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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル97 亀裂の同志たち

「マサラがやられ、拳聖オロチが敗れました」


何回目かわからない会合で、銀色の女神ヤヌレスは出席者に言った。

七人いた同志は五人になっていた。

ケーリアはため息をつく。

ハマリウムのマサラはともかく、拳聖オロチは同志の中でも別格の強者だった。

それすら倒すとなると、あの魔王の実力はトラアキアの頃より強くなっているのだろう。

隣にいるゼールも普段の獰猛な笑いを抑えている。


「では、次はわしが出よう」


鋼鉄の鎧をまとった老人が声を上げた。


「ヴァンドレア、あなたにできますか?」


ヤヌレスが人形のような顔に表情を浮かべぬままたずねる。


「これでもグランデ王国最強の武将と呼ばれたこともある。魔王軍の本体がグランデにいる以上、まずはそれを叩く」


ヴァンドレア・アルグランド。

十三の年に、キディスとグランデの小競り合いが起こった際に初陣を果たし、敵兵二百を倒した戦士だ。

長じてからは用兵にも才を発揮し、帝国との戦いにも引き分けはあるものの敗北は一切ない。

グランデ王国最強の武将という名に相応しい男だ。

先年、正規軍から退役し自領で悠々自適の生活を送っていたが、戦乱は彼を逃さない。

アトロール大公の反乱に際し、キースの要請に応え大公側として参戦。

アトロール自体は敗北したものの、彼が参加した戦いは負けなしという最強の名をあらわしたような戦いを繰り広げた。


「搦め手から攻めると?」


「わしとしてはグランデの方が本丸な気はするがな」


最強の戦略眼はキースの危険性を見抜いている。

それにケーリアは感心する。

そして、ヴァンドレアが仲間なことに安心する。

魔王とヴァンドレア、どちらが怖いかは、比較できない。

どちらも怖い。


怖いものだらけだわ。

と、心の中でケーリアは呟く。


「それでは、他の者は引き続き、我らが亀裂の大神の布教を続けてください」


時を司る女神は、銀色の光となって帰っていった。


「ついに最強ヴァンドレア卿が動くか」


ゼールが挑発するような声で言った。


「その通りだ、盗賊。どうした、わしの偉容に恐れをなしたか?」


「バカを言え。俺たちは同格のはずだ。怖れることなぞないさ」


「ではいいがな」


「ところで、あんたは個人的に魔王に恨みがあるはずだよな? テルヴィン」


 ギロリとその若者は、ぜールを睨んだ。

 白目の割合が多い、その目は妙な迫力を持っていた。

 

 テルヴィン。

 家を追放されたために、家名を持たないただのテルヴィンだ。

 冒険者資格も剥奪されている。

 ただの脱獄囚だ。

 牢獄の中で何を見、何を体験したかはわからないが以前にあった甘さのようなものは消えうせていた。

 まるで抜き身の真剣のような男、そう評すことができるだろう。


「俺の怨みは俺のものだ。貴様には関係ない」


 テルヴィンが反応したことに、ぜールは喜びをあらわにした。

 喜び、というよりは獰猛な顔に虎や獅子のような笑みを浮かべただけだったが。


「俺達は一蓮托生の同志だろう? 俺と一緒に一暴れしてみないか」


「断る」

 

