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この農業高校は何がしたい?  作者: 皐月
1章 春の息吹 大衆の声
6/55

第5話 ”キ”ミ

 遠い奥深くの世界。

 この世界は黄金色の綺麗な草原が辺り一面を覆い、私はそこに寝ころんでいた。

 ここには私しかいない。そう、ワタシしか。

 

 私だけの世界はとても居心地がいい。現実の世界よりも安全でなんたって自分の好きなように世界を思うままに変えてしまえるから!!

 だから私はこの世界が大好き!!

 私しかいない、私だけの世界。


 この世界なら自由に友人が作れたり、恋もできたり何かを作ったりするのも誰も見てないからあざ笑うような人なんかここにいないの!! だから心身ともに落ち着くの!!


 もうこの世界に来てしまったからには悲しい出来事に見舞われないでいいんだ!!

 もういっそのことここに残って遊び惚けたい。

 お腹も減らないし雑音もしない。


 聞こえるのは昆虫と小鳥、小動物の鳴声のみ。

 これ以上に天国の場所はある?

 そんなのはあるはずもない。

 だってここが天国で楽しいもの!!

 私はその場から立ち上がり、無我夢中に草原を一直線に走った。


 もう苦しまなくてもいいんだ!!


 悲しまなくてもいいんだ!!


 そして私は走りながら大声で叫んだ。

 「ねぇ○○!! 私初めて男の人と喋れたの!」

 そう言うと目の前にモザイクがかぶさった男が現れる。

 彼の名前は○○。とてもいい人で、私が泣きそうなときにいつでも駆けつけてくれる。だから私はこの人をとても信頼してる。


 私は○○に飛びついた。

○○は体勢を崩し、後ろにこけた。私は少し大丈夫と聞くと大丈夫と答えたため、私は弾丸のように話した。

 「ねぇねぇ、私ね? 初めて男の人と喋れた。その男の人なんだけどね、とても不思議な人であなたと同じ香りがするの。ねぇ、なんでなの?」

 ○○は頭を掻きながら話してくれた。


 「まぁ、それは君が好意を抱く男の人じゃないからかな?」

 「うーん、そうかな? でも、そんなじゃないの。だってその人かなり無口でしかも無表情だから何を考えているのか分からないもの」

 「そうなのか」

 ○○はそう返して私を抱きしめる。

 「なら君は彼のことどう思ってるの?」

 「彼?」

 「そう、彼」

 私は少し考えた。

 私は普段彼をどう思っているんだろう?

 ナマコ?

 無口?

 かっこいい?

 真面目?

 いい人?


 んん? どうなんだろう、そんなこと聞かれても分からない

 「これは僕の考察なんだけど彼は君のこと嫌いじゃないと思うな? だって彼は君が困った時助けてくれるんだろう? それは、君のこと彼は信頼してるからじゃないか?」

 「でも……私と彼、まだあって一週間弱。それなのに何で彼が私の傍にいたがるのかが分からない、分からないよ……」


 私は地面の方を向いた。

 彼は普段何を考えているんだろう?

 私はそれを知りたい。そして私は何でそんな彼の傍に入りたがるのかも。

 好意? そんなはずがない。私は彼のことは信頼しているけど友人と呼べるかは分かたない。現に私は彼とは実習のことや実験、部活のことでしか話さないし世間話なんてもってのほか。


 それよりも彼は私と会話している時も真顔だから私との話そんなに好きじゃないのかな? どうなんだろう。

その時、○○は私に顔を近づけた。

「まぁ、その気持ち、今はまだ分からなくてもいい。彼の印象も急に変えなくてもいい。ただ僕が言いたいのは……」

○○は息を吸って優しい音色で。


「彼は心から君を信頼してる……だから安心して――――」


                  *


「ふぁー……今日もなんか不思議な夢を見たなー 」

今日は忙しい平日が終わり、ようやく来た土曜日。

最寄りの近所の駅から約一時間電車に揺られ、そして地元からだいぶ離れ、辺りを大きなビルと高級料理店が結集している宇納山駅に降りる。


それにしても不思議な夢を見たなー。

あの夢は何故か“見た“感覚はするものの記憶には何も残っていない。一回試しに文章にしようとしたけど何故か文字がぐちゃぐちゃになってしまい、あ、の一文字ですら書けなかった。

あの感覚は小学校に入ってから始まり、中学を卒業するまでの間続いた不思議な夢……一体何だろう?

 いや、でも今日と言う日は特別な日。だからそのことは今頭の中から消そう!!


今週の月曜日はいきなりササ先生との帰りに神の使いを名乗る女性が来たと思ったら大きな蠍に襲われ、しまいにはワラまでもいきなりおかしなことを言いだした。 私とワラの出会い自体いきなりキュウリを食べながらワラが話しかけて、これが最初の会話となった。本当にこれで良かったのだろうか。

むしろこの時点でおかしい気がするけども。


 もし、ワラとの出会いがもっとドキドキするような出会いなら良かったんだけどキュウリを食べながら遅刻~、は逆におかしすぎて突っ込みが追いつか無かった。それに私の中ではワラは内心不思議くんと思っていた。


 でも、こんなことが無ければ確実に私のワラへの第一印象は変わってたと思うし、もっと会話していたのかもしれない。それにワラは基本的に不思議くんみたいだけど何かと頼りになることは評価できる。

