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怖い顔のリンゴ屋さん

作者: 里山 根子君

  昭和の中頃、ある山間の山村で生まれた翔太は小学校三年生です。食べるものもままならない時代でしたのでおもちゃなどありませんでしたが、翔太の家にはキジトラの猫に赤牛、アンゴラウサギにチャボがいて、みんな翔太の大事な友達でした。


 近くの森に行くと、カブトムシにクワガタ、セミやチョウもたくさんいて、翔太はその昆虫たちを見つけるのも得意でした。

 おやつも決まってあるわけではないのですが、秋になると行商のリンゴ屋さんが来て、お母さんが時々リンゴを買ってくれました。そのリンゴは真っ赤で蜜がたくさん入っていて、とても美味しいリンゴでした。


 しかし、そのリンゴ屋さんの顔といったら、ギョロッとした目で人を睨みつけ、顔は鬼ヶ島の赤鬼のように真っ赤でした。肩幅は広くて、足といったらがに股でいつも怒っているように、のしのしと歩くのでした。


 リンゴ屋さんは、トラックで行商にきていたのですがそのトラックは、意外とかわいい黄緑色のダットサンでした。


 そして、子供たちの間ではこのリンゴ屋さんに捕まると、耳を取られてしまうといううわさが広まっていたので翔太たち子供は、このリンゴ屋さんの黄緑色のダットサンが来ると、見つからないように家にかくれて、リンゴ屋さんが帰るのを息を殺して待っていたのです。


 ある秋の日のことでした。翔太は家の牛やウサギたちに餌をあげて、一人で遊んでいました。すると、家の裏の方角から車の音がしました。

 そして翔太の家の横を通っていったのですが、その車はあのリンゴ屋さんの黄緑色のダットサンでした。


 翔太は、その車を見たとたん手に持っていた草を放り出して、あわてて家の中に逃げ込みました。

 そして、そっとガラス戸から恐る恐る外を見ていると、あのリンゴ屋さんのダットサンは、翔太の家を通り過ぎてT字路を、右に曲がったところでゆっくり止まりました。


 すると、あのリンゴ屋さんは車から降りて、しゃがみ込んで車を見ていましたが、立ち上がるときょろきょろと家々を見回して、歩き出すと姿がみえなくなりました。

 翔太は緊張が解けて途端に眠くなって、そのままガラス戸にしがみつくように眠ってしまいました。


 しばらくすると、「こんにちは、誰かいないかい、こんにちは」という声がすぐ近くで聞こえて、翔太は驚いて目を覚ましました。

 恐る恐るガラス戸から外を見ると、外に立っていたのはあの怖い顔のリンゴ屋さんでした。翔太は飛び上がるほど驚いて、今日こそ耳を取られてしまうかもしれないと思って、膝を抱えてガタガタ震えました。


 「こんにちは、こんにちは」リンゴ屋さんは、まだ外で声をかけて待っていましたが、翔太は意外と優しい声に驚きました。何となく困っているような気もしたので、翔太は恐る恐るガラス戸を開けました。 

 リンゴ屋さんは、ほっとしたように「ああこんにちは、おじさんあそこで車がパンクして困っているんだけど道具ないかい」と翔太に聞きました。


 翔太は息もできないほど怖かったのですが、目の前で見ると意外と小柄なおじさんだと思いました。

 翔太のお父さんはパンクを直す道具を持っていて、近所の家の自転車やオートバイのパンクしたタイヤを直してあげていたのです。


 リンゴ屋さんは車から離れたとき、パンクの修理のできる家を訪ねていたのかもしれないと、翔太は思いました。

 翔太は恐る恐る外に出て、庭を挟んで向かいにある小屋に行って、お父さんがいつも使っていたパンクの修理の道具の入った木の箱と、空気を入れるポンプを持って「お父さんは、いつもこれを使っています」と言ってリンゴ屋さんに渡しました。


 リンゴ屋さんは、「僕、ありがとう」と言って大切そうに道具を受け取って、自分の車に戻りました。翔太は最初足がふるえるほど怖かったのですが、今はそれほど怖いとは思っていませんでした。


 そして、一時間ほど過ぎたころリンゴ屋さんは、「僕、ありがとう本当に助かったよ」と言って、道具の入った箱とポンプを返しに来てすぐに車に戻ると、大きい竹かごいっぱいのリンゴを持ってきて、「みんなで食べてね。ありがとうね」と言って翔太に頭を下げて帰って行きました。


 お母さんが仕事から帰って、いただいたリンゴと、今日のことを話すと、お母さんは、「翔太、良いことしたね。あのリンゴ屋さんさっぱり怖くはないんだよ」と言って、翔太を褒めてくれました。


 それからというもの、あのリンゴ屋さんが来て、お母さんがリンゴを買いに行くと、翔太は大喜びで一緒について行きました。


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