城での夜
依頼を受けたあと、俺は客室に通された。最初は断ったんだが、連絡を取り合うのに不便だと言うのと、リエラの護衛の件とで、依頼を受ている間はこの客室で暮らすことになった。
「しっかし、こんなベッド初めてだな」
部屋の中は、ベッドとテーブル、そしてクローゼットだけのシンプルな部屋だ。だだ、ものの質が違うし、部屋も広い。特にベッドこれは、人間を駄目にするやつだ。
俺がベッドの質に感動していると、部屋のドアがノックされた。
「ダスト様、夕食の用意ができましたので、食堂までお越しください」
もうそんな時間か。取り敢えず返事をして食堂に向う準備をする。
「やあ、遅かったね。さぁ、座って座って」
食堂に行くと、そこにはリエラとシモンそして爺さんがいた。普通、傭兵とは食わねえだろ。まあ、この人なら仕方ないと諦めよう。そうでもしないと、俺の中の何かが崩れそうだ。
俺が言われたとおりに席に座ると、料理が運ばれてきた。一口食べてみる。すっごい美味い。美味いもんだから、状況も忘れて食べることに集中してしまった。
はっ、と我に返ってみれば、リエラたちが何か微笑ましいものを見るような目で俺を見ていた。
「ははは、そういう所は年相応かな?」
シモンがからかうように言ってくる。何か勘違いしてそうだな。
「相応ですか?」
「ん?見たところ君は17、8歳てところだろう?」
ああ、やっぱりか。こればっかりは体質だからな、よく勘違いされる。
「あーその、よく言われるんですけど、私は今年で35歳になるんですよ。その夕食のほうは、あんまり美味かったもんで、ついがっついてしまいまして。すみません」
そういうとシモンは目を見開き、表情が驚きに染まった。そして震える声で聞いてくる。
「き、君はもしかして完全適合者なのか?」
完全適合者、獣兵のエネルギー器官が適応しすぎた奴がなるやつだったな。それになると、逆に寿命が伸び、通常の獣兵じゃ考えられないくらいに強くなる。
だが、残念な事に俺は違う。むしろ、そのほうが楽だったんだが。
「違いますよ。一応私は、人間ですよ。私はちょっと特殊な体質でして」
「そう、か。ではもし、獣兵に適応出来るとわかったときなってみる気はないかい。君なら英雄にでもなれるけど」
何処か期待を込めるように聞いてくるシモン。だが、俺は獣兵になるつもりはない。と言うか移植しても俺の体質上、意味ないだろうからな。
「いえ、私はまだ人間をやめるつもりはありませんので」
取り敢えず、こう言って断っとけば大丈夫だろう。俺の答えを聞いたシモンは、予想どうり引き下がってくれた。
「そうか、それは残念だ。とはいえ、気が変わったらいつでも言ってくれ。取り敢えず、今は食事を楽しむとしよう」
そこからは、大した事もなく食事が進んでいった。強いて言うなら、今まで俺がどんな依頼を受けてきたかとか、どんな生活をしていたのかを聞かれたくらいだな。
客室に戻ると、俺はベッドに倒れ込む。しかし、ここに来てから何度も驚かされるな。まさか、風呂なるものに入れるとは。あれはいい、まるで生き返るような気分だ。上にいた奴らは毎日こんなのに入ってたんだな。
そんな事を考えていると、また部屋のドアがノックされた。
「ねぇ、ダスト。起きてる?入っていいかしら」
どうやらリエラのようだ。こんな夜に一体何の用だろう。
「ああ」
そう答えると、リエラは遠慮がちに入ってきた。
「どうしたんだ?」
取り敢えず、テーブルにある椅子を勧め、どうしたのか聞いてみることににする。
「その、今日の夕食のときの話なんだけど。ダストは獣兵になるつもりはないって言ってたよね」
いきなりなんだ。話が見えてこないな。
「言ったな」
「それで気になったんだけど。ねぇ、外層の人たちから見て獣兵ってどんな印象なの。人を獣兵にすることにどんな思いを抱いているの?」
そういうことか。別になんとも思ってないんじゃないかって言っても納得しないだろうな。はあ、あんまり獣兵の話はしたくないんだがな。昔を思い出す。
「俺個人としては、思うところはあっても必要なものだという認識だ。そして、殆どの傭兵たちもおんなじような意見だろう」
話しだした俺を、リエラは真剣な目で見ている。それを眺めながら俺は話を続けていく。
「ただ、俺の主観になってしまうが、戦場に出ない民衆は違うように思えた。あいつらは獣兵を何処か英雄視していて、それを生み出す都市を運営する者たちに感謝している。そんな印象を受けた」
俺が言えるのは、こんなところか。傭兵は獣兵がどんなやつか知ってるから必要だと思ってもなりたがらないのがほとんどだし。民衆の意思も対して変わらんだろう。
「そう、なのね。恨まれてるんじゃないかって少し怖かったの。ちょっと安心したわ」
肩の荷が降りたような表情をしながらそんな事を言っている。これで、話は終わりかと思っていたのだが、続く言葉に俺は凍りついた。
「ねぇ、もし私が、獣兵になりたいって言ったら、あなたはどう思う」
「………」
俺はどう返せばわからなかった。ただ、こいつは絶対に、辞めたほうがいいのは分かる。多分適応しすぎるだろうから。
「ごめんなさいね。会ったばかりの人に聞くことじゃなかったわね。でも、なぜかどうしても聞きたくなったの」
俺が答えに窮しているのがわかったのか。少しすまなさそうにしながらそう言ってきた。
そして思い出したように付け加えてくる。
「それと、今更だけどあなた、私には敬語使わないのね」
「あ…。」
そういえば、そうだった。変えたほうがいいのだろうか。
「ふふっ、そんな顔しない。別にいいわよ。今まで気さくに話しかけてくれる人なんていなかったし。むしろこのままでお願いするわ」
「あー、すまん。助かる」
いや、ホント助かった。なんかこいつには、最初から使う気が起きなかったんだよな。
「いいわよ。じゃ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
リエラが俺の部屋から出ていくと、俺はベッドに横になる。依頼の出発は2日後、それまでに用意しなければ。そう考えながら、俺の意識は闇へと落ちていった。