 それは実習農場の時に何かと作業してくれることや、私が水やりと除草を忘れている時、忘れていないときにも関わらず毎日畑の点検に来てくれる。それを知ったのがワラの鶴が妻で、亀が夫とかいう哲学的な話をされた水曜日だ。

この時私はワラの評価を上げた。何故なら私は詩が好きだから。何かとあの時のワラの言葉は別に中二臭くは感じなかった。もし彼と詩について語れる日があるのなら語りたい。

あ、その場合は自分の自惚れた詩の話をうっかりしそうでこわいなー。


しばらくして電車が足をゆっくりと止めた。

私は電車を降り、西改札口から外に出てすぐ正面のタクシー乗り場のコンクリートに刺さっている宇納山への案内が書かれた標識の前に来る。

宇納山は左に27.5間(約50メートル)進んだ先にあると書いていた。

今更ながらこの国の数学的単位はかなり独特で、道路の長さ、物の長さ、物体の面積、物質の重さ、量と共に単位がバラバラで違い、覚えるのがとても大変だ。まぁ、それはどこの国でも同じだと思う

 ……ここに長時間いる必要はないか。

 私は標識に描いている通りに左に進む、しかし何故か左はとても人が集まっていた。

 本当にササ先生の時と言いワラが詩人に進化したりと、今週はとても記憶に焼き付く週になりそうだ。

 もしこの時までの出来事が玉響であってほしいと思うのは別に間違っていると言われる筋はない。

 それではなぜ今日こんな場所までに来たかについて説明しよう。

 それは時を遡り、ワラが詩人に進化した水曜日の放課後のこと。


** * * * * * * * * * * * * * * * * *


放課後、生徒たちの授業が終わり、今から部活やら帰宅やら兵隊さんの行進のように賑やかな頃合い。

 けど教師たちは違い、これから小テストの採点や提出物の評価を付けたり定期テストの作成など忙しくなるはずだ。もし、私が学校で働けと言われたらウガヤ中逃げ回るだろう。

 そんな時間帯を私はこれから部活動のためさっきまで農場で一緒に作業していたワラと部室に向かっていた。

 今日の部活は無いはずだったのだけどチヒロさんからメールで今学校にいたら部室に来てほしいという連絡を受けたからだ。

「はぁ……」

 私は深くため息をついた。


本当ならゆっくりとした時間を過ごしたかったんだけど、呼び出しならしょうがない。そもそも私はなぜ部室に集合なのかがまだ分からなかった。チヒロさんは今日のHR前に自分がやりたいと言う研究をまとめて先生に提出するみたいなことを話していたけど、まさか今日なのかな? 確かにチヒロさんの性格から見てもうとっくにまとめてそうであるけど。 

「……そうか」

その時いきなりワラの口から言葉が漏れた。

「どうしたの?」

「……いや、農場の時語弊があったと今気づいた」

「語弊?」

ワラはそういって頭を掻きながら私に説明してくれた。

「鶴亀の話、間違えた」

「あ、そこ?」

「あぁ……鶴は欲望を表し、亀は理性を表す」

「わぁ……何だろう。すごく哲学的。で、なんで鶴は―――」

私が何か聞こうとするとワラは厚い本を取り出す。見た感じ参考書かな?

 そう思っていたとき表紙が目に入った。

 題名は……。


 ――――掃除哲学。


 「……はい?」

 ちょっと待って何で掃除哲学なの。ここはてっきりかごめかごめのもう一つの解釈だと思ってたんだけど。

 「……これはササ先生から」

 「わ、私に?」

 そのよくわからない掃除哲学の参考書をワラは紙袋に入れて私に渡してきた。掃除哲学って何だろう? そもそも何でササ先生はこれを私に?

 「……水曜日難しい話してしまって悩んでいると思うからと言って昼休みこの本を渡された」

 「へ、へぇー」

 どうしよう。初めて親以外から渡されたプレゼントが掃除哲学の参考書ってなにかの罰? もしそうだとしたら納得するけどそうでないのなら納得しかねる。まずこれを突っ込ませてほしい。掃除哲学は確か山田のおばちゃん曰く掃除のことが収録されているはず。なら何で鶴亀が? ……もしかしてワラは知っていたりするのかな? ちょっと聞いてみよう。


 「ねぇワラ。掃除哲学ってなんで鶴亀が入っているの?」

 「……編纂する人がバラバラで、初期は掃除関連だったがこの本の中の下に関しては鶴亀思想の学者たちが書いたからおかしくなった。そのため学校で学ぶ掃除哲学は上だけ」

 「ならこれは残りの部分も入っている訳?」

 「そうだ」

 私は本をぺらぺらめくり、中身を川のように見ていった。

 うん……なるほど。

 全く分からない。


 「……そろそろ行かないとチヒロが困るから早く」

 「うん、分かった」

 私は本を紙袋の中にしまって部室に向かった。


 ――――――。

 ――――。

 ――。


 部室の中は相変わらずどこか古びており、実験の後なのか発酵臭が感じる。でもこれは特段と嫌な臭いではなくむしろこれは人間が見つけたグルメの道の一つと見れば別に意識しなくてもいいかもしれない、それはこの匂いが納豆だからだ。

もし西洋の魚の塩漬けなら多分私は普通に起こっていたと思う。

そして部室の奥でチヒロさんとツキヤ先生が何か話していた。

 その時のチヒロさんはとてもうれしそうに腰まである長い髪を弾ませながら、琴のように綺麗な声でしゃべっていた。


 私とワラは荷物を机の上に置いて、チヒロさんに近づき、話しかけた。

 「チヒロさん来たよ」

 私がそういうとチヒロさんはとてもうれしそうにこちらを見た。

 チヒロさんは少し遠慮した感じで―――――。

 「申し訳ありません。突然お呼びしてしまって」



 「別に大丈夫だよ。けど今日は何で呼んだの?」

 私がそういうとチヒロさんはワラを見た。

 「あれ? ヒビワラさん、ウズメさんに伝えるようお願いしたと思うのだけど」

 「した」

 「本当ですか?」

 チヒロさんはワラをじっと見つめる。

 えっと、何の話かな。私、ワラには大蛇って心の中で唱えて歩いてほしいとしか言われてないのだけど。もしかしてチヒロさんもワラとササ先生と同じ感じの人なのかな?

