レベル89 地面に直接寝るとなんだかむなしくなる
「愚か者どもに振り回されるというのは、不愉快だのう」
ガラムとマサラの、大袈裟な兄弟げんかに巻き込まれて、魔王たちは街道の真ん中で足止めを食らっていた。
駅馬車は御者と馬ごと燃え尽きてしまった。
魔王たちの食料も一緒に灰になった。
食べ物無しで、ここからヘイムダーまで歩いていかなければならない。
まあ、無理だろうなあ、とメルチは思う。
馬車で四、五日かかるらしいから、徒歩だとその3倍? 4倍? 途中で何か捕まえて食べる?
キースじゃあるまいし、メルチにはそんなことはできない。
「どうしますか? ラス様」
メルチの結論は、魔王様に丸投げすることだった。
魔王はほとんど間をおかずに答えた。
「ハマリウムへ戻る」
「え? 本当に戻りますか?」
ケンセインが意外そうに言う。
「なんじゃ?」
「あなたなら、マサラあたりの足跡をたどって襲撃してもおかしくないな、と思いましたので」
確かに、とメルチは気づく。
魔王なら、全速力でマサラ達に追い付き制裁を加える、という選択もしそうだ。
「いや、この面倒な事態を収拾しなくては安全に旅もできまい」
「……ラス様、何か悪いものでも食べました?」
自分が面白いと思えば、何でもやった魔王とは思えない発言に思わずメルチはそう言った。
「何を言っておる。今回の旅は余の因縁の旅ぞ。余計なしがらみや騒動はさっさと解決するほかあるまい」
そう。
このハマリウム、そしてベルヘイムへの旅は魔王が五百年前に大賢者によってかけられた封印をとく旅だ。
メルチはもう、すんなり行くことは諦めたので魔王に聞いた。
「それで、ハマリウムに戻ってどうします?」
「サバラに顔を繋ぎ、そこからガラムを引き入れる」
「帝国の代官に何かコネでもあるんですか?」
不思議そうにケンセインが聞いてきた。
確かに、代官は事実上ハマリウムのトップだ。
そんな人物と簡単に会おうと言っているのだから、それなりの手段があると思うに違いない。
「いや、コネはないが余には度胸があるゆえな。なんとかなるであろう」
「……メルチさん?」
「……これがラス様です」
「……そうですか」
そして、三人は来た道を戻り始めた。
道は長く、先は遠い。
ハマリウムは現在、大絶賛混乱中である。
藩王都ハマリウムは帝国からの代官サバラが統治し、それに旧ハマリス藩王家の三男ガラム・ハマリスがハマリス私兵団と金で集めた元野盗を率いて協力している。
このガラムは政略結婚で駅馬車公社の統括部長の娘を娶っている。
この統括部長は事実上の最高責任者でハマリウム各地の全ての駅馬車を管理している。
荒野では、ハマリス藩王家の末弟であるマサラ・ハマリスが王しか名乗れないデル姓を名に付け、藩王家の後継者として活動している。
ハマリス私兵団の支持者と、荒野の野盗たちを糾合し大勢力となっている。
根拠地はどうやら、ハマリウム西部の町ティティにあるらしい。
ヘイムダーには大きな冒険者ギルドがあり、冒険者がそこに集まっているが事態を静観している。
このままならば、全ての勢力は貿易が止まり衰退するばかりのハマリウムと同時にゆるゆると滅びていくはずだった。
しかし、ハマリウム権益をめぐる帝国中央の派閥争いが終結し、グラールホールド家から新たに代官が派遣されることになる。
火種はそのままに、燃料が投下される。
沸騰し、爆発寸前。
それが今のハマリウムだ。
「やっとつきましたね・・・・・・」
メルチのかすれ声に、魔王とケンセインは顔を上げた。
駅への襲撃から二日。
携帯していた非常食と、運よくわき水を見つけた三人はどうにかハマリウムの都へとたどりついた。
レベルが上がっても、超人になれるわけではないのだと、メルチは痛感した。
昨夜の、岩陰で野営したときなどひもじさと腰に当たった大きめの石のせいでなかなか寝付けず、涙が出そうだった。
「そうだな・・・・・・とりあえず、冒険者ギルドへ向かうとするか」
