都市の主と依頼
俺が心を読んでくる爺さんに戦慄していると、目的の部屋にたどり着いていた。
「旦那様、お連れしました」
「分かった、入ってくれ」
爺さんがノックをして呼びかけると、男の声が帰ってきた。
部屋の中に入る。中央にテーブル、それを囲うようにソファーが置かれている。その一つに初老の男が座っていた。
「話はリエラから聞いているよ。さぁ、座ってくれ」
「はぁ」
男がソファーの一つを示し座るように促してきた。断る理由もないので、勧められた通りに座る。
俺が座るのを確認してから、男は話し始めた。
「さて、まずは挨拶から行こうか。私は、シモン・トゥベルク・ラ・リベラだ。予想はしていると思うが、リエラの父親だよ。娘を助けてくれたこと、父として礼を言わせてもらいたい。ありがとう」
「なっ!」
そう言ってリエラの父、シモンは頭を下げてきた。あまりの事態に、俺は言葉失ってしまう。普通このあたりというか、中層以上の奴らは、時分から頭を下げることはないのに。特に、傭兵とか最底辺の人間には。
そんな俺のことを見かねたのか、爺さんが助け舟を出してくれた。
「旦那様。お客様が困っておられますよ」
「おお、済まない。ついね」
ついで頭を下げないでくれ。と言うかリエラ、笑ってないで助けてくれよ。
「あー、俺はいや、私は傭兵ですから報酬さえ払ってもらったら問題ありません。それに、今回はたまたま通りかかっただけですし」
敬語苦手なんだよな。そんな事を思いながら、問題ないことを伝えたら、シモンはなにか驚いたような表情を向けてきた。なぜか、リエラと、爺さんもおんなじような顔をしている。
今の言葉にもんだいでもあったのだろうか。
「驚いた、傭兵には敬語を話せる者はいないと思っていたが」
あぁ、そういうことか。確かに、傭兵の殆どはそうだろうな。
「ああ、私には師匠がいまして、その人に基本的な事は教わっています」
色々と問題もある人だったけど、あの人には感謝してもしきれない恩がある。
「ほう、それは是非あってみたいものだな。今どこにいるかわかったりするかい?」
「いえ、申し訳ありませんが、私の師匠はすでに……」
そう、俺の師匠は死んでいる。10年以上ずっと前に。俺の目の前で死んだからこれは確かだ。
「そうか、それは申し訳ないことを聞いた。……ゴホン。では、気を取り直して、あー」
そういや名乗ってなかったな。
「ダストです」
「そうか、ではダスト君。報酬のことだが、そうだな1000リギルでどうだろうか」
「は?」
高すぎないか?大陸通貨の最低単位が1リル。で1リギルは確か、1000リルだから1000リギルだと……、全部で1000000リル、だと。俺の一月の稼ぎは大体1000リルくらいなんだが。
「ふむ、やはり足りないか。では、2000いや3000でどうだ」
何を勘違いしたのか、報酬を増やしてくるシモン。そういう意味じゃないんだけど。
「……そういうわけではなく、高すぎませんか?」
このままだと申し訳ないので、どうしてこんなに高いのか聞いてみる。
「何を言っているのだ。基本、壊獣を仕留めるには最低でも10人はいる。それを、一人で倒した上、都市首長の娘を助けたんだよ?これくらいは普通さ」
そういうものなんだろうか、爺さんたちもうなずいている。しかし、あんな弱い壊獣にそんな感謝されてもな。あれなら相応の奴が何人がいれば倒せる。
「なに、迷ってんのよ。払うって言ってんだからもらっときなさい。それとも、これくらいなら貰わなくてもいいくらい、お金にはこまってないの?」
それもそうか。確かに金には困ってるし、貰ってもこちらに損はない。
むしろ正当な報酬として支払われている以上断ったほうが失礼になる。ここは、リエラの言うとおり素直に受け取っておこう。
「納得してくれたようで何よりだ」
どこか安心したように、シモンが俺に言う。だが、次の瞬間には真剣な表情を俺に向けてきた。
