鍛冶屋のターズ
人生ってのは不公平で不釣り合いで、不平等だ。
ああ、王侯からガキまで知ってる理だな。
けど、それを知りつつも、俺は真面目に生きてきた。
人の物を盗らず、人の足を引っ張らず
悪口を言わず、他人を軽く見ずに
暗黙、そして公然のルールを両方守る。
それでよかったはずなんだ。
それで、俺の人生は三十五になる今まで
上手くいっていたはずなんだ。
俺はかつてこう呼ばれていた。
鍛冶屋のターズ、十一のころから親方について
鍛冶について学び、そして二十五の時には
病気の親方の代わりに店を任された。
俺の国、オースタニアは戦争が好きでねぇ。
腕利きの鍛冶師である俺の造る武器は飛ぶように売れた。
ブロードアクス、モーニングスター
アイアンメイス、短刀、大剣、そして東方の国の刀まで
何でも造った。
店は大きくなり、そして王都に本店を構えると
王侯貴族からの注文も増えた。
商売も順調にいっていたある時
異界から十六~十七のガキが八人ほど
オースタニアの戦争相手である
マグリア帝国へと現れたという噂が駆け巡った。
それからたった半月だった。
オースタニアの王都ジャンバラードの壁が
見たこともない爆薬で破壊され
俺の店が押し寄せる帝国兵に蹂躙されて
火が点けられたのは。
その三日後に呆然自失となった俺は
王が処刑されて、見知らぬ黒い制服を着たガキが座る
玉座の間に引き出された。
その女のガキは足を組んで玉座に座り
怯えきった俺に顎を上げながら言ってきたんだ。
「おじさん、私はあなたに何の恨みもないんだけど
ヒサミチが、戦争に関わったやつらは根絶やしにした方が良いって
言ってるの。悪いけど、死んでくれる?」
俺は弁解する間もなく
銀色の鎧を着た屈強な騎士たちから両腕を掴まれて
玉座の間から、あっという間に血まみれで死体だらけの処刑場まで
連れていかれた。
そして、座らされると
黒い布を被った太った処刑人から
瞬く間に首を切り落とされた。
他の切り落とされた首が大量に埋まっている
深い穴の中へと俺の首は落ちていき
そして誰かの頭蓋骨に、自分の頭蓋骨が当たって
俺の意識は途切れた。