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叛逆ノ猫神  作者: 文壱文(ふーみん)
絶望の淵で猫神は
1/7

堕ちた神

「何故、お前と俺が戦わなければならないんだ……戌神!!」


 ここは神界にある、魔神の根城。

 苦悩を帯びた声で十三番目の神は吼えた。手に持つのは彼の神刀、妖精刀ミケガミ。

 この争いのすべてを仕組んだ魔神を倒す。その一歩手間で戌神が壁となり行く道を阻んだ。切っ先を戌神に向けたまま、手が震えていた。


「それは答えることができないの……。でも、貴方が必ず魔神を止めてくれると信じているわ……だから、ごめんなさい」


 玉座に座る魔神の厭らしい笑みとは対照的に、戌神は悲しそうな声で自らの神刀を引き抜いて十三番目の神──猫神の腹を突き刺した。


「ぐっ! どうして、い……がみ…………」


 自身の最期。この刹那、猫神は戌神の瞳から一筋の光が伝ったのを見逃さなかった。

 ──お願い、取り戻して……っ!!

 微かに聞こえた戌神の声。それから一瞬意識が暗転。何か大事なものを手放してしまったような、そんな気がした。

 自分自身が落下しているような浮遊感と、何かに引きつけられる感覚に襲われる。浮遊感が強まると、それに伴って下へ落ちていく。

 大いなる()()に沿って流されていて呼吸どころか、口を開けることも、目を開けることもできなかった。


「うっ……っ!」


 浮遊感がおさまるとともに、意識は薄れゆく。

 重たいものが押し潰れるような音が耳を襲う。半開きになった眼から見えたのは天辺の見えない巨大な滝。流れる渦潮の狭間で、彼の身体はさまよった。



 ***



「おい! 起きろ!! 大丈夫か!?」


 大きな手に揺さぶられている。

 だから揺さぶられているというのに妙な安心感があった。


「おい! ……こりゃあ街まで運んでいくしかねぇな」


 その男――名を鯛道(だいどう)。スキンヘッドが眩しい。

 閉眼したままの少年を肩に担ぎ上げると、そのままスラム街へと足早に進む。街の巡回兵の目をかいくぐって街路の隙間へ。


「ふぅ……なんとか撒けたな。よし、もう大丈夫だぞ」


 鯛道は少年の身体を石畳の上に寝かせると、そばにある階段に座り込んだ。


「さて、この子が目を覚ますのを待つとするか。何故()()()()で倒れていたのかも、聞かないといけないしな……」


 鯛道は入り組んだ街からも見える滝を見上げた。そして目を斜め下へ。眠ったままの少年の顔はあどけなさを残しつつも、長いまつ毛と目尻の窪みが本物の猫を想起させる。


(なかなか目を覚まさないな……。心臓の鼓動は聴こえるんだが)


 またしばらく待つも、一向に目を覚まさなかった。


「あー、もう仕方ねぇな」


 鯛道は自分の用心で持ち歩いていた水袋を少年の額上に置く。


「っ……!? は……っ!!」


 やや温いが、少年は反射的に目を開けて上体を起こす。ガン、という鈍い音がしてお互いの顔が激突したのだとわかった。


「痛っ、てぇ! せっかく命を助けてやったってのに! まあいい、お前さん……大丈夫か? 今さっきまで、溺れていたんだぞ?」

「…………?」


 少年は首を斜めに傾げる。周りを囲むのは平原と河川だけ。当然、迷子などではないだろう。

 少年はどこかぼんやりとした様子で、キョロキョロと首を回している。


「それなら、自分の名前は? どこから来たか、言えるか……?」


 そんな様子に改めて、鯛道は尋ねた。


「な、名前……? 名前……」


 首を斜めにこてんと傾けるだけで、少年は答えることができない。

 少年が思い出そうとすると肩が震えてしまう。今も何かに耐えるかのように、歯をぎりりと食いしばっている。

 しばらく沈黙が流れ、やがて鯛道が口を開く。


「何かが怖いのか……?」


 依然としてガクガクと震えているだけで、少年は何一つ反応をしない。


「な、なま、名前も、思い……出せない」


 言葉と、意思疎通は交わせる。でも、恐怖で記憶に鍵がかかっているのかもしれない。


「っ、お前さんは、記憶を失くしてしまったのか……?」


 鯛道はそう、誰にでもなく尋ねた。

新年明けてからの、干支ファンタジーとなっております。

続きが気になる人は、ブックマーク・評価等していただけると幸いです。

また、次話は今日の12時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 干支を使ったお話で神話や民話が大好きなので楽しみです♪ 戦闘があるっぽいから戦いの仕方が魔法有りか無しか、装備で強化とかもあるのか、気になりますo(^▽^)o [気になる点] 敵側にも事…
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