48話 キノコを作りたい
チトセ校長からキノコを使った芸術作品を作って記念祭に展示してくれとお願いされて早くも三日が過ぎた。
一応みんなには相談したけど満場一致でチトセ校長がただ単に変態だからキノコを題材にしてほしいとお願いしてきたという解釈となった。
ワラは気にしなかったけどチヒロさんが一番気にしているようだったのが予想通りで面白かった。
さて、話は戻ってまさに今私は部室で普段目にすることがないチカ理事長からの話を聞いている。
理事長の話している内容はまんま先日チトセ校長が話していたことでそれを理事長が簡単に言い換えたものとなっている。
理事長は話し終えたあと私に目を向けた。
「ウズメさんにはもう説明されたと思うけどやる?」
「まぁ、やりますけど」
私がそういうとチヒロさんは難しい顔をする。
「あの、理事長。せめて最後なのでウズメさんの好きにさせた方がいいとは思うんですけどどうしてもなんですか?」
「一応これは任意だから大丈夫ですよ。けど多分……校長が一日拗ねると思う」
理事長はそう目を逸らしながら話した。
拗ねるだけなのか。ならしなくても良さそうだけど正直三年生になってから感じたのは高校でやりたいことが完全に完遂してしまってやる気が湧き出してこない。
もちろん生活は充実して楽しいけどどこか空っぽだ。
——よし。
「あの、やります」
私のその言葉にチヒロさんはどこか言いたげな表情を浮かべたけど私の気持ちを察してか頷いた。ワラは最初から私の意見を尊重するつもりだったのか私をただ優しく見ているだけ。
チカ理事長は「よし分かった。一応顧問の先生にも話すけどウズメさんも話しておいてね」というと部室から出て行った。
そしてそれに合わせるようにミコミさんが入室すると私たちが集まっているからか困惑した表情を浮かべた。
「あの、もしかして何か集まりですか?」
「別に集まりじゃないから安心して」
「う、うん分かった」
ワラの言葉に安心した顔をする。
そしてチヒロさんは私を見ると肩に手を置いた。
「けどウズメさん。キノコの栽培なんて二年生の時授業で少ししただけで詳しくないでしょ?」
「そうそれなんだけど……ワラは知ってる?」
ワラを見ると少し考えた後頷いた。
「実家が趣味で作っているのを何度か手伝ったけどクリーンベンチを使うとなると先生と一緒にしたほうがいい」
うん、先生に聞いた方が早いよね。これで行こう。
私はそう決心して職員室に向かった。
————。
職員室に着くと私は早速クニイサ先生の元に向かいキノコの栽培を手伝ってほしいことを話した。
先生は少し考えると大きく微笑んだ。
「あぁ、良いですよ。けどキノコを使った芸術か」
「先生は何かご存知ですか?」
クニイサ先生は少し考える。
「キノコを使ったのとなると……ガラス容器の中で栽培して作品としたやつですかね」
先生はそういうと机に置いてあった置物を手に取ると私に見せる。
その置物は球場のガラス容器で中には苔が入っていた。
「確かこのれキノコ版もあったはずですよ。培地で栽培した菌ならともかく、キノコとなると形が決まっているから表現は大変でしょうね。ましてや毒キノコなんてうっかり触っちゃたらしに死にますしね」
確かにその通りだ。
キノコは普段取り扱う菌と違って危険なものも混じっている。
クニイサ先生はしばらく考えた後また机に視線を戻し図鑑を手に取った。
「じゃ、授業で取り扱うキノコにしましょう。その方がウズメさんも安心でしょうし」
「ありがとうございます!」
よし、なんとかキノコはなんとかなりそうだ。
私は失礼しまうっと言って職員室から出るとドアのすぐ近くにワラが待っていた。
「あれ? どうしたの?」
「少し遅かったから見にきた」
「なるほど。あ、もしかして今日の作業終了した?」
「うん。チヒロとミコミはお互い仲良くなろうと外食しに先に帰ってる」
「あー」
チヒロさん先輩と慕われたいって言っていた気がするから誘ったんだろうな。それにしてもミコミさん行くんだそういう誘いには。
「じゃ、ワラ。一緒に帰る? それとも明日休日だからちょっと遊んでいく?」
「ウズメは良いの? 縫さんから付き合っていることに気づいた旨の連絡きたけど」
