地下帝国の人々
真っ黒な腕に白い絵の具で文字を書き込む。読み書きを覚えて三ヶ月。私は思いの丈を文字にして綴った。遠い地上に住む人々へメッセージを送る為だ。
地中深く住み始めて九年。そろそろ地上へ旅立つ時が来た。私たちの暮らしは地味で目立つことはなかった。暦も風習もあったものじゃない。それでも住み続けることが試練だと教えられた。試練も忍耐も必要だからと言っていたけど。
寄りかかった場所が悪かったのだろう。隣で寝ていた囚人の一人が唸りながら起き上がった。私は慌ててその場から逃げようとした。ところが囚人は太い腕を伸ばして、私の手首を力一杯掴むのだった。その力強さに痛みを感じて顔が歪んでしまう。恐怖で声も出すことさえできない。
次の瞬間、鋭い牙が頭蓋骨を噛み砕いた。自分の頭蓋骨が粉砕される音。耳元でバキバキと歪な音域が奏でられる。やがて壊れていく奇怪な音は消えていく。
私の意識もここまで。地上へ出ることも叶わなかった。腕に残したメッセージを伝えたかったけどいつかは地上の人々へ伝わることを願う。
私が伝えたかったこと。地上へ出たら力一杯泣き叫びます。きっとあなた達はうるさいと思うでしょう。それでも住み続ける地上の人々へ。
生きるということは、鳴いて始まります。それだけは、それだけは決して忘れないで下さい。それが私の伝えたかったことなんです。
〜おわり〜