 「言の葉で導けばいいと思ったから伝えた」

 「うわぁー便利ですね……ってそんなのだめですよ。男なら最初から最後まで一緒に行動してください!」

 「言の葉……」

 確か相手にある言葉を教えて、その言葉を言うとお互いの位置がわかる物だった気が……。どうだったかは忘れたけど。

 私はワラを見る。

「……もう、そうですか。要するにこれは道に迷わないようにするものですか。なるほど。……いいですかヒビワラ? 確かにあなたの言い分の道に迷わないためなのは分かります。これは言霊術なんてこれっぽっちも知らない私が言うのもなんですがそこまで気を詰めなくてもいいと思います。ウズメさんも何かとしっかりしているので地図と方位磁石だけ渡せば多分大丈夫なはずですよ」

チヒロさんがこう言った後ワラは「そうか……」と言い。私の方を振り向いた。

「すまなかった」

ワラは私に謝った、けど別に私はいけどね。


「では、ヒビワラさんとウズメさんにお願いしたいことなのですが……ツキヤ先生」

「そうだな……」

チヒロさんは残りの説明をツキヤ先生にお願いした。

あ、そういえばツキヤ先生すごく空気になっていたと失礼ながら今気づいてしまった。

「で、今日チヒロさんとウズメさん、そしてワラさんを呼んだのには理由があって来月の五月十六日に天下原駅から十分のところにある大坂ビルで行われる小中学生科学博覧会でこちらの部も出展するんだ。そこで君たちにその出典物の一つの山の微生物の採取を土曜日二人でお願いしたいのだが大丈夫か? で、たしかチヒロさんは習い事だったな」

「はい、申し訳ありませんが」

チヒロさんは残念そうな声を出す。


あ、もしかしてワラが言っていたのはこれだったのかな? なら私は尚更大丈夫。

「はい、私は大丈夫です……ワラも大丈夫だったよね?」

「あぁ」

私とワラがそう答えると好きや先生は分かったと言い、私たちに長方形の瓶が三本ぐらい入りそうなカバンを渡した。

「あの、そのカバンは?」

チヒロさんは興味深そうに質問した。

 「これは物質テレポーテーション装置。原理としては――――」

 ツキヤ先生はカバンを開けて、機械を取り出した。

 「まず、この機械の内部の転送する部分は暗黒物質で構成されている。その理由はこの機会が転送するのに一回この空間内の物質をテキストデータ化して、それを共有デバイスかパソコンに送り付ける際、中を暗黒物質にしないとこの機械全体のデータまでテキスト化して余分なデータになってしまうんだ。それを防ぐために内部には暗黒物質を使う」

 「そうなんですね……なら構成する装置もまた別に?」

 「あぁ、あるぞ。多分使うのは三年生になってからだが」

 「わぁー楽しみです!」

 チヒロさんは嬉しそうに声を上げた。

 あのチヒロさんが声をあげて喜ぶと言うことはとても楽しみにしているのだろうとしみじみ伝わった――――。

** * * * * * * * * * * * * * * * * *

――――――。

――――。

――。


そして時は戻って土曜日のあけぼの。

まぁ水曜日にそんなこんなあり、私とワラは二人で宇納山の土を採取することになってるのだけどワラはもしかしてあの人だかりの中?

もしそうなら何かあったに違いない。

そう思った私は登山口に走って向かった。

 同時に胡弓の美しい調べがここを包んでいるのを感じた。そしてその胡弓はまさに人だかりの中。

気になった私はその人だかりをかけ分けて入っていき、ようやくその中心にやってきたと思うとそこにはワラがベンチに座って胡弓を弾いていた。

「ワラ……」

 私がついうっかりワラの名前を口に出してしまった。そうするとワラは演奏を止め、こちらを向いた。

 その時のワラの顔は無表情ながらもとても凛々しく、ついドキドキしてしまった。

 「……来たか」

 ワラはゆっくりと立ち上がり、胡弓を片付けた。聴衆は演奏が終わったとたん四方八方に去っていった。

 そしてワラは隣においてたツキヤ先生から受け取った瓶と物質テレポーテーション装置が入ったカバンを肩に担ぐ。

 「確か、山の土を入れてくればよかったんだな」

 「うん」

 「なら良かった。では早いうちに登ろう、この山はだてに観光地なだけあって人が多い」

 私はワラの後に続いて山に登っていった。


山は春だけあった少し肌寒いが、冬じゃないだけまだありがたい。

 私が身に着けている登山の装備はいたって軽装で、本格的な登山を想定していない形で、ワラも同じ感じで普段よりも来ているものが少なく見えた。

 では早速土の採取だけどどこが良いのだろうか?

