レベル80 動き出す魔王軍
更新再開します!
「では、余たちは失われしベルヘイムの都を目指す。あとのことは任せたぞ、キース」
魔王軍が再結成されてから一月。
準備を整えて、魔王軍が行動を開始した。
魔王様とメルチは、魔王様の封印を解くため滅びた国ベルへイムの都へ向かう。
そこに、亡くなった大賢者が何かを残しているらしい。
「ちゃんと帰って来てくださいよ」
「どういう意味じゃ?」
「魔族としての本性を取り戻し、破壊の化身となって世界を滅ぼそう、とか言い出さないでしょうね?」
「そんなことになるはずがなかろう! だいたい魔族の本性はそんな破壊と滅亡の化身などではないぞ」
「万が一です」
「もしそんなことになったら、メルチが止めてくれる」
魔王の隣に立っているメルチはうんうんと頷いている。
そういえば、メルチはレベル101とかいうありえない状態になっている。
今の彼女なら魔王様でも止められるかもしれない。
懸念はあるが、魔王様が全力を取り戻すほうが重要だ。
魔王様とメルチは楽しげに旅だっていった。
新婚旅行と勘違いしているんじゃないよな?
残った面々は、魔王軍の強化、というよりはちゃんとした組織に仕立てあげる仕事がある。
魔王軍と名乗っても、拠点はベリティス公城を間借りしている状態だし、軍団もないし、指揮官もいないのだ。
もちろん、資産もなければ収入もない。
これらを解決するには、魔王軍の領地を手に入れるしかない。
スポンサーをたくさん集めれば運営できるかもしれないが、おそらく世界最大の軍団になる魔王軍を長期的に支えるに足る援助は不可能だろう。
そして、誰もいない空き地をもらっても意味がない。
元の魔王城の付近の封印の森は誰の領地でもないが、誰も住んでいない。
ベリティス公領は収入もあるし、住人もいるが魔王軍のために税を使ってしまうと帝国に納める分が無くなってしまう。
帝国とことを構えるつもりはないので、これはベリティス公領を魔王の領地と考えるわけにはいかない。
今は、まだ。
「つまり、キディス王国とグランデ王国を併合し、魔王領とするのがベストだ」
「ベリティス領がダメでその二つの国が良い理由はなんじゃ?」
他の人がいるので、通常口調のジェナンテラが説明を求めた。
「まず、この二つの国は親魔王であることが挙げられる。キディス王国の女王と中央軍を押さえている軍人は魔王様に心酔している」
キディス女王アリサと中央守護軍団長アザラシ・ノースガントレーは魔王の名を呼んでいる。
魔王様が一時死亡した際も、ぶっ倒れているらしいのでその心酔度は変わりないようだ。
「グランデ王国はどうなのです?」
質問してきたのはハーフハルピュイアの女性だ。
“飛将”デルフィナの孫にあたる。
ベリティスの葬儀に来ていたらしい。
父親が人間だったらしく、ハルピュイアより人間に近い容姿をしている。
名はフィナール。
名についているフィナの字がデルフィナの直系子孫であることを示している。
しかし、族長の証であるデルの字を持たないから、ハルピュイアでは立場は微妙だったらしい。
「グランデ王国では、魔王様は英雄扱いだ。内乱の時に突如現れ、ベルデナット女王を支えた知将だとか」
ちなみにキースも悪い意味でグランデでは有名である。
「はえー、さすが魔王様! それはかなり有利ですね」
「魔王様には言っていないが、二つの国の女王には魔将位を授けようと思う」
ピリッとその場の空気が変わった。
この場にいるのは、ジェナンテラやフィナールをはじめとしたキースの腹心ともいえる者たちだが、それでもただの人間に魔将位を授けるという発言には反対のようだ。
「お言葉ですけどよ」
と、口を開いたのはグレーターゴブリンロードのイグニッシだ。
単なるゴブリンの枠には収まらぬこのゴブリンのことをキースは高く評価している。
そのために、キースの幕僚に無理をいって加わってもらった。
「魔将位っつうのは、魔王軍にとってメチャメチャ重いものだ。それをポンポンと人間にやるっつうのは、ちょいと魔王軍の将兵の気持ちをないがしろにし過ぎじゃねえの?」
当然の意見だ。
むしろ、イグニッシから意見を出してもらって助かる。
「ああ、俺もそう思う」
と、キースが肯定するとイグニッシは虚をつかれたような顔をした。
「はい?」
「ただの人間にはもちろん魔将位はやれない。だが、魔王様の言った条件である前任の魔将に認められれば、誰も文句は言えないだろう?」
「まあ、そうだな」
「だから、キディスとグランデの二人の女王には本格的に魔将を目指してもらう」
「……おう。おめぇさんよ。さすが“謀将”って言えばいいのか、なんか知らんが本格的にブッ飛んでるな!」
「奇遇じゃな、わらわもそう思っておった」
ジェナンテラもイグニッシに同意する。
どういうことだ?
