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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル88 燃え燃えステーション

「どうも。案内人のケンセインです」


サバラとの不愉快な遭遇から一夜明け、魔王たちはベルヘイムの都への案内人と対面した。

ケンセインと名乗る男性は、登録上四十二歳だというがまだ若々しい。


「どうも、ラスヴェートだ」


「メルチです。よろしくお願いします」


「いやあ、久しぶりに案内人の仕事が入ったので興奮しました!」


「そうなんですか? 普段は何を?」


「普段は冒険者をしてます。このあたりじゃ、それが一番稼げますからね」


「ほう、そうなのか。腕前は期待してもよいのか?」


「ははは、まあまあそれなりですよ」


そんな会話をして、三人は連れだって馬車に乗った。


「それで、この馬車はどこへ向かうのだ?」


「えーと、どこですっけ……」


ケンセインが頭を掻きつつ、地図をながめる。


「お主、案内人じゃろう?」


「ははは、普段は冒険者なんですよ」


「えーと、この馬車はヘイムダーへ向かいますよ。ベルヘイムの玄関口として知られた町で、今は冒険者たちの拠点となっているそうです」


メルチが説明する。

案内人より詳しい。


「冒険者の町なのか? 治安が悪そうだのう」


冒険者=アウトロー=治安が悪いという考え方は間違っていない。

裏社会やローグギルドと繋がっている連中も少なくないし。

そもそも、粗暴な冒険者も多い。


「まあ、ここから三日くらいかかります」


と、ケンセインが案内人らしいことをようやく言う。



「馬車は夜はどうするのだ」


「もちろん、夜営します。といっても無人の駅があるんですよ。そこに食料や寝台がありますから安心して寝れますよ」


「無人で食料があるのか? 襲われそうだのう」


「いやいや、利用するのは冒険者も多いですから、無計画に襲う奴はいませんよ」


「最近、野盗も多いらしいではないか?」


「ああ、確かに多いです。なんだか大きい組織が二つくらいあるらしくて」


「片方に捕まって、もう片方にキースがいたら嫌ですね」


グランデ王国でそんな目にあった魔王とメルチはため息をつく。


 ちなみにその予想は、半分当たって半分外れた。


 その夜、街道に設置された駅で一行は夜営をはじめた。

 食事は基本、持参し調理用器具は貸してもらえる。

 駅に置いてある食料は御者であるハマリウム駅馬車公社の男性に言えば販売してもらえる。

 魔王たちは食料を持ってきていたので、煮炊きだけした。


「ラス様、これ“かまどの精霊”が憑いているかまどですよ!」


「ほお。これは凄いな。精霊スキルの適正が無くても火を扱えるではないか」


 一見、何でもないかまどにまで精霊憑きのものが使われているなど、ハマリウム駅馬車公社はよほど儲かっていたらしい。

 つまり、ハマリウム藩国で駅馬車公社を敵に回すということは、死活問題であり、これまでそんなバカはいなかった。


 今までは。


 夜半。

 その駅は炎に包まれた。

 