 「――――土の採取は人が少ない場所にするか」

 「どうして?」

 「人が通るところは色々な地域からの菌が多いから、取るなら少し奥の方がいいからと思ったんだが」

 「確かに……そうかもしれないね」

 ワラの言った通りここは観光名所なだけあって、道の途中にある場所の土をとっても別の場所の菌かもしれないからだ。

 もしせっかくここで取っても別の地域由来だったらあれな気持ち。

 「でも、今の私たち軽装だからあまり奥に行かないほうがいいんじゃない? それにここ猿がいっぱい出るみたいだしむやみに行くの少し怖いかな」

 「そうか……」

 「(それは申し訳ないな。なら仲間にあまり君らにちょっかいかけるなって言ってくるわ)」

 「そう、ありがと……え?」

 辺りを静寂が襲った。 

 待って今の声だれ? 普通に怖い。

 絶対人間じゃないよね? だって登っているの私たち以外でいったらおじいさんだけだし。

 ――――もしかしてこの山白い獣がいる? ……いや、それはないか。

 「どうした?」

 「ううん。何にもない」

 ワラは心配そうな声を私に授けてくれた……。

 本当になんだろ、今の言葉。

 「なら山奥は止めて展望台のところの土を取るか」

 「まぁ……それがいいよね」

 そういって私とワラは展望台に向かった。


 展望台までの順路はとても複雑で……ってわけではなく、ただ階段がしんどい。列でいったら私が前でワラが後ろ。理由はワラ曰く前だと遅れているのが分からないからみたい。そんな感じの優しい声で言われたら大丈夫と答えれなかった自分を恨みたい。

別にワラのことは嫌いではないけど声に起伏が無いからか話してても会話して面白いのかが分からないからとても不安になる。もしワラが感情豊かであったら私はとても楽しいかもしれない。なのに私はそんなワラを想像したくない。それは何故か? もしかすると私は心の奥深くで今のワラを望んでるからだろうか?


……。


ほんとに、私は何がしたいんだろ。


「疲れたのか?」

 ワラが後ろから話しかけてきた。

 ワラは感情のない眼で首をかしげながら私の顔を見ていた。

「疲れてないけどどうして?」

「少し、しんどそうに見えたから」


心配してくれてる?


 ちょっと嬉しい。

 あ、だめ! 正気に戻らないと……これは純粋にワラが社交辞令でしているだけで本心じゃない。……そう信じたい……。

「べ、別に大丈夫だよ」

「それは良かった」

 ワラはそういうと何を思ってか私のお尻を触った。

 え、マジで何してるの?

 ちょっと待って恥ずかしい! 恥ずかしい!

みゃー!! もう何で触る、ねぇ本当になんで!? もし私が今原稿用紙をたくさん持ってたら理由・感想込みで書かせてやりたい。


……て、何で感想なんて書いて貰うのよ私の馬鹿!!



「この方が歩きやすいと思ってたんだが……違うか?」

「え、あああの。そ、そそのえーと」

 ワラの瞳には嘘と書かれていなく、善意で行っていることはなんとなくだけど分かる……けども!

私はワラの手を握り、お尻から離させる。

 「ワラ?」

 「……嫌だったか? それだったらすまな――――」

 「感触……どうだった……あ、これは!」

 私は階段を少し駆け上がったワラの方に振り返った。ワラはとても困惑した様子でこちらを見ている。それはそうだ。

いきなり組友達がそんな感想を聞いてきたら誰だって困るだろうし、いくら感情が表に出ないワラだってとても困惑するのは必然だ。


「そうだな」

ワラは息をのんで、

「柔らかくて気持ちよかったぞ」

ワラは悪意のない純粋な感想を言った。ごめんなさいワラ。私のせいで。

その時のワラの顔はなんとなくだけど恥ずかしそうではなかった。そうなってくると私がバカみたいなんだけど。


「それがどうしたんだ?」

「いや、何もない……早く土取りましょ」

 私はそういって階段を上り、ワラも続いてのぼった。

 展望台の階段はとても急でしんどい。でもここに登ろうと言ったのは私だから私がしっかりしないと。


そうして私とワラは展望台の頂上までのぼり、そこで少し休憩した。


              *

 「まだ昼じゃないんだ……死にそう」

 私は吹き抜けの建物の中にあるベンチに座りながら腕を伸ばした。ワラは立ち上がってるのが楽だと言って吹き抜けの建物の入り口にもたれかかっていた。

 ちなみにカバンはワラだけに持たせるのは悪いと思って帰るは私が持つことになった。

 そしてそのカバンは私の足元に置いてる。


 「そういえばウズメ」

 「どうしたの?」

 「その服装は寒くないのか?」

 「これ? あ、うん今日は暑いから袖なしの着物にしたの。そして歩きやすいようにひざ丈の袴に歩きやすいよう足袋靴履いてるの」

「そうか、とても似合ってるぞ」

「に、似合ってる?」

 ワラはそういうと、吹き抜けの建物の外に出た。

 「似合ってる? 似合ってる?」

 私は先ほどのワラの言葉が頭の中で繰り返されていた。


 え、なにこれ? あのワラが?

 けど、ワラの顔は真顔だったから何にも思ってなく、社交辞令の可能性もなくはない……。うーんなんだろ。

 「……良い場所を見つけた。試験管と薬さじ取ってくれるか?」


 ワラはすました顔で戻ってきた。え、もしかしてその場所探してた?

 それだとしたら私何もしてないことに……。

 「すまん、カバンちょっととるぞ」

 「うん……」

 私は立ち上がってカバンをワラに渡した。

 これは私に何かできることはあるのだろうか?

