47話 あと残りわずか
お姉ちゃんにワラと付き合うことを認められて早くも三日。
私はササ先生がおそらく縁故で貰ってきた生物芸術展の流れをジュg氷柱考えており気付けば放課後だった。
私は荷物をまとめる。
今日は部活がないからゆっくり考えよう。とりあえず生物芸術関連ならキク先輩に電話で聞いた方が早そうだ。あの人は色々と展示会に出てそうだし。
そして席から立ち上がると私は帰宅した。
帰宅して誰もいない家の中ですぐに部屋に駆け込むと携帯をキク先輩に電話をする。
やはり大学生は忙しいのか電はを二回掛け直したあたりでようやくキク先輩と繋がった。
『あ、ごめんごめん! 電車の中だったから出れなかったよ!』
「こちらこそすいません。あの、今大丈夫ですか?」
『大丈夫大丈夫! ウズメちゃんとのお話ならいつだって良いよ!』
相変わらずキク先輩は元気な声で心の奥底を温めてくれる。
そこで早速私はキク先輩に相談をした。
キク先輩はしばらく考えるといいことを思い出したかのように少し笑う声が聞こえた。
『その展示会は今後の国の芸術を振興する為なんでしょ? だったら好きなことしてもいいはずだよ。別にアニメや漫画になるような人気を目指さなくても人気な芸術家はいるでしょ?』
「それはそうなんですけど……」
『ウズメちゃん。ならこの農業高校で何がしたいかを気づいたことを表現すればいいんじゃない。自分自身を見つめ直してみたら考えが変わってでしょ?』
「——はい、分かりました。なら、少し弾けてみます」
『よし、これでこそ私の後輩だよ』
私はキク先輩の賑やかな声に心を救われる。
やっぱり自分らしさを見せるのは本当に難しい。
————。
それからと言うものの、私は必死に努力をしてワラはチヒロさんの助けを借りたが早速問題が起きた。
展示会は二月末、そして今は二月中旬の十二日。
私は三人で席に座り、冷や汗を流しながら頭を下げた。
「えっと、どんな感じの絵か悩んだけどね、うん。必死に考えたんだよ? まずそれを言うから怒らない?」
「いや、別に怒りませんよ」
チヒロさんの言葉にワラは頷く。
その二人の言葉と態度を信じて私は紙に描いた絵を見せる。
今回作る作品は私としても何を土地を狂ったのか難易度が一番高い10種類の菌を用いることだ。
キク先輩は絶対複数では作らなかった。それは工程が大変なのと失敗する可能性が高いからだ。
だから私みたいに全ての金を混ぜ込み、一か八かで綺麗になったやつを作品にするというまさに目の前で珍しく露骨に引く作戦。
チヒロさんは我に返ると頭を抱える。
「ウズメさん。この作品の理由を聞いても?」
「——人生は運。ただそれだけ」
「なるほど……なるほど?」
チヒロさんは困惑の表情を浮かべる。
今回の作品の意味は簡単に言うと人生は運と言うもの。
菌は一見汚く見える。
それは私が最初に人をどうみていたのかを表す。それがきれいに見えるのは人と言うのは味方によってはきれいだという事だ。
ワラは私の作品をじっと見る。
「菌はどれを使う?」
「今のところは落下菌で適当に採取したのを使うけどこの季節は繁殖しにくいから既存のも使った方が良いよね?」
その言葉にチヒロさんは少し頷く。
「えぇ、そうですね。標準株ならもしかしたら良いと思いますし、そこはウズメさん次第ですね。あと、この作品自体ウズメさんを投影しているみたいでとても好きですよ。ね、ヒビワラさん?」
ワラはチヒロさん言葉に頷く。
二人がこれで良いのならこれで完成にしよう。
「じゃ、早速やろ」
私たちは早速シャーレを5個用いて試しにやってみることにした。
その時私は人生でかなり後悔した。
——————。
十二日の一週間後は十九日。これを理解しておけば良かったのにどうして量産しなかったのだろう。
私は培養器からシャーレを取り外してラップを外す。
培地に繁殖した菌は落下菌で採取したものと、キク先輩が使って残した菌を組み合わせて製作した。
結果はまるで抽象画のような出来だ。
奇跡的に大体は色合いが綺麗であるものの、抽象的であまり伝わらないように思えるけどタイトルを見れば想像に難くはない。
後ろに立つチヒロさんは興味深そうに見る。
「意外と成功するんですね。私は隣の網目状みたいに繁殖したものが好きですが」
「なんだろう、いつものキク先輩と同じ作り方だけどこっちの方が気持ちを乗せやすくて良かったかな」
「ギリギリですけどね。ですがこれは冷蔵庫に保管して展示会に持って行くものはどうしますか?」
「うん、そこ考えてなかった……」
私が悩んでいるのをみかねてかワラは何か閃いたかのように私を見る。
