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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル94 拳聖との決着

流れ云々言い出してから“拳聖”の雰囲気が変わった。

気の解放も抑えられているようだ。

それでも、目の前から感じる威圧感に変化はない。


「この世界を巡る16の二乗の流れ。我はその流れにそって動くことで強い力を知るに至った」


“拳聖”はゆったりと歩き、そして加速した。

その拳は鋭く、魔王の脇腹に突き刺さった。



「んなッ!?」


魔王のブロックが間に合わない。


「この流れに沿った攻撃は強制クリティカルになる。つまり、攻撃力上昇、防御無視、速度命中上昇効果があるということだ」


「なかなかに重い攻撃よな」


腹筋で“拳聖”の攻撃を止めることはできた。

が、体内に浸透した打撃の威力は止められない。


“拳聖”はすぐに距離をとる。

そして、魔王のまわりをゆっくりと歩く。


「ほら、ここに」


また加速。

今度は右足だ。

ジャンプして回避する。


「攻撃が読めぬ」


なぜ、間隔を開ける?

力を溜めているのか?

流れ、とはなんだ?


「考えごとをするとは余裕があるな」


ジャンプして回避した魔王を追撃する“拳聖”。

その拳は吸い込まれるように魔王の右膝を破壊する。


「き、さま!? “ウツロヒール”」


破壊された膝を、破壊される前に戻し、さらに飛翔スキルで回避。

充分な距離をとって着地する。


「回復スキルというよりは巻き戻しか、それに空を飛ぶ。さすがは魔王というところだな」


余裕の表情で“拳聖”はこちらを見ている。

まいったのう、と魔王は口には出さないが思った。

一撃が重く、攻撃のタイミングが読めず、回避ばかりになってしまう。

こんなに苦戦したのはいつ以来か。


「すまなかった“拳聖”殿」


「どうしたのだ? まさか敗北を認めると?」


怪訝な顔をする“拳聖”に魔王はこう言った。


「本物の拳術家に、格闘で挑もうなどとさすがに甘かった。そこは謝ろう」


「……本気を出していなかった、と?」


「まずはそなたの見ているものを見てみようかの」


魔王は魔導スキル“センリアイズ”を発動。

本来なら魔力の補助を受けて、遠くや壁に阻まれた場所を見るスキルだ。

それを魔王は視覚では見えないもの。

魔力を見ることができるように調整する。


その結果。

魔王にもそれが見えた。


「のう“拳聖”殿、知っておるか? 永劫神エルドラオンの配下には風を司る四柱の小神がいるのだ」


「あいにく神学には詳しくないもので」


「そうか。それで、その四神は東西南北の風を吹いているのだ。その他にもな四方を司る火の神、土の神、水の神がおる」


「それがいったいどうしたと?」


「四属性の神が四方におる。それぞれがそれぞれに干渉するパターンはおおよそ256通り。気付かぬか?」


「16の二乗……」


「そう。世界を巡る流れとは神の力。あるものには気に見え、またあるものには魔力に見える。まさかそれを攻撃に使おうとは想像もしなかったぞ」


魔王は両の手に魔力を込める。

そして“拳聖”に接近する。


「逆に言えば流れの外にいれば、その楽しい効果は発揮されぬであろう?」


“拳聖”は魔王の攻撃をブロックする。


「な、さっきより重い!」


「魔力は気と同じ動きをする。いや、同じものかもしれぬ。なれば余が魔力を扱えばそれなりになろうぞ」


流れにのれない“拳聖”と流れを外す魔王。

打撃戦は長く続き、そして。


ズザザっと“拳聖”が下がる。


「強い。我は半分を封じられたとはいえ、素の我とここまで戦えるとは……」


「のう?」


魔王は不思議そうに聞く。


「なんだ?」


「お主はマサラと同じと言ったな、使わぬのか“天装”は?」


