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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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まとめて

北部、ヤマモトたちの拠点



青空の下

「あーいい温泉よねぇ」

ターシアが頭の上に畳んだタオルを乗せて

グランディーヌと並び、人用の湯気の立った温泉に入っている。

「……用事が済んだならそろそろ帰ってくれる?」

グランディーヌが無表情でそう尋ねると

「そんなことより、ブランアウニスの悪口を言わせてよー」

「……聞いてやってもいい」

ターシアはニヤニヤしながら

「……頭のよさそうなあんたなら分かると思うけど

 性格の超悪いあいつは、何か大きな目的があって

 この煉獄から来た子供たちの討滅戦に手を貸してるでしょ?」

グランディーヌは青空を見上げて

しばらく考えた後に

「……ありうる。虚無王様は一つの目的では大抵動かないから」

「さっすが、あいつ作成の魔法生物ね」

二人はそれぞれの表情で無言のまま

数分間過ぎて、そしてターシアが

「……ヤマモトたちを殺す気は無いの?」

ポツリと尋ねた。

グランディーヌはターシアを睨みつけて

「私とハーツちゃんは、二人のお陰で居場所を見つけられた。

 私の全てを使ってでも二人とハーツちゃん、それにラーヌィも守る」

ターシアはニヤニヤしながら顔を逸らして

「ま、そうよねー。愛とか友情ってなかなか得難いもんねぇ」

深くため息を吐いた。

「……サンガルシア様とのこと?」

グランディーヌがポツリと尋ねると

「……まぁね。仕方がないこととはいえ立場が変わると

 こうも、あの人の愛が薄れるとはね」

「……サンガルシア様は、

 虚無界で土木建築工事などを指示しておられる司空様だから

 考える暇もないんだと思う」

「そうでしょうよー半分悪魔に堕ちちゃって

 汗水垂らして好きなことして、喧嘩して、好きな女を抱いて

 あー土臭いこと。嫌だ嫌だ」

「……とてもお優しい方だったよ」

「……そうなのよ。一見暴力的だけど中身は本当に優しいの

 あの人は。あー……」

ターシアは青空を見上げた。

そしてポツリと


「多分、そろそろ調子に乗ってたジンカンが死ぬわ。

 いや、もう死んだあとかも」


と呟いて、ザバンッと水しぶきを上げて温泉から飛び出た。

タオルで自らの身体を拭きながら

背中を向けたまま

「……あんたが知ってればいいと思う」

と言って、ペタペタと岩場を裸足で歩いて行き

近くに折り畳んでいた服を着始めた。

グランディーヌは、難しい顔で黙り込む。



昼過ぎ、サキュエラの居城であるレナード城。



門内で、黒い馬から降りたサキュエラが脱いだマントを

駆け付けたフードを目深に被った黒ローブの部下たちに手渡しながら

「あーめんどくさかった。

 一昼夜休憩も無し、低知能サイコ野郎を尾行するだなんて

 最低だったけど……愛するご主人様の指令なら何でも最高になる!」

ビシッと頭上の曇天を指さす。

そしてつまらなそうな顔になり

「……あー……また低知能勘違い貴族どものお盛りか。

 この後、帝都行くのめんどくさ……」

とうな垂れた後に、ビシッと頭上の曇天を指さして

「でも、ご命令だから、ちゃんとやらないとね!」

いきなりニコニコしながら

城の中へと入って行った。

部下たちもいそいそとその背中を負う。


部下に指示を言いつけてから

レナード城の地下の鍛冶場へとサキュエラは一人

階段を下りていく

扉を開いて、鍛冶場へと入ると

一番大きな炉の近くで、スパンキーが無心に金属をハンマーで打っていた。

「……馬の骨の弟子の、馬の骨二号……三本同時並行か……上々ね。

 なかなかやるじゃない」

ニヤニヤしながら、その様子を後ろから見つめる。



地上と逆さの楽土の狭間の世界。



アルバトロス、エンヴィーヌ、ジョイメントが

以前と同じく台座の上の席で並んで飲んでいて

その前方には無数の悪魔たちが、どんちゃん騒ぎを繰り広げている。

「あの……この宴、いつまで続くんでしょうか」

ゲッソリした顔のアルバトロスが呟いた。

ジョイメントがニヤニヤしながら

「永遠にだ。ここから動けと言う指令が出るまで永遠にな」

エンヴィーヌもヤケクソな感じで

「そうじゃ!!酒じゃ!もっと酒を持ってまいれ阿呆ども!」

空の盃を振り上げて甲高い声で叫ぶ。

「……私がお継いいたします」

アルバトロスは悲壮な顔で、エンヴィーヌの盃に瓶から酒を注ぐ。


「おークズどもが楽しそうにやっとるなぁ」


背後から低い声をかけてきた大柄な男を全員がバっと振り返った。

そこには、半分が燃え盛る人骨と骨だけの折り畳まれた翼で出来ていて

半分が流麗な金髪と美しい顔と肉体と真っ白に輝く翼という異形が立っていた。

ジョイメントはめんどそうに顔を背けて

酒を飲みながら

「仮初の身体じゃないなら、お前の出撃じゃないな。

 さっさと帰れ、クソ堕天使が」

エンヴィーヌは目を細めて偉業を見つめながら

「いつ見ても、惚れ惚れするいい男だこと……半分が骨じゃなければ」

とケラケラ笑いながら、そっぽを向いた。

アルバトロスだけが恐々と

「あの……サンガルシア様、どのようなご用件で?」

サンガルシアと言われた異形は

「……作戦総指揮者である虚無王様からの御指示で

 享楽王様、嫉妬王様、御出陣を、とのことですがぁ。

 怠惰なお二人は、如何しますかぁ?」

ジョイメントが立ち上がり背中を向けたまま

「ああ、いいぜ。乗ってやるよ。

 虚無王のトロい進行の末にようやく、さっき

 ジンカンをぶち殺したんだよな?次は誰を殺すんだ?」

エンヴィーヌは嫌そうな顔で、再びサンガルシアを振り向くと


「オクカワ・ミノリじゃろぅ?

 ああ、嫌だ嫌だ。無能の尻拭いは。

 悍ましい兄もそろそろ起きるころだわ」


ゆっくりと立ち上がった。

サンガルシアは皮膚のある方の美しい顔で微笑むと

深く礼をして

「では三時間後、狭間の境界線上に通路ができます。

 虚無界を代表して、ご協力に感謝します」

スッと飛び上がると、遠くへと羽ばたいていった。

アルバトロスがホッとした顔をしながら

「えっとですね、ご用のものがありましたら

 何なりとお言いつけください」

エンヴィーヌはアルバトロスに冷たい目を向けながら


「ニンゲンスレイヤーを二本、いや、ジョイは二本必要か。

 合計三本用意しろ。

 わらわの長槍タイプ、ジョイのは剣とブーメランで」


「ははっ……ご希望に添えるように

 直ちに準備いたします」

アルバトロスは頭を下げると、サンガルシアとは逆方向に飛び去った。

ジョイメントは再び座り、酒を飲みだすと

「エンちゃん、いいか?

 死んだジンカンのことは言うな。オクカワ・ユタカは恐ろしい。

 あくまでミノリを粛々とぶち殺して、それから黙って激怒したユタカからやられる。

 これでいいな?」

「……分かっとるわ。虚無王がわらわたちを

 まとめて罠に嵌めようとしとることくらいわな」

エンヴィーヌも着席して飲み始めた。

「……ならいい」

二人はまた黙って、盃とグラスをチンッと打ち合わせる。

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