「カマタの家に確か三次元カメラがあってそれを撮ったら撮った物を三次元でパソコンに保存できたはずだけど」
「——あ、それを三次元印刷する感じですか?」
チヒロさんの言葉にワラは頷く。
あ、その手があったか。
「だけどカマタくんはそれ良いの? 材料は高いって聞くけど」
「あいつは副業でボロ儲けしてるから端金。あと実家も金を持っているから気にしない」
ワラはそう言いつつもカマタくんに電話をかける。
そして許可を貰った。
「えーとなら……」
「展示会までの残り時間、たくさん作りますか」
チヒロさんは私の肩を叩いてそう言った。
——————。
————。
——。
それから時が過ぎて二月二十七日。展示会当日を迎えた。
会場には私とチヒロさんと笑の三人で引率の先生としてササ先生が来てくれた
。
私は展示をチヒロさんとワラの三人で回りながら作品の模型を頭に思い浮かべる。
結局作った作品の中で持ったものは幾つかあったけど運営から万が一の生物災害が起きる危険性が指摘されて模型のみとなった。
作品を設置した後は特段することが思い浮かばず三人で色々と観て回っているけど色々と面白く刺激となる。
例えばからくり人形に人工知能を組み込んで生物のような動きを表現した作品などがあったりさらに宇宙の架空の生物や人類滅亡後の生物などの絵やゲームなど色々置かれていて楽しい。
ワラはやはり男の子だったのか宇宙の広大さを描いた映像に見惚れたりしている。
——私も嫌いじゃないけど。
そう思っているとチヒロさんはお手洗いから戻ってくると困った顔で私を見る。
「あの、ウズメさん」
「どうしたの?」
「まだお昼前ですけど、展示全て見終わっちゃいましたよね」
「——あ」
この展示会の欠点はただ一つ。知名度が無さすぎて作品の品質の高さと会場に足を運ぶ人の数が一致していないことだ。
————。
そんなこともあって色々と堪能して展示が終わり、ササ先生の元に戻ると何やら考え事をしていた。
「あの、ササ先生どうしました?」
「あぁ、ウズメさん。いえ、会場の規模の割に人が少ないなとは思ってませんよ?けど、一日で終わってよかったですね」
「はい。ですけどこの展示会は賞とかがなかったので平穏すぎましたけど」
ササ先生は少し屈むと私の頭を撫でる。
「平穏だからいいじゃないですか。色々といい刺激になったんじゃないですか?」
「はい。色々といい経験にはなりました」
私は振り返るとワラとチヒロさんを見て頭を下げた。
「その。今日はありがとう。私のわがままを聞いてくれて……」
そして顔を上げると二人は嫌な顔を見せず、特にワラは表情はいつも通りだったけどどこかしら嬉しそうだった。
————。
それからやがて四月となり三年生に進級し、ワラの妹のミコミさんが入学した。
ミコミさんはまるで一年生の時の私みたいにバタバタとした入学式を終え、その時に友人が出来たみたいだ。
そして私と同じ生物工学部に入学し不器用ながらも放線菌の研究に参加して不器用ながら頑張っている。
さて、オホウエ先輩とスズカ先輩の二人の研究は最終的に最優秀賞を取り全国大会にも出場に金賞を獲得して華やかに卒業した。
お世話になった生徒会の方々にもお礼を伝えることもできたし満足だ。
三年生となった私は意見もなくば就職活動もする必要もなかったため、他の人たちとは違う道を歩んだりしていて寂しさを感じつつもまぁ、大丈夫だろう。私はみんなの事信じている——。
その時窓の外を眺めていると不意に頭を軽く叩かれる。
頭をさすりながら振り返るとチヒロさんは呆れたような顔をしていた。
「あの、ウズメさん? いくら進学も就職もしないと言っても勉強はしないといけませんよ?」
「いや、大丈夫だから! 勉強してるもん!」
「そう言う割には……ヒビワラさんと付き合ってから不真面目になってませんか? 授業ずっと眠そうですし。正直言って可愛いですが……留年したら笑えませんよ?」
「むぅ、チヒロさんみたいになって家業継ぐけど真面目に勉強する人って少ないと思うんだけど」
「ヒビワラさんも真面目にしてますけどね?」
私は目を逸らす。
しかし、チヒロさんはそれを許さず私の視線を無理やり自分に向けさせる。
「——結局ウズメさんはこの農業高校で何がしたかったのですか? 農業とも関係ない道に行くのは一定数いますけど大多数はその場の勢い。けど、ウズメさんは違いますよね?」
「——うん、私がしたかったのは土の香りを感じてもう一度自分を見つけたかったんだと思う。自然の息吹に触れるのって心を穏やかにして色々と考える機会を作ってくれるんだねって思うよ」
ちょっと痛かったかな?