ワラはカバンを受け取ると試験管と薬さじを取り出した。

いけない! 行ってしまう!

「ねぇワラ」

「……?」

「その土の場所、私も行ってもいい?」


 ――――――。

 ――――。

 ―――。


ワラに連れていかれた場所はとても薄暗く、気味が悪い場所だった。

虫たちは私たちにまとわりつく。

連れていかれた場所自体は徒歩5分ぐらいの場所ので、登山ルートに入っている。ワラが言うにはてか私自身も感づいてはいたんだけど色々とヤバイのがうようよしているみたい。本当に嫌な感じだ。

 

 それに気のせいかお尻が重くなってる感じがする。

 「はぁ……」

 「どうしたのワラ?」

 「今更だが袴、気にならないか?」

 「は、はぁ? 何言ってるの……。それ、とっても気持ち悪いんだけど」

 「脱がそうとしてるやつがいるんだが」

 ワラは私を指さしながら言った。

 「え……? 私」

 

 ワラはゆっくりと頷いた。

 えっと私縫お姉ちゃんと違って外で脱ぐことはないんだけど……いや、もしかしたら袴の帯が緩くなってる?


 私は袴の帯を一回といて結びなおそうとしたとき、いきなり引っ張られた。

 「きゃ! やめてワラ!」

 「……何を言ってる?」

 ワラは困惑しながらそう言った。いや、そっちこそ何を言ってるの? 引っ張ってるのは貴方じゃないの?

 やばい、脱げそう……。

 「キキーー!(なーにしとんじゃワレ!!)」

 「バウバウ!(ほんまに何してるん? 君)」

 

 その時前から白い山犬に乗った白い猿が木の棒で私の袴を引っ張ていた猿を殴った。殴られた猿はとても痛そうに地面に転がりまわる。

 そして殴られた個所からは血が流れていた。

 すると白い猿は私の方を向いて、

 「キー……(いやー、うちの猿がすまん。後で叱っとくから許してくれ)」

 そう言うと今度は犬が未だに地面に転がってる猿を咥えてそのまま山の奥へと戻っていった。


 何だったんだろう?

 ワラの方を見てみると、少し面白そうに見ていた……のかな?

 私には良くわからないけど。

 だってこの場でも未だに真顔。

 ……私といるのそんなに楽しくないのかな?


 その後、私とワラは会話が無いまま奥に進んで行った。


 ――――――。

 ――――。

 ――。


 かなりの距離を歩いてワラがいいと言った場所にようやく到達した。

 この間は本当に無言で、言ったら暴走族の敵対勢力のボス同士がプリクラで一緒に写真撮っている時以上の気まずさだ。

 もしくはそれ以上の。


 さて、今はそれよりもワラがおすすめした場所だ。

 その場所は本当に緑豊かで山道を歩いている間虫と鳥による合唱コンクールが行われていたからここはまさに生命の宝庫と私は思う。

 

 今回土を取るにあたりスズカ先輩この間言ってた実験のルールでは比較するのだったら場所を何か所にも分けると言ってたけどこの場合はただ土を一瓶の半分採取するだけなので分ける必要性はない。

 こうなってくると今度は土壌調査にやってきた学者みたいなんだけどー。


 そんなことをしながらも私とワラは土を瓶に詰めてツキヤ先生から受け取った機械の中に入れたしかし、

 「これどうやって使うの? 説明書貰ってたっけ?」

 「いや、貰ってないな」

 そう、まさかのツキヤ先生説明書を渡していなかった。

 もう勘弁してほしい。


 「まぁ……適当に押せば行けるだろ」

 「いやダメでしょ」

 「考えてみろ。もしこのまま放置しても何も始まらない。だから一回押してみるしかない」

 「え、えぇー」

 まさかワラって意外にも適当?

 でもワラも人間なんだからそれはおかしくない。現に私もそう思ったから。


 ワラは手探りでどれが正しいボタンなのかを見ていた。

 この機械で転送に使うだろうボタンは以下の通り。

 ・物質転送検証。

 ・物質データ化。

 ・物質転送。

 ・起動/終了ボタン。

 ・すみません、この人痴漢です。


 最後の除いてそれ以外の四つか。

 「えっとまず起動ボタン押して……」


 『――――この機械はマルウェアに感染しています。もし、使用したい場合はすみませんがこの人痴漢ですボタンを押してください』

 「えっと終了」

 私はこの機械の起動を止めて終了した。

 この間少し冷たい風が吹き、ワラは何か言いたそうにしていた。

 「ウズメ……それは機械の故障の元だぞ」 

 「……逆に聞くけどこれ以外ある?」 

 「ないな」

 「じゃ……もう一度行くね?」

 私は再び、起動ボタンを押す。


 機械からフィルターが回る音が響き、LEDが点滅してこの機械は再び起動した。

 もしまた同じことが起きたらもうこの機械壊そう。


 「……」

 ワラはじっとこの機械を見つめている。何か気になったのかな?

