ひとまずの決着
追いつかない……
どうしよう。女の砕けて骨がはみ出している腕を見ながら考える。うん、ちょっと気合入れて殴りすぎたな。
他の三人もその惨状を見て、心が折れたのか膝をついて顔を青ざめさせている。
「ひっ。ば、化け物…」
おいおい、酷いな俺はまだ人間のつもりだぞ。そんなチラッてみただけでガグガクしないでほしい。
「そ、そこ、そこまで!勝者、ダスト」
相手の戦意がもうない事を見て取ったのか、青ざめた審判が物凄く噛みながら、試合の終了を告げる。そんなに怖がらなくてもいいのに…。
で、これからどうすればいいんだ。俺が迷っていると、パン、パンと乾いた音が響いてきた。
音の方向に顔を向けると手を合わせた状態のシモンがいた。
「さて、試合も終わったことだし、取り敢えず部屋に戻ろうか。ここじゃ、落ち着いて話せないだろうしね」
それもそうだな。そういやあの豚、随分静かだな。そう思った俺が豚を見ると、何が起こったのかわからないと言うような表情で呆然としていた。
ということで、俺は最初の部屋に戻ってきた。
部屋に入ると相手になった四人以外は既に集まっていた。
「さて、集まれるひとは全員集まったな」
俺がシモンの後ろに立つのを確認してから話し始める。なんか、集まれる人のところにやけに強調してるな。
「ぐっ……」
うわぁ。すごい顔してるな。ただでさえ豚みたいな顔してるのに、顔が潰れてなんか一瞬人じゃないみたいに見えるぞ。
「それで、試合の方はダストくんの勝利で終わったわけだが、何か言いたいことはあるかい?ダストくんの言うとおり君の兵はすごく弱かったわけだが」
ものすごく楽しそうにシモンが豚に聞いている。いや、一般兵に比べればそれなりに強いと思うぞ。
俺からすればそうでもないが。多分あいつ等だったら俺が倒したあの獣型一人で倒せるぞ。余裕で。
「っ……。わかった、今回はひこう」
うん?やけにあっさりだな。もっとごねると思ってたんだが。どういうことだ?
「それはよかった。あんな弱い護衛しかいない所になんかうちのリエラをまかせられないからね」
「そう、だな」
うおお、すっごい睨まれたぞ。このあと大丈夫かな。報復とかされない?まあ返り討ちにするけど。
「では、今日はお引き取り願えるかな。私も暇なわけではないのでね。ああ、君の兵はうちの医療ポッドに入ってるからあと30分もすれば動けるようになるだろう。それまで客室で待っててくれ」
シモンが豚に帰れと言っている。後ろからだから顔なんて見えないが、あれ絶対笑ってるぞ。
「気遣い感謝する。では、そうさせてもらおうか」
豚が顔を赤くして絞り出すように言うと、ブルブル震えながらゆっくりと立ち上がり。部屋の外へ出ていった。あとは爺さんが連れていってくれるだろう。
豚が出ていくとシモンが座るように促してきたので、前の椅子に座る。
「ふう。いやあ、良かったよ。ダストくんがあそこで試合を申し込んでくれて。何も言わなくてもそうなるようにしたんだけどね」
やっぱりか。というか、俺がまけるとかおもわなかったのか?俺が疑問に思っていると、顔に出ていたのかシモンがその疑問にえる。
「君たちから聞いた探索の報告を聞く限り負けることはないと思っていたよ。少なくとも、徹夜したあとに変異獣を数十匹を相手に戦えないよ獣兵は」
なる程。そうだったのか、てっきり獣兵なら徹夜明けでも普通に戦えると思ってたんだが。俺は出来るし。
「でも、良かったんですか。勝手にやった俺が言うのもなんですけど」
「別に構わないよ。むしろもっといたぶってあげても良かったんだよ?」
流石に気が引ける。俺に無闇に人を傷つける趣味はない。
「まあ、今回をきっかけに君やリエラ、そしてこの年に対する報復も来るだろうけど。ダストくん期待しているよ?とはいえ、この件に関してはひとまず決着がついた。今はそれを喜ぼう」
結局来るのかよ。まあ、なんだかんだ言って自分でまいた種か。仕方ない、なんとかしよう。
「わかりました。それでなんですが、次の探索はいつにしましょう?」
「あ!そうそうお父さん探索の人数もうちょっと増やして」
俺がシモンに聞くと、リエラが思い出したようにシモンに要求する。いまでも十分だと思うが。
「安心しなさい、リエラ。徹夜がだめだと思っているのは君だけじゃない。今日はそれもあって彼女を呼んだからね」
そう言ってシモンは自分の後ろに立っている女に視線を向ける。
「彼女はサキア。我が都市の数少ない獣兵の一人。次の探索からは彼女も連れて行ってくれ。これなら戦力にはなるだろう?」
「サキアです。あなたと比べれば見劣りするかもしれませんが、微力を尽くさせていただきますので、よろしくお願いします」
シモンが、俺に問いかけるような視線を向けてくる。
まあ、これなら大丈夫だろうな。だってこいつは―――




