第16話 解決
「なるほど、情報提供に感謝する。進捗があり次第、連絡をしようと思うのだが、何か連絡の取れる手段はあるだろうか?」
「必要、ない…。」
レイラは一言返すと、その場で少し屈み、前方に大きく跳躍した。
「おいおいマジかよ…。」
つい口から飛び出す驚きの声。
20mはあろうかという距離を一瞬にして詰めたのだ。誰しも驚いて当然だろう。
憲兵隊、レオンと共に少女が跳んだ先へと急ぐと、茶色のコートを来た男が一人のびていた。
どうやら犯人の片方を着地とともに踏み倒したらしい。
「げ、憲兵隊…と、お前何だ?…いや、今はそれより離脱が先か。」
声の主は背の低い方らしい。その左手には仄かに赤く光る短剣が握られている。右手は背後に。
(何か隠してそうだな…。)
対峙するレイラは無傷。こちらは特に武装していない。
「こいつらか?」
一応確認の為声をかける。答えはわかっているが。
コクン。レイラが頷く。
「ま、それしかないわな。なああんた、取引しないか?」
少々ずるい手を使うこととする。
「取引だぁ?憲兵隊連れてきてんのにか?」
まあ、そういわれるのは当然だろう。
「少なくとも悪いことした自覚はあんだな。ならまあなおさら取引がしたい。とりあえず取引の間は憲兵隊に手を出させないってことでどうだ?」
本人たちにも聞かせるために少し大きめの声で訊ねる。
「取引後までだ。取引終えたらはい逮捕じゃたまらんからな。」
「今約束は出来ん。そこも取引で入れたい。」
「とりあえず中身を聞こう。その間憲兵隊に手を出させないと約束させろ。」
「分かった。ということだがいいか?」
「何をするつもりなのだ?あやつと取引とは…。」
「まあ見ててくれ。それで返答は?」
「分かった、これ以上被害が出ないのならこちらとしても助かる。」
俺は犯人に向き直る。
「了承を得た、取引をしようか、今からそっちに行く、特に何も持ってない、いいな?」
両手を上げてひらひらさせる。
「服の中にも隠してないな?」
「ああ。」
「よし、こっちへ来い。俺から1m(メートル)程離れて止まれ。」
言われた位置まで歩く。
「よし、それじゃあ取引の内容だがーーー」
「そいつの持ってたネックレスと何を換えるんだ?無論等価以上だろうな?」
「なわけ。こちらが上だ。お前の相方が持つネックレスとこの後1日時間を貰う。それと引き換えに、今回の事件を帳消しにする。どうだ?」
「ふむ。悪くはない…が、1日で何をするかによるな。そこを明かさねえなら受けられん。」
「ガイドだ。この町について教えろ。」
「……は?もっかい言ってみろ。聞き違いかもしれん。」
「ガイドだ。」
「…ぶはっ、はは。町のガイドと盗品返しで事件一つ帳消しか、こりゃあいいや。オーケー、呑んだ。」
そう言うと、そいつは相方のポケットから翡翠のネックレスを投げてよこした。
「オッケー、ちゃんと受け取った。少し待ってろ。」
そう言って俺はレイラにネックレスを返し、彼女の顔が安堵の色を持つのを見届けた後、憲兵隊長のもとへ足を運んだ。
「取引成立だ。ネックレスは見ての通り持ち主に戻った。あいつらの今回の一件は帳消しってことにした。あんたらも報告をしなきゃいけないだろうから、今回の騒動は俺がうっかり持ち物を間違えたってことで処理してくれ。」
「我々としては盗品騒動があったのだからしっかり始末をつけたいのだが…。」
「帰ってきたんだから一件落着。な?」
「…分かった。そういうことにしておく。」
「おう、よろしく。」