チヒロさんは袖で口元を隠すとふふっと少し笑った。
「ですね。何がしたかったのかなって結局は後付けで人が都合良くしただけなんで分からないんですよ。だから人生は博打なんですよね」
——チヒロさんの言う通りだ。
私はそもそも白衣を着て研究してみたいって思ったのがきっかけだったはずだし気づいたら根こそぎ変わっている。
これは私以外だってそうなのだろう。ミコミさんも、植物が好きだからこの高校に来た。ワラもカマタくんもみんな違う考えを持っているのだ。
————。
それから放課後のなり、部活動の時間。部室に入るとミコミさんは顕微鏡を出したりするなどせっせと働いていた。
「あ、ウズメせ——ウズメちゃん お疲れ様です」
——うん、先輩と呼ばれることを期待したんだけどもうどうしようもない。誰とは言わないけどミコミさんは私をちゃん付けするようになった。
本当どこのツボミちゃんだ。
私に続いて入ってきたチヒロさんは「ミコミさん、せめて先輩ってつけてあげてください」と形式的なことを言ってくれた。
ちなみにワラは校長先生の手によって無理やり生徒会と農業役員を兼業させられているため多分途中参加だろうし、今日は一になく暇だ。
私は席に荷物を置くとミコミさんを見る。
「ミコミさん。ミコミさんはこの農業高校で何がしたい?」
「え?」
さっきまで実験の準備をしていたミコミさんは手を止める。
ミコミさんはしばらく考えると首を横に振った。
「まだ、何も見つからないです。本当に勢いだけで入ったので……」
「——そっか。なら今年中に見つけよっか」
「——は、はい!」
ミコミさんは元気よく声を出す。
そして隣にいたチヒロさんはまるで保護者のように優しい目で私を見る。
この三年間、まだ途中だけど奇想天外なことが連続だった。笑い涙ありの高校生活の中、チヒロさんがどういった目標を持つのか楽しみでしかない——。
私は体を伸ばす。
「さて、研究しよう!」
私はこれからも、前に進むんだ——。
私が体を伸ばしたのに合わせてササ先生が慌てた様子で部室にやって来た。
「ウズメさん。校長先生が職員室で探してましたよ〜!」
「え?」
もしかしたら最後、よからぬ事があるのだろう。
————。
駆け足で校長室に向かい、中に入るとチトセ校長が背中を向けて窓から空を眺めていた。
いつもなら意味不明なことを言う校長先生がこんなにも黄昏れるなんて珍しい。
いつものバカなところを見せないのは何かやましいことをしたからに違いないだろう。
私は息を飲むを勇気を出して声を絞り出す。
「あの、校長先生……」
「——なんだい?」
「ついに犯罪で逮捕状が出たんですか?」
私の言葉のせいか室内が急に寒くなる。
心なしか校長先生がこちらに振り返ってくれないせいで恥ずかしさが増す。
校長先生はゆっくり振り向くと宙に浮かんで私に近づいた。
「——あの、また定員割れちゃったんだけど。国営の展示会で多額の出展料を払って赤字が出てこんな結果なんだけど」
校長先生は虚無の表情で私の顔に近づく。
「——そこでウズメさんに頼みがあるんだよ」
「頼みって何ですか? 破廉恥なことを要求したらワラとササ先生に言いますよ」
「いや、流石のボクも彼氏がいる子にはしないよ!?」
校長先生は心外そうな表情を浮かべた。
前科がなくてもこの三年間での評価だと言うことを自覚して欲しい。
そして校長先生は何を思いついたのか私の頭の上に乗っかるとジタバタと暴れ出す。
あまりの力にふらつくも何とか体勢を維持する。
「ウズメさん! これは去年というか一昨年にキクさんにお願いしたのと同じ手法! それは記念祭で生物芸術展改作戦を実行するしかないんだよ!」
「お、同じ手法なんて通じます!?」
「知らん! やるしかねぇ!」と校長先生は声を荒げると私の頭から飛び降り足元に着地した。
私は膝に手を着き息を荒くすると校長は私に触手を向けた。
「あ、最後はボクが選んでも良いかな?」
「——? 別に良いですけど」
チトセはそう言うとニマニマしながら上目遣いで私を見る。
「キノコを使った作品を作って欲しいな〜なんて。君への最後の課題だよ」
「え、キノコ?」
校長先生は最後に大きな課題を私に送ってきた。