俺は別に不可能なことを言っているわけではないのだが。
「しかし、いくら親魔王の方々でもいきなり国を併合したりだとか、魔将になれだとか言っても応じられないのでは?」
「まあ、そこは軍事力を使うことにしています」
魔王軍を動員し、最悪両国を恫喝する。
強大な軍事力を背景にすれば交渉もスムーズに行くだろう。
その他にも様々な根回し、調略を進めていく。
と同時に帝国との交渉も必要だ。
現状、世界最大の国家であるベルスローンとは戦う気はないとはいえ、戦力的に拮抗する存在なのは確かだ。
今のうちから協力関係になっておかねば。
「情で釣り、剣で脅す、か。なかなかに謀略的じゃの」
「あんまりおどかすなよ。こっちは発言するたびに綱渡りをしている気分なのに」
「あっしらもキース様の発言聞くたびに綱渡りしている気分になりまさあ」
「ところで、肝心の軍事力の仕上がりはどうなってるんだ?」
現在、魔王軍は最盛期の十二軍団+魔王直轄軍の構成から、大きく減少している。
ダークエルフの“闇将”ファリオスを暫定的に軍団長とした混成魔軍団。
魔族ノーンを軍団長とした後方支援を中心とした魔王騎軍団。
そして、正式に魔王軍ではないのだが、キースの私兵であるベリティス公爵軍。
この三軍が魔王軍の全てである。
しかも、ベリティス公爵軍は役割上、領土防衛が主任務であるため、遠征は不可。
魔王騎軍団は白兵戦に向かないハルピュイアなどが中心であるため、戦力として数えるのは難しい。
つまり、実質的に混成魔軍団だけが戦力である。
魔王様はそのへんがいい加減だった、とベリティスが言っていた通り、この軍編成はほぼキースが一人でやった。
どいつがどのような役割で活躍できるか、など各種族やファリオスなどに教えてもらい、配置に悩み、種族的対立などと考慮して組んでみた。
ファリオスからはなかなかいいぞ、と誉められたが、よく考えるとファリオス好みの脳筋が混成魔軍団に集まったせいに違いない。
軍師を配置しないとな、と今後の課題を考える。
そのためのキースの幕僚でもある。
さて、遠征となれば軍団の食料や消耗品を集めなければならない。
まずはグランデまで行くにあたっての兵力と……。
と、考えてキースは前に似たようなことを考えたことがあると思い出した。
そうだ。
ベリティス様と走りながら、軍略の授業を受けて……。
たまたま?
たまたま、キースが指揮する軍団がグランデ王国を攻める想定だったのか?
まさかな、一年前だぞ?
ベリティスの想定がどこまで行っていたのかはわからかいが、本家“謀将”の恐ろしさをキースは肌で感じたのだった。
ベリティス「もちろん、想定の範囲内……なわけないだろう?」
次回! 魔王軍が出陣、グランデ王国に魔の手がせまる、こともなかった。あの国で確かキースは死亡扱いなんじゃ……。
明日更新予定です。