢を瞬く間に立て直したハモは着地すると
「……やりますね」
悔し気な顔を向けてくる。
「……色々、あったからな」
多少は戦いの経験も培ってきた。
「続けていいでしょうか」
ハモに頷くと、さらに鋭い打撃を繰り出してきた。
俺も集中して避け続けていると
「楽しそうなことを、そちらもしていますね」
オクカワ・ユタカがいつの間にか横に立っていた。
ハモはサッとオクカワに向けて身構える。
オクカワは微笑みながら、軽く頭を下げて
「臨時で、ターズさんの執事をしている
オクカワ・ユタカと申します。
……ハーモニー・エレナ・ドハーティーさんですね」
「……」
ハモは身構えたままオクカワを睨み上げる。
「これから、よろしくお願いしますね。
では、僕は用事があるので」
真っ白な閃光を一瞬放って、オクカワはその場から消えた。
ハモはその場にへたり込んで
「こ、怖すぎる……」
あの異様なプレッシャーをハモも感じていたようだ。
「そんなに長い期間居るわけじゃないはずだから
堪えてくれ……すまない」
そう願うしかない。
同時刻。
ワナン共和国の西へと続く狭い山道。
人けのない山道を歩くワタナベたち三人の背後に
布袋を背負ったエンヴィーヌが隠れながら尾行している。
「くっ、くそ……こんな屈辱をわらわが受けるとは……」
顔をしかめて、エンヴィーヌは木々に隠れて追いかけている。
その数十メートル先を歩くワタナベたち二人の背後で
荷物を背負っているユウジが
「ゴン……さっきの派手な顔をした女、ついてきてるな。
バレバレだ」
背後を振り向かずに告げると
ワタナベも振り向かずに頷いて
「そうだね。どうしようか、二秒あれば狙撃できるけど」
「……どういう勢力の刺客か分からないから
俺がもう一度、ボコボコにして
追跡できないようにそこらの木に縛り付けておく」
「分かった。ユウジ君、僕らは先に行くから」
ワタナベはユウジから布袋を受け取ると
ノウランと連れ添って先に歩いて行った。
ユウジは振り向いて、山道のど真ん中に立つと
「おい!相手してやるから出てこい!」
エンヴィーヌはニヤリと笑って、布袋の中から
刃先の無い槍を両手持ちして
木陰から出てくる。
二人の間は約二十メートルほどである。
「……そなたを殺しに来た!!」
エンヴィーヌはブンブンと槍を器用に振り回しながら
ユウジに声をかける。
彼は黙ったまま、腰を落として
次の瞬間には、エンヴィーヌの顎の下まで間合いを詰めて
「えっ……はっ!?」
戸惑っているエンヴィーヌの顎に正確にパンチを当てた。
一撃で気絶して倒れ込んだ女をユウジは見下ろして
「縄持ってくるの忘れたな、埋めるか……」
山林へと抱えて持っていき
そして、少し開けた場所の土を数発全力で殴って
衝撃波で大穴を開けると
エンヴィーヌをその中に入れて、首だけ出して
土を踏み固めて埋めた。
ユウジは黙って、刃先の無い槍も含めてエンヴィーヌの荷物を背負おうとして
いきなり身体が微かに斬れたことに気づく。
「何だ……?」
荷物を解いて、確認しているとまた指先が傷付いた。
「……透明な……刃?」
ユウジは柄しかないナイフを近くの草にサッと振ってみて
そして、自分の掌に軽く近づけてくと
チクっと痛みが走った。
「もしかして、他の武器もか?」
同じように慎重に確認して、ユウジは
荷物の中から槍型、短剣型、そしてブーメラン型の
三本のニンゲンスレイヤーを発見した。
「まさか、俺にしか効かない武器なのか?
……いや、待てよ。もしかして、俺たちにしか……」
ユウジはその三本の武器だけを慎重に布袋に入れて
その場を足早に立ち去り、ワタナベたちを追っていく。




