遊ばれる獣兵
話が決まってから20分後。俺は訓練場の扉の前にいた。隣にはリエラもいる。
「ねえ、ほんとに大丈夫なの?」
リエラが心配そうに聞いてくる。この質問もう10回以上聞いたんだかな。
「大丈夫だって言ってるだろ。むしろ殺さないようにする方がしんどいな」
「でも、相手は獣兵よ?」
「それもなんども言っただろ。問題ないって」
「でも!私のせいで…」
べつにリエラのせいって訳じゃないんだけどな。俺がやりたいからやってんだ。助けたくない奴ならこんなことしねえよ。
「はあ、いいから黙って見てろ。ちゃんと相手の心を折ってきてやるからよ」
ちょっと強めに言ったら、ようやく大人しくなった。
「ダスト…。じゃあ最後に一つだけ聞かせて」
「ん?」
「どうして、どうして会ってほとんど経ってないのにここまでしてくれるの?」
なんだ、そんなことか。改まって何聞いてくんのかと思ったぞ。
「俺がお前を助けたいと思った。それだけだ」
「そ、そう…。そ、それなら、絶対負けないでよ!」
「だから、ぜったい負けないって言ってんだろ」
「それでもよ!」
急に顔を赤くするリエラ。変な奴だな。まあ、心配されるのも悪くないな。リエラのためにもちょっとだけ本気出しますかね。
「ダスト様、時間です」
おっ、やっと始まるか。さてさて、どうやって潰してやろうかねっと。
「んじゃ、行ってくるわ」
「ええ、気を付けて」
「おう」
そう軽く返事をしながら俺は訓練場に入っていった。
訓練場に入って、周りを見るとちょうど相手も同じよううに入ってくるところのようだ。
審判の案内に従って、それぞれ所定の位置につき向かい合う。女が一人でほかは全員男か。
「ねぇ、あんた獣兵ですらないってのに私達四人に勝てるなんて本気で思ってるの?」
対戦相手のうちの一人がそんな事を言ってきた。他の3人もうなずいている。まあ、普通はありえないもんな。そう思われても仕方ない。俺は別だがな。
「ああ、もちろん。というか、俺からすればお前ら全員雑魚だ」
取り敢えず挑発しておく。
「へぇ、言うじゃないか」
話しかけてきた女は、冷静だな。他の三人はそうじゃないみたいだけど。
「貴様……」「殺す…」「俺たちが…どれだけ…」
おうおう、怖いねえ。ちょっと挑発しただけでこれか。顔を怒りに染め殺気を放ってきている。
それにしても、殺気を当てるやつぐらい調整しろよ。審判なんか倒れそうだぞ。他のやつらも顔が青くなってるし。
「そ、双方準備はよろしいか?」
審判が試合の開始を促している。それを聞いた俺は、目の前の四人に意識を集中させながらこたえた。
「おう」
「私達も問題ないよ」
「それでは―――はじめ!!」
双方の準備が出来ていることを確認した審判が、試合の開始を告げる。瞬間四人の虹彩の色が変わり、その色に対応した光ががその全身から立ち昇る。
獣兵は虹彩の色によって使える力が決まっているからな。赤は火、青は水、緑は風、黃は土といった感じで。ただ、たまに全部使えるやつもいるがそういうやつは金色の目をしている。
今回は、赤、青、緑、黃。おおう、なんか全部揃ってるぞ。
「ぼうっと突っ立ってていいのかい?」
赤い光を纏う女がそう言ってくる。
「どうでもいいからさっさとかかってこい」
どうでもいいのでそう言ってやると。舌打ちとともに、女が一人で接近してくる。他は後ろで立っているだけのようだ。なんで全員でかかっ来ないんだ?それとも何か考えでもあるのかね。
「ハァ!」
ぬるいな。真正面から殴りかかってきた女を見て俺はそう思った。取り敢えずおんなじように迎え撃って教えてやろう。
「フッ」
「なっ!?」
俺の拳と女の拳がぶつかり合い衝撃が起こる。俺はニヤリと驚愕する女に笑いかけながら、その頭を横に蹴り飛ばした。
「ガッ」 ―――ドカアアン―――
蹴られた衝撃に声を漏らしながら、吹っ飛び壁に叩きつけられる女。人がぶつかったとは思えないほどの爆音が響き渡った。
「だから言っただろ?お前らは弱いと。余計なことなんて考えずにかかってこい。ひねり潰してやる」
壁に叩きつけた女を一瞥したあと、ただ立ってるだけの男どもに向けて挑発してやる。
「馬鹿な……」「あり…えない」「………」
だが、驚愕のあまり俺の言葉は耳に入っていないようだった。というか、お前ら戦闘中に何やってんだ。驚いて固まるとか素人かよ。
このまままいったら、絶対すぐ終わるな…。そうだ
「おい、ぼうっと突っ立ってていいのか?」
最初あの女に言われたのと同じように呼びかけてみた。
「「「っ!貴様ああああ‼︎」」」
おお 、今度は反応した。しかも効果覿面だな。3人が激昂しながら俺に襲いかかってくる。
そして俺はそいつらの攻撃をわざとらしく声をだしながら避けていく。
「よっ、ほっ、そいやっ、おっとぉ」
3人の攻撃は連携なんて考えられてない。その上攻撃が単純すぎるしエネルギーのロスも多い。とても簡単にあしらえる。
例えば、黄色を纏う男の場合だと、
「クソッ、なぜ当たらん⁉︎」
「遅いから」
「クッソオォォォ‼︎」
おいおい、そんなに怒ると攻撃が……。ほらみろ、単純になって余計に避けやすくなったじゃないか。
んでもって青色のやつ。
「チッ、逃げてばっかりか⁉︎ちょっとは反撃したらどうだ?」
あ、そう?じゃ遠慮なく。
「そい!」
「ぎゃあああああ‼︎」
顔面をなぐると、反応すらできずに悲鳴をあげて飛んで行った。嘘だろ。
最後は緑色の男。
「だあああああ!」
緑色の光が収束し、風の弾丸となって飛んできた。ふむ、普通にやって倒せないなら大技ってか。
「ふん‼︎」 ―――ボフン―――
「はあ⁉︎」
殴ってかき消してやった。いや手応えなさすぎだろ。
とまあ、こんな感じで遊んでいると後ろで女の気配が動くのを感じた。ふーん、なるほど大技でも放つつもりだな。じゃあ緑色とおんなじようにしないとな。
たぶん俺が3人に気を取られているうちに力を溜めて大技で決めようとか思ってるんだろうな。まぁ気づいてたけど。
俺は後ろで大きくなる気配をあえて無視して、目の前の3人の相手をし続ける。
やがて、力の気配がある程度大きくなると、それが接近してくるのを感じた。後ろとの距離が1メートルくらいになったところで、振り向きながら全力でその力を殴りつけてやった。
「ハァ‼︎」
―――メリョボキャッ―――
掛け声とともに腕を組んで振り抜くと、腕になにか硬いものを粉砕するようななんとも言えない感覚が伝わってきた。
見れば女の腕が、ねじ曲がって有り得ないことになっている。
…ちょっと、やりすぎたかもしれん。