 テルヴィンはどこからか剣を取り出し、抜いていた。

 その切っ先はゼールの方を向いている。


「おいおい、冗談にしてもキツイぜ」


「俺は貴様らとは群れない。あの魔王を倒す方法があるというから、ここに加わっているだけだ」


「なんだよ、連れないなッ」


 ゼールもまたどこからか取り出した剣をテルヴィンに向けた。

 双方が睨みあい、その戦意が激発しようとした瞬間。


 ゼールの剣は、ケーリアの槍に。

 テルヴィンの剣は、ヴァンドレアの大剣によって止められていた。


「もう、冗談が通じない相手なんだから、あんたが引きなさいよ」


「銀女神から頂いた天剣絶刀は仲間に向けるものではなかろう。双方引くが良い」


 テルヴィンとゼールはお互いを睨んだあと、同時に目を逸らした。

 そして全員が武器をどこかに仕舞う。


「なぁんだ。もう終わりかい?」


 沈黙を保っていた最後の一人がゆらりと歩を進める。


「テルヴィンは孤独、ゼールは好戦的、ヴァンドレアは執着、ケーリアは自己否定」


 それはそれぞれの性格を端的にあらわした言葉だ。

 四人の視線がそいつに向けられる。

 決して好意的ではない。

 テルヴィンなどは殺意すら向けている。


「ああ、心地いい殺意だ」


「その評価で言うならば、貴様はさしずめ愉快犯とでも言えような」


 ヴァンドレアが苦々しげに言った。


 愉快犯と評されたそいつは口を三日月のように開いて嗤う。


「愉快犯とはまたいい表現だ。でもね、もう自分のことは自分ではっきりわかっているんだ。そう、失敗者、と」


「私に負けず劣らずの自己否定ね」


 ケーリアが皮肉げに言った。


「いやあ、これは否定じゃないんだよ。ただ失敗しただけなんだ。これでも自分のことは大好きなんだ、君と違ってね」


「俺にとっては好戦的とは誉め言葉なんだが」


「好奇心は猫を殺す、とも言うね」


 自分を獰猛な獣、それも虎や獅子と同格として考えているゼールにとって、猫という言葉は侮辱に等しい。


「この野郎」


 再び、ゼールはおのれの天剣絶刀を取り出そうとした。

 今度はケーリアも、ヴァンドレアも止めない。


 だが、その剣は失敗者によって抜かれる前に止められる。


「その場の感情や本能で戦うから、君は勝てない」


 ゼールの周囲には幾本ものダガーが宙に浮き、ピクリとでも動けば刺さる位置をキープしている。

 

 同志からの敵意を受けて失敗者は楽しそうだ。


「天剣絶刀エテルノシエスタ。古語で永遠の休息を意味する。君もそうなりたいかい?」


「テ、メェ!天剣絶刀レイジパライソ!」


 怒りに突き動かされ、ゼールは突き刺さる失敗者の剣を無視して自身の剣を抜き放つ。

 それは赤熱した湾曲刀、触れるもの全てを焼き切る魔剣だ。

 ゼールの傷口からの出血も炎に変わり燃え上がる。


「いい! いいよ! そのまま”天装”してしまえ」


 興奮を見せる失敗者の首筋に突如、刃が当てられる。


「天剣絶刀ボラーブレイズ」


 失敗者の隙をついて攻撃に転じたのはテルヴィンだ。


「おおっと、他人に生殺与奪を決められるのは楽しくないねえ」


 失敗者の興奮、というか熱狂はおさまったようだ。


「わしらは仲間だ。同志だ」


 場をまとめるようにヴァンドレアが言った。


「どうしようもなく仲が悪いけどね」


 ケーリアは嫌そうに言う。


「テメェは殺す!絶対だ」

 

 失敗者に向けて、憤怒をあらわにしてゼールが叫ぶ。


「いいよお。今度は邪魔が入らないところでやろう」


 失敗者は嗤いながら言う。


「興味がない。勝手にやってろ」


 剣を収めながら、テルヴィンが呟く。

  

 そして全員がバラバラの方向へ歩き出す。



 五人がいなくなった後の、その空間に銀色の光が降り注ぎ、時を司る女神ヤヌレスが姿を現す。


「あれらは所詮、捨て駒。味方同士で潰しあうのはどうかとは思うけれど、我らが大神が滅びを司るのだから仕方の無い事」


 そう言って女神は大きな水晶のような透明な球体をどこからか取り出す。


「あれらが戦えば戦うほど、その本性を、罪業をあらわすほどに力が満ちていく。そして大神の真なる使徒としてあなたは再び、この世界へと還るのです」


 ヤヌレスは球体を宙に浮かべ、中を凝視する。

 そこには何も見えないが、ゆらゆらと揺らめく液体があるようにも見える。


「その時を待っていますよ」


 女神はその名を呟いた。


「勇者ハヤトよ」


 誰にもその名前は聞こえなかったが、球体の中身が一瞬ざわめいたような気がする。

すいません、投稿遅れました。


しかし、こいつら仲間割れで自滅しそう……。


次回!ベルスローン帝国の魔王国が交渉を開始する。

人間対魔族の歴史が今、大きく動く。


更新は未定です。

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