「——送ってきたの!? あの、なんて?」
ワラは懐から携帯を取り出してメールを読む。
「別に怒ったりはしてないから大丈夫。だけど……」
「だけど?」
「行為した件については長文で静かに怒ってる」
なんだろう。申し訳ない。
ワラは少し頷いた後携帯を懐に戻す。私の手を握った。
「帰りお菓子を買ったら機嫌が良くなりそうだから気にしなくても良いと思う」
「なるほど」
私は周りを見渡した後ワラにくっつく。
「じゃ、どこで遊ぼっか? もう夕方の五時だしちょっとおしゃべり程度しかできないけど。わ、私の家にお泊まりは流石に怒られそうだし……」
「——一応この時間遊べて泊まれる場所なら知っているけど」
「——スケベなところじゃないよね?」
「一番信用できる所。ウズメのためにもなると思う」
ワラは今日一番明るい感じの雰囲気を出す。
そこまで言うのなら仕方がない。
私はワラの言葉に少しばかり邪な期待をしながらついていく事にした。
——————。
「あ、ウズメさんおかわり食べます?」
ワラについて行った先はなんとササ先生の家だった。
久々に訪れたけどやっぱりボロボロだ。
家に着いた時はササ先生はおらず、しばらくワラとワイワイガヤガヤしている間に笑が伝えたからだろう、袋いっぱいの食品を買って帰ってきた。
それからはご覧の通りササ先生とワラと私の三人規模の飲み会が始まった。
ワラは大食いだからか机の上には食べ物しかなく、しかもどれも脂っこそうだ。
「ウズメさん?」
ササ先生はお椀を持ちながら私にそう言った。
私も脂っこいものは大好きだけどこれ以上食べたら太っちゃう。
「あ、私は別に」
私はササ先生からの勧めを申し訳なく断った。するとササ先生はニマニマ笑う。
「けど、ミコトくんと過ごすと太っちゃいますよ?」
「——そう言うササ先生は太ってないじゃないですか」
「私は太りにくいので。安雲でミコトくんの実家に居候している時も同じ量を食べてましたけどご覧の通り変わりませんでしたよ〜」
なんだろうすごく羨ましい。
いやいや、そもそもここにきた目的を思い出そう。私にとって何かしら有意義なことがあるからってワラは言ってた。
だけど今あるのは有意義なことではなく美味しいものだけ。
「あのワラ、ここに来れば何かあるって言っていたよね?」
私が気づくまでワラは忘れていたのかボソッと「あ」と声に出した。
そしてササ先生を見る。
「ササ。趣味でキノコをガラスの容器で育ててなかった?」
「え? あぁ! そういえばメールで言ってましたね。ちょっと持ってきます」
ササ先生はそういうとこの場から離れて寝室の中に入り、ほんの少し待つとササ先生は中にキノコが入ったガラスの容器を持ってきた。
キノコは中にある古い木から生え、土や石、そして草の飾り付けをされるなどまるで山の中を表現しているようだ。
ササ先生は興味が持たれたことが嬉しかったのか心なしか今にでも歌いそうなほどの笑みを浮かべている。
「えーと確かウズメさんはキノコをつあった展示を校長からお願いされたのですよね?」
「はい。やり方も同じようなことは授業でやったから覚えているんですけで、画像も写真だけじゃピンとで分からなかったんです、なので、ササ先生に聞こうと——。ワラ、合っているよね?」
私の言葉にワラは頷いた。
そしてササ先生は少し考える。
「確か授業では培地でキノコを培養はしましたけどここまではしていないですよね」
「そうなんですよ。だからこそ難しいんですよ」
ササ先生はその場に座ると何かいいことを思いついたのか私の頭の上に手を乗せた。
「なら、今度クニイサ先生と一緒に教えますよ。これクニイサ先生が個人で開いているキノコ教室で作ったので」
ササ先生の言葉に言葉は本当に温かいものだった。
こればかりは最後の大仕事だ。
その時ワラがササ先生の皿から唐揚げをさりげなく取るとササ先生が凍りついたように固まるとぎこちない動きでワラを見た。
「ふふふミコトくん。いい度胸ですね?」
「バレたか」
ワラは普段通りの無表情でそういった。
私もいつかワラとの会話もササ先生のような気軽な感じでやりたいな——。
そう思った。