 火矢が何本も打ち込まれ、ごうごうと木製の駅は燃える。

 精霊憑きの高価なかまどもおかまいなしに破壊され、食料も燃えてしまう。


「はっはっは、よく燃える。駅馬車公社め、我らの命令を無視するからこうなるのだ」


 燃える駅を目印に、騎乗の集団が赤茶けた荒野を駆け抜ける。

 統一された鎖かたびらを身に付けて、刀身が反った馬上剣を装備している。

 全員が腕に赤い布をつけている。

 大声で笑う先頭の男は、燃える駅のその奥へ、普通の矢じりの矢を放つ。

 騎乗の集団は追従し、矢が斉射された。


 矢の先、つまり燃える駅の向こうの暗がりに彼らと敵対する集団がいたようで、ぐぎゃッという悲鳴が間断なく聞こえてくる。


「おのれッ、マサラめ、卑怯だぞ!」


 暗がりから現れたのは、同じく騎乗し、鎖かたびらを身に付け、青い布を腕につけた集団だった。

その先頭にいる男が怒鳴ったようだ。


「はっはっは、戦に卑怯もくそもない。駅馬車公社を利用する兄者も卑怯、それを焼き討ちする俺も卑怯よ」


どうやら、赤と青の騎乗の集団のトップは兄弟のようだ。


「駅馬車公社の駅を襲って、この国で生きていけると思うか!」


「ぬるいぞ、兄者! 俺がこの国の王になれば駅馬車公社などすぐに我が配下にしてやる。このマサラ・デル・ハマリスのな!」


「そんなことできるものか!」


「できるかできないではない、やるのだ」


「貴様!」


「ふふふ。今夜はここまでにしておこう。さらばだ、我が敬愛するガラム兄者」


マサラが率いる赤の集団は、ガラム率いる青の集団へ再度斉射した。

そして、あわてるガラムらをしりめに逃走した。


「ちぃ、策は失敗だ。撤収する」


マサラを追撃することを諦めて、ガラムもその場を去っていった。


両者が完全にその場を離れたのを確認し、燃えかすとなった駅の地下室から魔王たちが出てきた。


「なんだ、あれは?」


まず、それである。

襲われるはずのない駅が襲われ、襲ったやつらは兄弟で争っている。


「あれがこのあたりで暴れている二大野盗ですね」


地下室に逃れて生き残ったケンセインが言った。


「確か、マサラ・デル・ハマリスと名乗っていたな」


赤い布を巻いていた一団のリーダーらしき人物だ。


「デルは確か、古共通語で族長の意味。今は家長とか当主って意味ですよね」


「へえ、メルチさんってなかなか博識なんですね?」


ケンセインが感心したように言った。

魔王様の受け売りだとは言わない。


「そして、ハマリスは先頃、討伐されたハマリス藩王家の一族ということ、つまり」


「ハマリス藩王家を継ぐ者マサラ、ですか」


「なるほど、それならわかります。確か青い方がガラム、赤い方がマサラでしたよね? それってハマリス藩王家の三男と四男です」


ケンセインの説明によると、前ハマリス藩王には四人の男子がいた。

長男の王太子は帝都への留学経験もある才子。

次男は父である藩王によく似ていたそうだ。

三男のガラムは幼いころから藩王家を継げないとわかっており、勉学に励んだようだ。

四男のマサラは逆に武芸に精を出したらしい。


彼らの運命が変転したのが、ハマリス藩王家討伐である。

交易によって莫大な税収を得ていたハマリス藩王は、正当なるベルヘイムの直系であるベルベルを名乗った。

そして、傭兵らを大量に雇用し、武具を集めた。


「ラス様、質問です! 偉い人にはみんなベルがついていますがどうしてですか?」


「ベルヘイム、ベルスローン、ベルデナット、ベルナルド、ベルゼールなどだな? もともとこの鈴の地という場所には世界の支配者が誕生するという伝承があるのだ。ゆえにベルの字をつけることでここに関連のあるということを示しているのだ」


「へえ、そうなんですか」


「まあ、いまはその関連は薄れ、王族であることを示す意味合いが強いようだな」


「わっかりましたー!」


さて、父であるハマリス藩王の暴走に王太子である長男は危惧を覚えた。

このままだと、帝国に潰されてしまうと考えた彼は密かに謀反の疑いありと帝都に通報した。

留学時代のコネを使ったようだ。

だが、それが次男にバレてしまい、それを知ったベルベルは激怒し、長男を切り殺してしまった。

その知らせを受けたベルゼール皇帝は討伐軍を派遣。

大瑠璃海南部で海戦が開かれ、総指揮官であった次男は呆気なくやられ海の藻屑と化した。

それにショックを受けたベルベル藩王は降服。

藩王は処刑、王族、その姻戚は貴族身分を剥奪された。


さて、そこで三男と四男であるが。

三男ガラムは混乱したハマリウムを、代官であるサバラと手を結び沈静化していった。

藩王、長男、次男と死んでしまえば、ハマリス藩王家としての責任はガラムにのしかかってくる。

国内で大きな力を持つ駅馬車公社と協力し国体を維持しようとした。

逆に、これを好機ととらえたのが四男マサラだ。

ベルベル藩王、次男とよく似た気質の(血の気が多いともいう)彼は国内の親ハマリスの勢力をまとめあげ、巨大な野盗集団を作り上げた。

そして、港湾、基地、重要施設に襲撃を繰り返す。


見かねたサバラはガラムに命じて、マサラを討伐させる。

それが駅馬車を盾に、マサラの野盗を奇襲するガラムの策に繋がり、マサラはそれを一目で見破ったというのが今夜の戦いである。


魔王たちは完全に巻き込まれた形である。


次回!旅の目的をとげるためには、メンドイ兄弟の争いを止めるのが先決!魔王様がまたむちゃくちゃやろうとしている!


体調不良のため、明日の更新はできないかもです。

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