漫才「ハンカチ」
漫才30作目です。どうぞよろしくお願いいたします。
この作品は、youtubeにも投稿しております。
学校の廊下。洗面所の前を、生徒が通りかかる。
顔を洗い終わった先生が、顔を上げて後ろを振り返る。
先生と生徒の、目と目が合った。生徒が顔を背けて逃げようとする。
先生「丁度良かった、おい、ハンカチ貸してくれ」
生徒「ええーっ、顔を拭くんですよね?」
先生「嫌なのか?」
生徒「ええ、おもいっきり嫌です」
先生「手を拭くんだよ、だったらいいだろ」
生徒「顔は?」
先生「拭かないよ」
生徒「顔、濡れてますよね?」
先生「顔はほっとけばすぐに乾くだろ。手はそうはいかないからさ、だからハンカチ貸してくれ」
生徒「手だって乾きますから、ほっとけばいいじゃないですか」
先生「冷たいなあ」
生徒「ぜったいに顔を拭くに決まってますもん」
先生「あ、教師を信用しないのか?」
生徒「信用したくても、出来ないんです」
先生「なんでだよ」
生徒「常日頃の行いです」
先生「それは昨日までの俺のことを言っているんだろ。確かに昨日までの俺はそういう人間だったかもしれないよ。でもな、今日の俺の何をお前は知っているというんだよ。俺はなあ、心を入れ替えたんだよ。今日からの俺は違うんだ」
生徒「それ、六時間目が終わった時に聞かせてください」
先生「なんだよそれ」
生徒「ほんとかどうか、一日見てますから」
先生「チッ」
生徒「先生、ワイシャツの裾がはみ出してますから、それで拭けばいいじゃないですか」
先生「おお、ほんとだ、自前のハンカチがこんなところにあったんじゃないか」
裾を引っ張り上げて顔を拭く。
生徒「やっぱり、顔を拭いたじゃないですか」
先生「ずるいじゃないか、ひっかけ問題かよ。生徒のくせに、教師みたいなマネしやがって。かわいげのない奴だな」
生徒「女子生徒に対して奴って言い方はないんじゃないですか?」
先生「はいはい、かわいげのない奴子さん、これでいいですか?」
生徒「それじゃあおんなじです。謝って下さい」
先生「反抗的だなあ。もう、テストの採点、やらせてやんねえからな」
生徒「あれは頼まれたからやっているだけでしょ。やらせてもらっているんじゃあなくて、手伝ってあげてるんじゃないですか」
先生「手伝わせてやってるんだよ」
生徒「じゃあいいです、もうやりません」
先生「いいのか?」
生徒「ええ」
先生「本当にいいのか?」
生徒「はい」
先生「考え直した方がいいんじゃないのか?」
生徒「大丈夫です」
先生「考え直せよ」
生徒「結構です」
先生「考え直してくれ」
生徒「嫌です」
先生「頼む、このとおり」
生徒「ノー」
先生「くそ、いいよいいよ、せっかく今までえこひいきをしてあげていたのに。もう、してやんないからな」
生徒「どんなえこひいきをしてくれたんでしょうかね?」
先生「通信簿を5にしてあげてるだろ」
生徒「それは私がテストでいつも満点を取っているからでしょ」
先生「満点を取らせてあげているんだよ」
生徒「はあ?」
先生「お前が答えられそうな問題を、俺がわざわざ選んでテストを作っているんだよ」
生徒「そんな必要ありません。しなくて結構」
先生「じゃあ、言っておくけどな、お前の答案用紙、解答欄を消しゴムで消してしまうことだって俺にはできるんだぞ」
生徒「ずるい」
先生「満点じゃなくなるんだぞ。それでもいいのか?」
生徒「ひどい」
先生「先生だってな、本当はそんなこと、したくはないんだぞ。お前があんまり我を張るようだと、先生にも考えがあるということだ」
生徒「わかりました、ハンカチを貸せばいいんですね、どうぞ」
生徒がハンカチを差し出す。
先生「え?」
生徒「ハンカチ貸してほしいんでしょ。私が貸さないって言ったから怒ってるんですよね?」
先生「さっきまではな」
生徒「じゃあ、どうぞ」
先生「もう、自分で拭いちゃったんだよね」
生徒「いらないんですか?」
先生「うん」
生徒「ほんとうに?」
先生「ああ、ほんと」
生徒がハンカチを引っ込める。
生徒「じゃあ、次の授業がありますので失礼します」
先生「ああ、頑張れよ」
生徒「はい」
生徒が立ち去る。
先生「あれ? なんかへんだな」
読んでくださり、ありがとうございました。