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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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利用すること


同時刻、竜騎国北部、メーネルンの街、宿屋二階。


スカーフで顔を隠した灰色の旅装姿のユウジが

狭い一室の扉を開けて入ってくる。

「ゴン、食料、買ってきたぞ」

ユウジは抱えていた布袋を降ろしながら言う。

ベッドで寝ているファルナ王女をワタナベは見つめながら

「……こんなものがファルナちゃんの服の懐から出てきた」

ユウジはワタナベが差し出された折り畳まれた紙を広げる。

「へぇ……日本語だな。

 ……そうか。ジャンバラード城近くの

 ネルン谷北に解呪の花があるのか。

 くっ、くくく……ふざけすぎだ。これは」

彼はしばらく読んだ後に、ワタナベに紙を返す。

「……待ち伏せの罠だって自分でわざわざ書いてるよね。

 名前まで、虚無王ブランアウニスのサイン入りだ。」

「なあ、ゴン、王女を諦めるって選択肢はないのか?

 何とか花を取りに行かなればいいんだぞ?

 わざわざ選べとまで書いてた」

「行く以外無い。僕はファルナちゃんを愛してる」

ユウジはいきなり腹を抱えて笑い出して

ムッとした顔のワタナベに

「なあ、お前のこと、もう親友だと思ってるから言うぞ?

 その子は、お前のことを永遠に愛することは無い。

 それに、もし呪いを解いたとしても

 スズナカの力が切れてたら、その子はお前を殺そうとするだろ」

ワタナベは深くため息を吐いて

「そんなこと最初から分かってるよ。

 でも、愛しちゃったものは仕方ないよね?」

そう言って立ち上がった。

「クマダ君、いや、ユウジ君。

 ファルナちゃんをここで診ておいて欲しいんだ」

ユウジはニヤニヤしながら首を振り

「嫌だ。内心では俺もお前と、その谷に死にに行きたくて仕方ない。

 ようやく、本物のピンチに巡り合えそうだからな。

 廃城のは終わってみたら、ちょっと物足りなかった」

ワタナベは仕方なさそうな顔をして

「……残った金全部使って、魔法船を一隻買ってきてよ。

 一日でオースタニアまでたどり着けるような

 とんでもなく性能が良いやつを。

 僕は放射性物質でまだ強い武器が造れるか考えとく」

懐から取り出した大きめの布袋を

ユウジにジャラジャラと見せつける。

「それ、放射能やばいんじゃないのか?よく持ち歩けるな」

「抜け目のないジンカン君が、鉛で布袋の中を覆ってるから

 ある程度はカットしてるよ」

「ならいい」

ユウジはニヤニヤしながら扉を開けて出て行った。

ワタナベは決心した顔で

「ファルナちゃん、僕は目覚めた君に殺されることにするよ。

 僕を嫌いな人たちを全員殺してからね」

ベッドのファルナの傍に跪いて、微笑みながらそう呟いた。



数時間後、夕刻

オースタニア王国首都近郊ネルン谷北部。



天使の羽根を背中に折り畳んだターシアが

数十メートルの小高い崖に囲まれている数百メートルに渡る青く光る花畑を、

皮鎧を着たバラスィと、プレートメイルを装着しているクリスナー

そしてローブ姿で帯刀しているドハーティーの四人で視察している。

ターシアは崖と花畑を見回して


「……明日の夜中だわ。今日は来ない。

 ジンカンは、ヤマモトたちとコンタクトを取ったはず。

 そして、罠塗れのこの北の谷には、冷酷なジンカンと

 情報収集能力の高いタナベたちは絶対に来ない。

 こっちに来るのはジンカンに囮にされた二人よ」


クリスナーが神妙な面持ちで

「……標的のひとつが俺たちなのは、まだ信じられないんですけど」

ターシアは両眼を細めて、長身の二人を見回すと

「……それだけの価値は認めてるはずよ。

 あんたらは南の谷でジンカンとヤマモトたちの相手を頼むわ。

 きっと、これもついでに狙うはずだから」

光る花の詰まった小瓶をクリスナーに渡す。

「……他は、谷中王国軍で散策して、全て抜いて焼きましたからね。

 司令官代理、大丈夫ですか?」

緊張でプルプル震えているバラスィを三人が見つめると

「い、いや……大丈夫だ。作戦は完璧なんだ。

 作戦は完璧なんだが、ちょ、ちょっとお腹が……」

バラスィは崖の一か所しかない入口から

遠くへと駆けて行った。

「……無駄に繊細なのね。まあ、あの手のは慣れると

 逆に図太くなるからね」

ドハーティーがニコニコしながら

「ジンカンにとっても、ファルナ王女の復活が必要なんじゃな?」

ターシアはニヤニヤしながら



「遺伝情報と、王位継承者の声紋が必要なのよ。

 竜騎国の古代遺物を手に入れるにはね。

 世界を周ってたから、気づくのが遅かったようね」



「ひでぇ話ですね。結局仲間を利用することしか考えてないんですか」

顔をしかめたクリスナーに、ターシアはニヤニヤしながら

「強大な力を持つ能力者ってのはそんなもんよ。

 行きつくのは、究極の個人戦だからね。性格の悪さが必要なのよ」

「俺は一生、一軍人でいいですね」

ドハーティーが

「クリスナー・スベン副官、南の谷の無用な人員は極限まで

 削減すべきじゃよ。この谷ではかなり人が死ぬ。

 あまり兵が死に過ぎると、君たちの政治的な立場が危うくなる」

クリスナーはニカッと笑って

「心得ました。司令官代理と他の将軍たちと話し合います」

深く頭を下げた。

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