表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/166

屋敷


普段、俺が着ていたような

布の服と、皮のジャケットを纏い

朝の城下町へと繰り出していく。

戴いた屋敷は、以前の俺が近寄れもしなかったような

城の近くの高級住宅地に建っていた。

辺りの屋敷は、まだ襲撃の痕から再建している最中だが

俺が代理王から戴いた屋敷には

不思議と傷一つなかった。

広大な庭付き三階建ての屋敷である。

開いている鉄門の前で高い鉄柵に囲まれた屋敷と見事な庭を見比べて

まず、口から突いて出たことは

「……無駄だな。場所と手間の無駄だ」

こんな広い空間をいつ死ぬか分からない俺一人が所有する必要はないし

部屋が何部屋もあるような、屋敷も生活するには広すぎる。

そして、整備された庭園は美しいが

庭師たちが年間何人くらいかけて

そして、どれほどの時間をかけ整えているのだろう……。

大きくため息を吐く。

そして、開いている門を潜っていく。

年少の代理王様から、善意で戴いたものだ。

俺の一存で辞退して

若い王様の心を傷付けたくない。


左右に果樹園を見ながら庭を進んでいく。

俺の姿を見かけると

ハンチング帽をかぶった土塗れの良く日に焼けた老人が

急いで走ってきた。

「庭師のトムと申します!ターズ様ですね?」

勢いよく挨拶されたので、そうだと言って

手を差し出した。老人は土にまみれた手を服に擦り付けて拭いて

握手してくれた。

「トムさんがこの庭を一人で?」

「はい。見習いのうちの孫もたまに連れてきますが

 基本は俺一人ですわ」

「そうか……よく焼け残ったな……」

そう、辺りを見回しながら言うと、トムはニコニコしながら


「……ブラウニー様のお屋敷ですから」


思っても居なかった名前を出してくる。

「ブラウニー公の屋敷だったのか?」

「はい。ブラウニー様は戦火から庭と屋敷を守るために

 魔法であらゆる擬装をしてくださいました」

これは、確実に何かある。

代理王もブラウニーから

機を見て俺に譲るようにと、予め言われていたのだろう。

「屋敷の中に執事やメイドは?」

「最近は見ませんなぁ……。

 皆さん、ブラウニー様と一斉にどこかへと行かれたようで」

どうやら屋敷に住む者は、全員悪魔だったようだ。

もはや、屋敷内を探索してくれと

ブラウニーから遠回しに言われているのは確実だ。

「ありがとう。鍵は貰っているから中を見てみる」

「はい。仕事に戻りまさぁ」

トムは軽く手をあげて、にこやかに庭の奥へと入って行った。


階段を上がり屋敷の扉を開いて中へと入って行く。

屋敷内は閑散としているが

清潔に整理されていて、埃一つない。

静かにドアマットから一歩踏み出すと


「左の廊下の奥に応接間がある」


というブラウニーの声がいきなり聞こえて驚く。

辺りを見回すが、人の気配は一切ない。

魔法か何かか……?

などと思いながら、言われたとおりに廊下を進んで

突き当り近くの扉を開いた。

確かに中は暖炉の点いていない応接間だった。

テーブルの上に、透明な四角い箱が置かれている。

高さ二十センチほど四十センチ四方の

その箱の中には何も入っていない。

近づいて立ったまま、上から覗き込むと


金や銀の精巧な装飾がされた玉座に

退屈そうに、ひざ掛けに頬杖を突き

長い足を組んで深く座っている

紫の唇をして、真っ黒な長髪をオールバックにした

整った堀の深い顔の美しい男が見えた。

男は何色者炎が燃え上がったような模様のローブを着て

小さな金銀で造られた王冠を頭に乗せている。

男の背後の壁には、無数の悍ましくも美しい絵が飾られている。


彼はこちらに気づいた様子で

「ターズか?」

と尋ねてくる。

「そうだ。お前は誰だ」

「ブラウニーだ。久しぶりだ。良かった。

 ちょうど退屈をしていたところだ。

 部下が育ち切ってしまうと、王はやることがなくなって困る」

妙に艶のある低い声で苦笑いしながら返された。

俺は戸惑いながら

「……そこは逆さの楽土なのか?なぜ、見ることができる」

「その装置は、こちらとそちらを繋ぐ特別な物質を練り込んだガラスだ。

 なので、創作者の任意の場所を映し出すことができる」

「そうか……話があるんだろう?」

ブラウニーは重厚な微笑みをこちらへと向けながら

軽く頷いてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