埋め込まれた神の力を発現して、全身を鎧に包み莫大な力を手に入れる“天装”。

普通の人間レベルのマサラでさえ、魔王が力を込めて殴っても吹き飛ぶだけの耐久力を得ることができる。

“拳聖”が“天装”するとどれほどになるのか。


「我はあれは好かぬ。故に授けられるのを拒否した」


「なんと」


実は警戒していたのだが。


「魔王殿、こちらから仕掛けておいてなんだが決着は後にしよう」


「ほう? なぜだ」


「我はこれから“天装”を授かるつもりだ。そしてそれを使いこなして魔王殿に勝つ」


「もっと強くなると?」


「もちろん」


「良かろう」


魔王は戦いの構えを解いた。


「意外だな……」


「なんじゃ?」


「伝説の魔王というから、もっと冷酷で残虐な人物だと思っていた」


「余は冷酷ぞ。メルチにはいつも、魔王様は冷たいですね、と言われておる」


「そ、それは! ラス様がいつもイチャイチャさせてくれないからで!」


突然、飛び火したメルチはあわてて口走る。


「ふ、ははは。なるほどなあ、これはちょっとやりづらい」


“拳聖”は笑う。


「のう、どうして滅びの巨人などに仕えておるのだ? 滅びはお主の望むところではあるまい?」


「滅びの先に新たな創造がある。いわくこの世界は本来のあり方ではないのだそうだ。一度全てを壊して完全なる世界を創るのだそうだ。まあ、我は強さを高める時間を得るのが目的だったのだがな」


「ふうむ。なれば余のところへ来ぬか?」


「我は人間だぞ? 魔王軍には入れまい」


「そんなことはない。魔王軍の魔将は人間だし、余の妻も、ほれあの通り人間ぞ」


「そうか。だがそれでも我はそちらには行けぬ。魔王殿と本気で戦えなくなるからな」


“拳聖”は流れにのって跳躍した。

意外に高く、そして遠くまで運ばれていく。


「ではな。また会おう」


「では。我が弟子のことをよろしくお願いいたします」


“拳聖”はそのまま風にのって消えた。


「なんか、不思議な人でしたね」


“拳聖”の消えた方を見ながらメルチは呟いた。


「強さのためなら負けも辞さない。あれは求道者よな」


「いいんですか? そんなのと再戦の約束なんかして」


「次にどれほど強くなっているか、楽しみではないか。もちろん、余も強くなるぞ」


「私との時間も大切にしてくださいね」


「うむ。わかったぞ。……さて」


「はい。入りましょう」


戦いの余韻も冷めやらぬ中、魔王とメルチはベルヘイムへ突入した。



放棄された都市は整然としていた。

まあ、攻められて陥落させられたとか、疫病で滅びたとかではないから引っ越し作業もきれいに行われたのだろう。

二つ目の城壁の向こうに広がる大都市の跡は冷たくひっそりと静まり返っていた。


「なるほど案内人が必要なわけだ」


「ほとんど迷路ですよね」


侵入者を想定して迷路のように張り巡らされた街路は、二人を迷わせていた。

日が暮れかけてきたころ、メルチはハッと気付いた。


「魔王様、もしかして“センリアイズ”で道わかりませんか?」


「お? おお! “センリアイズ”!見える、見えるぞ!」


そして、二人は完全に夜になる前にベルヘイムの聖堂にたどり着くことができた。



夜の廃墟の聖堂。


「よく考えたら怖いですよね」


「何がだ?」


「だっておばけとか」


「何を言うておる。死者はみんなアルメジオンの管轄ではないか」


「あ。ああそうでした」


どくろマスクの軽い青年の姿を思い出した。

よく考えたら、何も怖くなかった。


ただ暗いだけの聖堂に二人は足を踏み入れた。

流れに関する説明は適当です。


次回!ついに魔王は己を呼ぶ死者の魂と出会う。再会は何をもたらすのか!


明日更新予定です。

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