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1話 終わり、そして始まり

「ねえ、ユリは進路決めた?」

「私はCAになるために専門学校に行こうと思ってる」

「へぇ〜、そうなんだ、私まだ決まってないんだよねぇ」


いつもと変わらない憂鬱な朝、前を歩いている同じ学校の一つ下の女子の何気ない会話が聞こえてきた。


進路か……

高校2年生になってもう半年、俺は進路どころか自分が生きている意味すら見出せずにいた。

俺には夢も特技もない。

ただ将来に漠然とした不安を抱えて今日も憂鬱な学校へ向かう。


駅に着いた。

「お、今日は人少ないな」

俺はすぐに黄色い線の内側に立った。隣にはさっき前にいた女子高生達が立っている。

あ〜早く帰ってゲームしてぇ……

これから学校に向かうと言うのにもう帰りたい気持ちでいっぱいだ。

そんなことを考えてる時だった

「ゔぅ……ぁ……」

ん、なんだ?

ゾンビのような声が聞こえ後ろを振り向いた。

おい、大丈夫か、この人?

そこにいたのはフラフラになって今にも転びそうなおっさんだった。

厄介ごとに巻き込まれたくないと思いそのおっさんから距離を置こうとしたその時だった


「あぁ……ぅあ!」


ドンッ!

「キャッ!」


フラフラのおっさんが俺の隣にいた女子高生にぶつかった。


ドサッ!


落ちた……!

ホームから落ちたのはさっきCAになりたいと語っていた子だった。

「ユリッ!!……誰か駅員を」

落ちた女の子と一緒にいた女の子が慌ててそう叫んだ。

ダメだ、もう電車が来てる、近くにいた男が非常停止ボタンを押したがもう間に合わないだろう。

落ちた女の子は足をくじいたようで立つことすらできていない。

俺はただ何もできず呆然と立ち尽くしていた。

何か助ける方法は、俺に出来ることはないのか?

このままでは轢かれてしまうと思ったその時。


「「なんじゃ、見ているだけか、度胸のない俺じゃのう……」」


なんだ!?

聞き覚えのない声が突然頭に響く。

「「見殺しにしたくないなら自分の命くらいかけてみせよ!」」

まただ、いったい何が起こっている?

「「お主が下に降りて直接助けに行けば良いじゃろ」」

そうだ、今ここで俺が助けに降りればまだこの子は助かるかもしれない。もう、迷ってる暇はない。

「「そうじゃ行け!!」」

ザッ!

俺は降りてすぐに女の子を押し上げた。ダメだ届かない、思ってたより高い。

「誰か……引っ張って……ください」

近くにいた男が女の子の手を引っ張りなんとか助けられた。

よし!

後は俺も登れば……


ガシャン!!


ダメだ……間に合わなかった……

意識は遠のく間もなく消えていった。

あぁ、死んだんだ……俺。



「あ〜、お主までは間に合わなかったのぉ」


またあの声だ……

少しずつ感覚が戻る。目がだんだん見えてきた。

俺は何もない真っ白な部屋にいた。

「おい!どこを見ておる?後ろじゃ」

振り返るとそこには中学生くらいの綺麗なワンピースのような独特な衣装を着た白髪の女の子が立っていた。

「うわぁ!なんだお前」

「なんだとはなんじゃ、さっきからお主に話しかけていたじゃろ」

「さっきから俺の頭に話しかけてきてたのはお前か、どうゆうカラクリだ?それにお前はいったい何者でここはどこなんだ?」

「まぁまぁ、そう焦るな、わざわざ聞かんでも説明するわ」

そうだ、こういうときこそ一旦落ち着こう。深呼吸だ、深呼吸。


「どうじゃ、少しは落ち着いたか?」

「あぁ」

「そうじゃな、自己紹介の前にこの場所について教えてやろう、ここはお主の精神世界、とでも言っておこう」

「なんだそれ……」

「正直妾にもよくわからん、お主に取り憑いた時からずっとこの部屋にいるのじゃ」

「え、取り憑いたって、お前女神とかじゃないのか?」

「そんな大層なものじゃないわ」

「なんだよ、てっきり天国へ行かせてくれるのかと……」

「妾はただの幽霊じゃからのう、それにお主には悪いがまだ天国へは行かせられぬ」


天国には行けない?そんな、俺は確かに死んだ筈だ。まさか、命をかけて人を助けたと言うのに地獄へ送られるのか。確かに命を助けたとはいえ電車に轢かれてしまったんだ、大多数の人に迷惑が掛かっただろう。


「単刀直入に言おう、妾はお主に世界を救って欲しいのじゃ!」


「はぁ!?」

「まぁ世界を救うといってもお主が生きていた世界とはまた違う世界を救って欲しいのじゃ、お主も生前そう言った書物を読んでおったじゃろ、えっとなんと言ったか……そうじゃ異世界転生じゃ、異世界転生!」