「さて、ダスト君。ここからが本題なのだが、その前に質問だ君は獣兵について知っているかい」
獣兵か。嫌な事思い出すな。壊獣の体内にあるエネルギー器官を人間に移植して作られた対壊獣生体兵器。
「ええ、知っていますよ。壊獣のエネルギーを取り込んだ生体兵器ですよね」
「ああ、そしてその器官を取り込むと適応値にもよるが、使用者の寿命が著しく削られる」
知ってる。壊獣の持つエネルギー、ペルピアスは生きていれば膨大なエネルギーを生み出し続け、使用者に強大な力を授ける代わり、肉体に負担がかかって寿命がその分縮まる。ほとんど適応できないやつなんて10秒くらいで死んじまう。
「その上、適応出来なければ、直ぐに寿命は尽き死んでしまう。だから、それを補うために私達が普段使っているエネルギー、エスペルを使っての兵器も開発されたが変異魔獣ならともかく壊獣相手では全く意味をなさなかった」
あー、なんとなくわかってきたぞ。こいつが何を言いたいか。
「また、一度移植したエネルギー器官は、使用者が死ぬと同時にその器官も死ぬ。だから常に不足しているんだ」
ここでシモンは言葉を一旦切る。そして、俺の目をまっすぐと見つめてこう言ってきた。
「都市首長として、傭兵ダストに依頼する。壊獣のエネルギー器官を集めてくれ」
やっぱりか。まぁ、別にそれは構わない。獣兵なんてない方がいいと思っていても。なけりゃ対抗できないやつもいるからな。問題は、
「どれくらいの期間、どれくらいの数を持ってこればいいのですか」
報酬については心配してない。リエラの剣でケチるようなやつじゃないことは分かったからな。
「その話もこれからする。まず期間については、君から断らない限りは、無期限。数については、そうだなできれば、月に1つか2つは持ってきてほしい。ただ無理はしないでくれ」
それだけでいいのか。かなりの好条件だな。
「で、必ず。リエラを連れて行ってくれ」
……なぜ?ものすごく足手まといなんだが。そんな考えが顔に出ていたのか、シモンは苦笑しながら言葉を続ける。
「そんな顔しないでくれ。こう見えてもリエラは技術開発者でね。客観的に見ても天才さ。この前、圧縮保管法なるもの開発したらしくてね、これがまたすごいんだ」
「圧縮保管法?」
なんだそれ。俺が疑問に思っていると、リエラが説明を始める。
「それについては私が説明するわ。まだわたし用のやつしかできてないんだけど、圧縮保管法っていうのはね。物をブワッてしてからキュッとする方法なの」
空気が固まった。いや、ほんとに何が言いたいんだコイツは、もう少しわかりやすくしてくれ。シモンも爺さんも固まってるぞ。
「…お嬢様、実際にやって見せてはどうかと」
「それもそうね」
ナイスだ爺さん、あんたがいなかったら、今の謎言語で説明が終わってたぞ。
俺が爺さんを心の中で絶賛していると、リエラは誰も座っていないソファーに近づいていく。そして何か腕はのようなものを取り出すと、
「圧縮」
と言った。その瞬間、グンッと言う音が聞こえてきそうな勢いでソファーか手のひらサイズまで小さくなった。そして、
「解凍」
と唱えると、もとの大きさに戻った。解放じゃなくて解凍なのがきになるが、普通に凄い。これなら持ち運びも楽そうだ。
「これで分かってもらえたかな?」
「ああ」
現状、リエラしか使えないなら仕方ない。俺の返事に満足そうにうなずくと、シモンは報酬について話し始める。
「それで報酬なんだが、相手の格にもよるが、壊獣の核一つにつき最低10000リギル、体も持ってきてくれるならさらに5000リギルだそう。そして、この依頼にはリエラの護衛も含まれるからね、毎月10リギル。これでどうだ?」
破格の報酬だな。その分責任も大きいが。まあ今までの生活を考えると受けない手はないな。
「分かりました。その依頼受けさせていただきます」




