ファルナ王女
四人はすぐに
ファルナ王女だとターシアが言った少女を
寝袋から出して起こした。
そして、タナベが金属の塊を見ながら
「解呪の方法は花を……顔の上に置いて、匂いをかがせながら
強く念じながら、起きろと叫ぶこと……やってみよう」
グランディーヌが頷いてから
サッと荷物の袋の中から、小瓶を取り出し
その中から、少し萎れた青く光る花を少女の鼻の上に置く。
そして、全員に目配せして、意志を確認し合う。
「起きろ!」
と四人は同時に叫んだ。
しばらく何も起こらずに焦れたヤマモトが
「おい……ヒサミチ、このやり方」
と尋ねようとした瞬間に
少女はパチリと目を開けて
「……あ……ここは……」
まずはハーツの角に目をやって少し驚いて
上半身を起こすと身構える。
グランディーヌが冷静な顔で
「私たちは敵ではない。あなたの親友のイエレンも救出した。
外の温泉に浸かっている」
テントの入り口を指さす、少女は薄着のまま裸足で
外へと駆けて行き、四人もそれを追うと
「イエレン!イエレーーーーーンッ!!」
少女は大きく手を振りながら激しい涙声で
テントの数百メートル向こうで湯につかっているイエレンに向け
湯気の出ている温かい岩場を駆けだしていった。
イエレンも温泉の水を跳ねながら立ち上がり
「ウオオオオオオオオオオォオオオォォオンンンン!!」
地鳴りのような鳴き声を空へと放った。
すぐに温泉の中へと戻り顔だけ出したイエレンの巨大な鼻先に
少女は抱き着くと
「良かった……本当に生きててくれて良かった」
イエレンは細めた両眼から大粒の涙をこぼし少女の体まで
それが伝い、服がびしょぬれになっていく。
追いついたハーツが両眼を拭いながら
「な、何か……凄く、良いことしたみたい……」
グランディーヌは頷いて
「その通りだけど、これまでの説明がすごく大変」
少し後ろで何とも言えない顔をしているタナベとヤマモトを見つめた・
二人は苦笑いする。
十五分後。
イエレンの鼻先に抱き着いてキッと二人を見つめる少女に
タナベとヤマモトはうな垂れながら正座している。
ハーツはアワアワと辺りを行ったり来たりしていて
グランディーヌが冷静な顔で
「ファルナ王女、二人は反省しています。
なので、悪魔であるハーツちゃんを、そして
虚無王様の造った魔法生物である私を仲間に引き入れ
傷付いたイエレンをこの場所へと助け出し
さらにワタナベたちからあなたを救い出し
あそこに控えているワイバーンのラーヌィですら
自らの仲間に引き入れたのです」
そう、説明すると
「信用できませんっ!!
その二人も煉獄から来たのでしょう!?
しかもオースタニアを攻め滅ぼした悪鬼です!
私は、イエレンと共に竜騎国へと戻ります!」
イエレンがため息を吐くように軽く鼻息を出して
その鼻息に押し出されるように、ファルナ王女と呼ばれた少女が
驚いた顔で背後を振り返ると、イエレンは大きな両目で少女を見つめ
「ファルナ……見てきたが、その二人に悪意はない。
大方、仲間に利用されていたのだろう……許してやれ」
囁くような、しかし大きく低い声で言った。
ファルナはイエレンをもキッと見つめると
「嫌だっ!私は絶対に煉獄から来たこやつらを許せぬ!」
イエレンは微かに竜の巨大な顔を歪め、困った表情をした。
グランディーヌガ仕方なさそうに
「どうしたら許してくれるの?
悪いけど、あなたが今竜騎国へと戻ったら
ワタナベが必ず、あなたを奪い返しに来る。
そうしたら、またあなたの国を舞台に血みどろの戦いが始まる。
王女として、二回も国を存亡の危機に陥れるの?」
「くっ……くぅ……」
悔し気に唇をかんだファルナに
グランディーヌは畳みかけるように
「だから、どうしたら許してくれるか教えてくれる?
今なら、この二人のとてつもない力を無条件で
あなたの国のためや、世界のために使える」
ファルナは力を抜いて諦めたように
「わかりました……少し、考えさせてください。
頭の中を整理せねば……」
と言ってその場に倒れかけて、咄嗟に駆け寄ったハーツに支えられる。
同時刻。
西方の島国ワナン共和国の西端
ヒナクニの街近隣の山中。
数百メートル四方の木々は吹き飛び、地形は凸凹になり
土は焼け焦げている中
血まみれになったオクカワ・ミノリが無言で
片目がつぶれていて、左腕の二の腕から先が無く大量出血し続けている
満身創痍のオクカワ・ユタカの前で崩れ落ちた。
片手の無いエンヴィーヌが勝ち誇った顔で
「はははははーっ!!わらわたちの勝ちじゃ!
まだ二分もある!そなたを殺すには十分じゃオクカワ・ユタカ!」
近くの焼け焦げた、穴の中から首のないジョイメントが出てくる。
そして、エンヴィーヌに向けて手話のようなサインを送る。
「さっさと殺せと!?分かっとるわ!
大金星だわ!さらば!オクカワ・ユタカ!ミノリ!」
エンヴィーヌは残った右腕を天に翳すと
聞き取れないほどの速度で何かを詠唱し始めた。
死にそうなオクカワ・ユタカは俯いたまま
「もういいな……」
とポツリと呟いた。