「おい、おいマジで言ってんのか!?そんなのできるわけないだろ。チート能力でもくれるってのか?」

「あ〜、それは……無理じゃな。妾にはもうそこまで魔力は残っておらん。お主の記憶を保持させたまま転生させるので精一杯じゃ」


は……え、今無理って言ったのかこいつ。嘘だろ。ただの一般人の俺が異世界に行ったところで何もできずに野垂れ死ぬだけだぞ……。そんなのごめんだ、なんとかして諦めてもらおう。


「悪いがその頼みは引き受けられねぇ。俺が行ってもすぐ死んで終わりだ。諦めてくれ」

「まてまて、お主がそのまま行ってもすぐに死ぬことくらい妾にもわかる。今ここで授けることは無理だといっておるんじゃ」

断られるとは思ってもいなかったのか少女は焦ってそう言った。


「なるほど、じゃぁ転生後に何か強力な武器のありかでも教えてくれるのか?」

「いや……転生したらやり方を教えるからお主自身で魔法を習得してくれぬか……あと、武器は近くの街で買ってもらうしかない……申し訳無いが本当に妾にはもうお主を転生させる分の魔力しか残っておらんのじゃ……おまけに他に頼む宛が無い。…………ダメか、最後に人の命を救うため行動したお主なら引き受けてくれると思ったんじゃがな……」


「…………」


少女はこれまでの態度とは打って変わって申し訳なさそうにそう語り、俺は何も言い返せなくなってしまった。実際俺はこの子が俺の背中を押さなければあの女の子を見殺しにしていた、きっとそれはこの子もわかっている筈だ、おそらく本当に俺が最後の頼みの綱なのだろう。


「なぁ……お前が言ってるその世界は俺一人の力でなんとかなるのか?」

「はっきり言ってお主がいくら魔法を覚えたところで救えるような世界では無い……じゃが、仲間を見つけ皆で協力し合えば可能性はゼロでは無い、だから頼む妾も出来る限りのことはする。だからどうか、引き受けてくれないか」

そう言って少女は頭を下げた。


「俺はその世界に行って魔王でも倒せば良いのか?」

「引き受けて……くれるのか?」


「あぁ、前世じゃろくな目標も無く生きる意味すら見出せなかった俺だ。そんな俺が生きる意味も目標ももらってさらに記憶も受け継いで第二の人生を歩めるんだ。よくよく考えれば悪くない条件だと思ってよ。それにそんな風にお願いされたら断るもんも断れねぇよ」


「……ぃやったぁ!!そうと決まれば早速転生じゃ!」

「おう!っとその前にお前の名前だけでも教えてくれ、まだ聞いてねぇ」

「おっとそうじゃった。我が名は『ルーナ』よろしく頼むぞ」

「おう、よろしくなルーナ」

「そうじゃ、お主の名前をまだ決めてなかったのぉ」

「え、今の名前じゃダメなのか?」

「お主らの名前なんて向こうじゃおかしな名前じゃからな。うーんそうじゃなぁ……ここは一つお主の知るトリックスターから名前を借りて『ロキ』なんてのはどうじゃ?お主はこれから魔王に支配された世界を壊す存在となるからのぉ!」

「は……おい待て、俺がこれから行くとこもうすでに魔王に世界征服されてんのか!?てかそういえばまだその世界について全然説明されてないぞ!」

「まぁ細かいことは行けばわかる。よし!準備完了じゃ。行くぞ!!」

「おい!行くって言ったからって強引すぎだろ」

「もう時間がないんじゃ早くせねばならん、したがって転生後にお主の成長を待つ余裕はないから転生後も体は今のままじゃ。と言っても今のお主は轢かれてぐちゃぐちゃじゃからその少し前の姿じゃがな」

ぐちゃぐちゃって……想像もしたくねぇな。


「よしロキ、いくぞ!」

そう言ってルーナは手を前に出す。


キュイィィッ!!


うわぁ!

体が引き込まれる。だんだんと感覚が薄れていく。


「すまんが魔力を使った後は流石に体がもたんからしばらく寝させてもらうぞ。転生してしばらくは一人で頑張ってくれ」

その言葉が聞こえたのを最後に俺の感覚は完全に無くなった。


始まるんだ、俺の第二の人生が。



「……きて……起きて、起きて」

声が聞こえる。ルーナか?

いや違うな、初めて聞く声だ。

「ん、うぅ……誰ですか……」

俺はそっと目を開ける。

「良かった……やっと起きた」

目を開けた先にいたのは見知らぬ少女だった。

ついに来たのか、異世界に……って……。

「こりゃ一体、どう言う状況だ……」

俺が目を覚ましたのは、牢屋の中だった。

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