「え!? 宿屋じゃないんですか!? ちょっと休みましょうよ」
「忘れたか、余たちの財布は駅と共に燃え尽きたのだぞ? わずかにでも金銭を手に入れずば活動できまい?」
「・・・・・・ああ、そうでした・・・・・・」
金策に苦心する魔王とその妻って・・・・・・。
「これから依頼を受けるんですか?」
と、ケンセイン。
「いや、余たちも一応は冒険者の身分を持っておる。倒してきた魔物やら、なにやらで金になるかとな」
「……なるほど」
ハマリウムの冒険者ギルドは本部がヘイムダーにあるため、都に支部があるというちょっと変わった形態をしている。
といっても、受付と倉庫、隣に酒場という基本スタイルはそのままだ。
ハマリウムのギルド支部の受付は赤毛の可愛いお姉さんで、名前はスレインさんだそうだ。
「あ、ケンセインさん、おひさしぶりですね。今日は……新規パーティーですか?」
「いやあ、スレインちゃん。オレは孤高の一匹狼、仲間なんて作らないのさ」
とか、いいながらケンセインは受付のカウンターにひじをのっけてスレイン嬢に色目を使っている。
「そうですか、じゃあ永遠に一人でいてくださいね!」
と、笑顔で返すスレイン嬢もなかなかの強者である。
「お、おう。て、違うんだよ。この人たちはお客さんさ。本業の方のね」
「ああ、遺跡探索者の方々でしたか。すいませんね、こんな冒険者くずれの仲間なんて言って」
「冒険者くずれって……」
心に深くダメージを負ったらしいケンセインだった。
「それで、ご用の方をうかがっても?」
「うむ。余たちは“ランアンドソード”というパーティーを組んでいるのだが」
「ランアンドソードですか? ちょっとお待ちくださいね」
と、スレイン嬢は基礎スキルらしきものを使った。
簡単なスキルを複数組み合わせることで、膨大なデータから目的のものを検索できるスキルのようだ。
こういうところも人間の素晴らしいところだ、と魔王は心の中で誉める。
「はい、でました。キディスで結成、グランデで活動、本拠地はベリティス公爵領で四人組……?」
「うむ。二人は別行動じゃ」
「パーティー解散とかではないんですよね?」
「もちろん」
「すいません、一応規則なので本人確認させてもらっていいですか?」
と、スレイン嬢は水晶玉を出してきた。
魔王が職業登録をした時にも使用したものと同じだ。
「魔力を込めればよいのか?」
「はい。お願いします」
魔王は強すぎず、弱すぎず、魔力を水晶玉へ放つ。
水晶玉に青白い魔力が満ちる。
「どうじゃ?」
「魔力パターン解析、登録データと照合、本人確認とれました。ありがとうございます」
「ずいぶん手間をかけるのね?」
メルチが不思議そうに聞く。
普通、冒険者の本人確認なんかしないし、名前を騙られたら騙られた方が悪いというのが冒険者の共通認識だ。
「ええ、実は冒険者が何人も行方不明になってまして」
「それは……なんというかよくある話ですよね?」
メルチが言うこともわかる。
遺跡探索や魔物との戦いで、命を落とす冒険者は多い。
「それが、その行方不明になった冒険者が化けて出るんです」
「化けて? ゴースト系のアンデッドになったってこと?」
「この話の怖いところはそこなんです。普通に話していた冒険者さんが何日か後に腐乱死体で見つかるなんてことがありまして」
「一瞬で腐らせるスキル……とかじゃないですもんね」
「そんなスキルがあったらあったで怖いですけどね」
ということがあったので、本人確認を厳重にしているそうだ。
「それでだな。もし未払いの報酬などがあればここで受けとりたいのだが」
「わかりました。今確認しますね……?……え、これ……うそ……」
スレイン嬢がずいぶんと慌てている。
「どうしたのじゃ?」
「ランアンドソード様の未払い報酬が金貨で1000枚残っています……」
この世界の貨幣について設定していなかったような……。
普通に金貨、銀貨、銅貨あたりにしておこう……。
次回!魔王様、代官と面会!
明日更新予定です。