 その時ワラはすみません、この人痴漢ですボタンを押した。

 「何してるの!?」

 「これしかないだろう」

 「でも! でもなんか変な声出てきたら気まずいじゃない!!」

 『ピピ、ピピピピピピピピピ!! ―――――まもなく、太古昔この地に舞い降りた神であるナビィ大神とナギィ大神がチトセ命じて作らせた古今東西、歴代の第一人類と第二人類、第三人類よりもはるかに優れたるこの機械は万国が欲する神々のからくりである―――を、起動します。』

 「長!!」

 正式名称がパンクするぐらい長かったこの物質転送装置が起動するみたいだ。

 なんでこんなに長いのよ……。


 ワラの方を見ていると彼は何も気にしていないようだった。

 こればかりは尊敬しよう。

 「よし、転送」

 ワラは機械に瓶を入れた後そのままボタンを押し、ツキヤ先生のもとに転送した。

 転送した後中を見てみると本当になかったから最近の技術は本当にすごいと思う。


 終えた後は何もしないでいい感じだったから何をしようか?

 そのままワラと宇納山を散歩する?

 けど話すことないんだよねー……。


 「よし、今日はこれで終わりか」

 ワラは機械をカバンに入れ終え立ち上がった。

 そういえばワラはどうするんだろう?

 「ねぇ、ワラはこれからどうするの?」

 「……これから?」

 「……うん」

 「俺はこれから少し展望台に寄るが……ウズメも来るか?」


 珍しくワラから個人的なことで誘ってきた。

 そういえば確かに私はワラに誘われたのは大体実習や班を組んでの作業の時だけだもんなー。

 でもそれは仕方ないか。

 私は今でも“あの時“の心の傷で無意識で男の人といるのを拒絶してるって縫お姉ちゃんが言ってたもんね。

 私としてはもっといろいろな人と関わって変わりたい。


 「ウズメ?」

 「ふぇ?」

 ワラは無言で頭を地面に向けていた私を心配してくれたのか手を握った。

 「……俺と一緒にいるのが怖いのか?」

 「そ、そんなことない! むしろ逆に安心するから!!」

 「……そうか」

 ワラはそれを聞いて安心したのか手を離した。

あれ? ていうか私今さっき何て言った!?

 「……もう昼か?」

 ワラは空を眺めながらそう言った。

 そうか……もうお昼……。いや、それより――――。

 「良かったら展望台に行くついでに昼ご飯一緒に食べる?」


 ワラは無表情ながらも頭を横にかしげてこちらに質問する。

 ワラのこの行いはワラなりに感情を出そうと必死なのかもしれない……本当かは知らないけど。

 

 「うん、食べる」

 「……そうか」

 私とワラは展望台に戻った。



                   *


展望台に戻るともうすでに子供たちがいっぱい遊んで……おらず、人っ子一人いない。あれ、どうしてだろ?

ワラは何も気にしていないようで展望台の建物の中の椅子に機械が入ったカバンを降ろして懐からおにぎりを取り出した。 

あれ? そういえば私昼ご飯持ってきてない……。

「おにぎり食べる?」

ワラは首をかしげながら聞いてきた。

えっと良いのかな。

おにぎりは三つだけでもし私が一個受け取ったとして残り二つだけど。

「ううん。それだとなんか悪い気がするから」

「どうして悪い気がする?」

「えっと……私が一つだけ食べちゃうと残り二つでワラも中いっぱい食べ綺麗かなーって」

「そうでもない。別に二つ食べたかったら食べてもいいぞ」

「そう、そうなんだ……。なら一つだけ」

私はワラからラップに包まれたおにぎりを一つ受け取る。

形は手作りしたのか荒い箇所がある。

 「中は梅だが大丈夫か?」

 「うん、梅大好きだから平気だよ。でもどうしておにぎり持ってきていたの?」

 「お腹が空くから」

 「そうだよね……」


 私はワラから受け取ったおにぎりを口に入れ、梅の酸っぱさの後に甘さが口の中に広がる。

 うん、美味しい。

 とても心が温かくなる気がする。何故だろう。

 

 一口、また一口と味を堪能する。

 美味しい、美味しいと。

 そしておにぎりを食べ終えた私はラップを自分のバッグの中に入れる。

 ワラは私の後に食べ終わり、ごみは袋にまとめてバッグに入れる。

 その後中から水筒を取り出した。


 「ウズメ、人が誰一人居ないの不思議に思わなかったか」

 「えっと……そうかな? ここは確かに有名な場所だけど主役は大滝の方だからあまり来ないんじゃない?」

 「……確かにこの山の大目玉は大滝。大滝の周りには人が集まるため人もたくさんやってくる」

 「で、それがどうしたの?」

 「実はここに人払いの術が掛けてあるの分かったか?」

 そう言い終えるとワラは水筒の蓋を開けて、中の水を展望台の建物一体にまき散らした。

 本当に何してるの!?

 「ちょっと何してるの!? これ流石に怒られるよ!!」

 「これは術崩しの水……」

 「な、なによその水……なんか不思議な力があるわけ?」


 私はワラに詰め寄った。

 これは当たり前の行為だ。

 いくら友人ではないとしても悪いことは詰め寄らないといけない。それに……私は彼は常識人だと心の中で……ほんの、ほんの少しだけ思ってたのに。

 とても裏切られた感じがする。


  けど何故だろう……内心とてもワクワクする!!


 「そうでもない。この水自体ただの水道水だし」

 「今なんて……?」

 「後ろを見て、この術を使った本人が驚いた顔で聞いてるから」

 「う、後ろ? あれ……チカさん?」


 銀髪赤目が特徴の女性、そして我が若命神栄虚高校知事長のチカ先生が今壁から顔少しだしてなかった?

 ま、まさかそんなことないよね。だってあの美しくて同性でありながらも惚れてしまうほどの淑女であるチカさんがまさかね……。

 「けど、あの天井に付いているお札どう見ても偽物なのになんで張り付けたのか分からないぐらい」

 「えっと天井? お札?」

 「あれ」

 ワラが天井の一点に指をさした。

 そこには確かにお札が付いている。


 凄い……全然気づかなかった。

 「あのお札本当に偽物なの?」

 「あ、理事長こんにちは」

 「あ!? えっとこれは……」


 後ろからチカ先生が顔を赤くしながら歩いてきた。

 そして申し訳なさそうな顔をしていた。

 「あの……本当にそのお札偽物?」

 「はい。このお札自体からは霊力すら出てないので」

 「そ、そうなんだ……」

 「チカ先生……一体何して何ですか?」

 「あ、ウズメさん……これはその……」


 チカ先生は後ろに何か隠した。

 そもそも何でこの山でこのお札を使いたかったのだろう?

 チカ先生ならこの行為はとても迷惑だと分かるのに。

 その時ワラは何か思い出したように、

 「そういえば今月の未確認生物特集雑誌4月号でこの山に大蛇がいるって書いてありましたよね」

 「ギクッ」

 ……チカ先生?

 どうして震えているんですか?


 「確かその大蛇は人がいなくなったらこの展望台に出てきて眠るとか」

 「はう!」

 あれ? でもなんでワラはそれを知ってるんだろう?

 「ねぇ、その情報何で知ってるの?」

 「……よく読む」

 「そうなんだ……」


 でも意外だな。ワラはとても硬い気がしていたのにわりとふんわりとした雑誌読むんだ。

 「あの、そのごめんさない……ごめんなさい……」

 突然チカ先生が謝りだした。

 「その……ちょっと仕事に嫌気がさして午前中チトセに出張って嘘を言って……」

 「あの、チカさん?」

 「このお札なんかはササにお願いして作ってもらったんだけどね……やっぱり直前にお願いしたらそうなるよね……」

 「は、ははは」

 どうしよう。何て言えばいいの?

 ワラはワラで接点無いからもう話すことないかで無言を貫いてるけど私は私で接点持ちだから慰めようとはしてるんだけど……私は生まれてこの方高校以前は友人なんて存在せず、慰めたことなんて微塵もないからどうすればいいのか分からない。

「あの、ミコトさん?」

「はい」

「ササが良く話してたんだけどウズメさんって彼女?」

「ふぇ!? どうしてそうなるんですか!」

「いえ、“友人”です」

「そう……友人ね」

 チカさんは先ほどの哀愁は一体どこに行ったのか突然年頃の女の子みたいな会話を始めた。

 

 チカさんはそういうとゆっくりと私に近づき、そして何も言わずまた離れていく。

 いや本当に何?

 「確かに二人仲良さそうだしね。あ、もしかして今日この山に登ったのは大滝見に来たの?」

 「いえ、あの……」

 「今日は部活でこの山の土を採取しに来ただけです」

 「へぇー」


 チカさんは感心したのか頷く。

 でもチカさん。午前中出張ならもう帰った方がいいと思いますと思った束の間。チカさんは時計を見て、

 「あ、もうそろそろ学校に行かないと。二人とも! また今度学校で何してたのか教えてね、それじゃ!」

 そう言って駆け足で階段を下りていった。


 とっても嵐みたいな人だな。

 「ウズメ、大滝見に行きたい?」

 ワラは普段通り静かに話しかけてきた。そう言えばワラは私といて楽しいのかな?ワラはなんだかんだ言って私の傍にいたがるけど私はそんなに話さないのに。

 でも……ワラは心から私のことを友人と思ってくれている。

 こんなにも優しい彼を私は友人として見ることが出来ない……最低だ。


 「ウズメ?」

 「え、あうん! 行く!!」

 「そうか……今携帯で調べたが丁度滝でドキドキ・幽霊映るか大会してるみたいだぞ」

 「なにそれ怖い。え、あの滝幽霊でるの?」

 「あの滝は大昔の戦で落ち武者たちがどうせ死ぬなら大騒ぎしてから死のうと決断して鍋祭りしたあと、地元の落ち武者狩りに見つかって……」

 「殺されたの?」

 「地元の落ち武者狩りが」

 「地元の落ち武者狩りが?」

 「そう、落ち武者狩りが」

 「え……?」

 「これはうわさだがそれから毎晩下弦の時にその落ち武者狩りたちの亡霊が『おいらたちまだ童貞なのにー』という声がこの滝で聞こえるらしい」

 いや、あまりにも馬鹿過ぎて突っ込みすらしたくないのだけど。


 何だろう、嫌悪感とかそういうのが一気に体に入ってくる感覚。

 「そろそろ行く?」

 「……うん」

 まぁ、一回行って確かめるのもありだね。


 ―――――――――。

 ――――――。

 ――――。

 


山の奥から流れ出る水が斜面から下り岩肌に当たる。

大滝だ。

ここ、宇納山

名物と言えば大滝であり、この山に登る人の大半はこの大滝目当てと言っても過言ではない。

ちなみに私とワラが立ち寄った展望台はそもそも人があまり来ない場所だったみたい。だからこそ展望台近くの土を取ったワラは何回かここに登っていたのに違いない。

さて、ワラと私は大滝に来てしたのは写真撮影。

 決して幽霊を取りたかったのではなく、純粋に、思い出のため。

まぁ、結局幽霊はいなかったしいいか。


その後、私とワラは大滝を前にボーとした。

 

「……ウズメ」

「何?」

ワラは改まって真剣な顔で私の顔を見た。

と言ってもそれっぽく見えるだけでワラ自体の表情は無だ。

「すまなかった」

「どうして謝るの?」

 ワラが突如謝ってきた。

 どうして?

 私は彼の心なんて分からない……私彼に何かされたかな? いや、されていない。むしろ逆に私は彼にたくさん助けられてきたから恩人のはずなのに。


 ワラは話を続けた。

「感情が出せない男の傍にいるのは怖いだろ? こいつは何考えているのか、自分に対してどう感じているのか分からなくて―――」

「ワラ……」

「でも、これだけは分かってほしい、俺は君を信頼している」

 この時のワラの眼は不思議と安心してしまった。

 それとまず気になったのは何でワラは突然このようなことを言いだしたのだろうか。確かに私自身ワラと少し付き合いずらいと感じていいたけどそれは過去の自分の恐怖・トラウマを引きずっているだけで実際にはワラには何の罪もない。


 むしろ謝るのは私だ。私が謝らないといけない。

 心から私のことを信頼し、そしてこんな最低な私に優しく接してくれる貴方に私は……。

 「私といて楽しい?」

 「……?」

 「だって私が話しても貴方はそっけない返事しかしないし、それに感情を出さないから何が好きなのか分からない……私は―――――、私はどうすればいいの?」

 「―――――」

 ワラは静かに私の肩に手を置き、顔を近づけた。

 

 「あ、ちょっと……その―――――」

 「君は……そのままでもいい」

 「えっと、そのー」

 「ただ俺が言いたいのは……俺を信頼して欲しい、それだけ」

 「わわわわ分かってる! 聞こえてるよ!! ちょっとここ一前なんだから離れてー!」

 私はワラを押しのけてしまった。

 ワラは少し後ろに下がった程度だけどさっきの行為はワラには悪意はなかった。

 でもなんで手を出したの? どうして? どうして?

 「ご、ごめんなさい」

 「いや、大丈夫だ……むしろ嬉しい」

 「は、え?」

 「君がこうやって感情を正直に出してくれるのが」

 この時のワラの顔をみると何故か心がドキドキしてしまった。

 なんで……なんでドキドキするの?

 私は彼のこと何も思っていないのに、どうしてこうもドキドキしてしまうの?


 彼が私のことを信頼してくれているから? それとも友人として見てくれているから?

 「……ちょっと人が増えてきたな。そろそろ降りる?」

 ワラは先ほどの会話は終わったと判断したのか下山するかを聞いてきた。

 本当にどう接すればいいの?


 確かに私は彼のことはとても信頼している――――信頼しているけど……!!

 「ウズメ?」

 「う、うん……下山しよ」


 私は一体……どうすれば?

 

この後何の進展もなく私とワラは下山し、駅のホームに向かった。

私は彼とどう接していけば良いのか余計に分からなくなった。

『男の子の友達出来たら教えてね?』

縫お姉ちゃんはこういったけど友達何て特に異性なんて出来るはずがない。どうすればいいのよ……。

もちろんワラのことは信頼してる。マンジ君もカマタ君も信頼してる。

でも二人はだいぶ表情豊かだから友人とは言えなくとも話しやすい。ワラの場合は完全に顔の筋肉が無いのか表情を一切出さないから何をすればいいのかが見当もつかない。

こういう時どうすればいいのか?

もし本が発売しているなら教えて欲しい、即買いに行く。

けどそれが無いのが現実なんだよね。


 現に今ワラの隣に座ってるけど何の会話もないとても気まずい状況なんだけど。私は乗り換えの駅まで十分もあるのにどうすればいいのかしら。

八百万の神様、もしあれば私を助けてください。

その時ワラの方を見ると何やら携帯ゲームをしているようだった。

 ていうかワラもゲームするんだ。

 まずそれが驚きだ。

 基本的に私の中のワラへの認識は堅物で礼儀に厳しそうな人だったから意外だな。

 さて、今ワラのしているゲームは……あれ、それ何処かで身に覚えが……。

 あ、確か、『末代まで謳歌 ~我が一族の旅~』というゲームだったはず。

この携帯ゲームは全年齢層にとても受け入れられているゲームで、自分のプレイヤーが死ぬまで、仕事も恋愛も自由にできるゲームで、自分のプレイヤーが死んだ歳、子供がいれば子供を操作できるし、いなければまた新しい自分のプレイヤー作って遊べるゲーム。


懐かしいな………………。



昨日したけど。



「どうした?」

「あ、その……今ワラゲームしてるの意外だなーって」

「―――――そうか。ウズメも……いているのか?」

「う、うん。ワラと同じの……」

「そうか……それは良かった」

ワラは心なしか嬉しそうに見えた。

……何だろう、温かく感じる。


『……いえ、すみません。 少しどこかで会った気がしたもので』

 あれ?

 私は入学式にワラに初めて会った時に言われた言葉を思い出し、一回ワラの顔をじっと見てみる。


――――――おかしい。


 なんで彼に対して既視感が……?


 私……彼についてそれほど知らないのに。

 「何か顔に付いてる?」

 「あ、ううん。何でもない」

 「そう」

 「ところでワラ、そのゲームどこまで進んでるの?」

 「……何世代?」

 「そうそう!」

 既視感……そんなのは関係ない。

 もし彼と一回会っていたとしてもそれは過去の出来事。それに覚えていたいのならなおさらだ。

 とにかく今は―――――。


 彼について知りたい。


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