レベル78 魔王様を倒すともれなく魔将になれます
“謀将”ベリティスの亡骸は荼毘にふされた。
その死を看取りに集まったすべての者に見送られ、彼は逝った。
「余はここに、魔王軍の再結成を宣言する」
ベリティスの葬儀は滞りなく終わり、集まった皆はこれからどうするのか決めかねていたようだ。
その集まった人々の前で魔王はそう言い放った。
ざわり、と喧騒が流れ、やがて静まる。
どうなるのか、という不安をキースは抱く。
魔王軍は、神によって計画された人類絶滅のための軍隊だ。
もちろん、キースは何があっても魔王様についていく気持ちではいたが、人類絶滅を標榜されれば一応は止めなくてはならない。
そういう立場にいるのだ。
「魔王様、それは再び人類を滅ぼす戦争を始めるということでしょうか?」
意を決してキースは尋ねた。
魔王はニヤリと笑う。
「そうだ、と言ったらどうする」
「まず、一度魔王様をぶん殴ります。その上で正気かと問いただし、それでもやるとなれば全力で従います」
「……一度ぶん殴るか?」
「はい」
キースは真顔である。
「それなら最初から全力で従ってくれればよいではないか?」
「そんなおべっか使いは魔王様の御前には不要です。魔王様に誠心誠意仕えるのは当然。その上で諫言する気概を持ってこそ、魔王軍の将兵です」
おお、という感嘆の声があがる。
そして、大きな声があがる。
「その言や良し。魔王様、このカダ・ムアンのガランド、新しき“謀将”殿の意見に賛成でござる」
キースの横にどっかと座り込んだ赤肌の鬼は、その恐ろしげな顔からは想像もできないような笑顔を見せた。
「ふむ。ではキースやガランドに殴られたくはないから、人類と戦うのは止めておこう」
キースはホッと胸を撫で下ろした。
本当に殴る気ではいたが、たぶんその時キースは魔王に殺されるだろう。
殺される覚悟はしていた。
ならば。
と、キースは疑問を抱く。
魔王様はなぜ、魔王軍を再結成しようというのだろうか。
「魔王様。おふざけはそれくらいにしてください」
魔王の横に立つメルチが注意した。
「良いではないか。久方ぶりに会う者もおるのじゃし」
「おふざけはそれくらいにしてください」
二回言われた。
しかも、二回目はかなり冷たい声で、だ。
「わ、わかったのじゃ。ではそろそろ余の本当の目的を話そう」
魔王は立ち上がった。
そして、まわりを見渡して口を開く。
「今から数千年前。この世界に突如亀裂が走った」
何かの比喩ではなく、本当に世界が、大地が割れたのだ。
そして、その亀裂は徐々に拡がっていった。
その話は、神であるヤヌラスから一度聞いた話だった。
そのままにしておくとやがて大地、いや、世界は真っ二つに割れてしまう。
そうなれば、そこに住まう生命や魔力は虚無の空間である宇宙に拡散し消えてしまう。
神々はそれを恐れ、亀裂の原因を探り始めた。
その結果、人間こそが亀裂の拡大の原因ということがわかった。
そして、神々は世界を守るため人間の絶滅を決定した。
人間の絶滅を担う種族として魔族が創造される。
魔族は人間と戦うが、しかし圧倒されてしまう。
神々は魔族へのテコ入れとして、魔王を生み出す。
それが魔王ラスヴェートである。
ラスヴェート率いる魔王軍は、人類を追い詰めた。
「だが、余は封印された。そして、その間に人間は増え、世界の亀裂は再び危険な領域まで拡がりつつある。神々はもう一度、人類絶滅を画策している」
「では、神々が相手なのですか?」
誰かが問う。
創造者に被造物が反旗を翻すというのは、非常に魅力的なテーマだ。
しかし。
魔王は首を横にふった。
「神々とは戦わぬ。いや、むしろ協力していかねばと思っておる」
神であるアルメジオンとエルドラオンは頷く。
「殺されかけた相手でも、ですか?」
ヤヌラスとヤヌレス。
時の双子神は、魔王と敵対しその命を奪う寸前までいった。
いや、あの時近くにベリティスがいなければ確実に魔王は死んでいた。
そもそもが、ベリティスの死んだ大きな原因はその双子神ではないか。
そんな思いをこめたキースの言葉だ。
「そうだ。余達は恩讐を越えねばならぬ。たとえ殺されかけようと、自身の大事な者を失おうと、だ」
「わかりました。それでは魔王様、人でもなく、神でもなく、一体何と戦うための魔王軍なのですか?」
「亀裂だ」
と、魔王は言った。
「亀裂?」
「そうだ。世界を割ろうとする意思そのものである亀裂だ」
「それはどういうことです?」
「言葉ではわからぬだろう。ゆえに実際に見てもらおうと思う」
「見る?」
魔王は白い壁を指した。
「余とメルチが夢の中、集合的無意識の中で戦った亀裂より現れし者“滅びの巨人”だ」
周囲の光が遮られる。
真っ暗闇の中で、ボウッと映像が浮かび白い壁に映る。
亀裂から現れた巨大な手。
よくわからない魔法体系。
爆発魔法と時間凍結魔法という、はじめて見る魔法。
一年に渡る戦い。
それらの映像が次々に壁に映し出される。
最後に巨人が亀裂の中に落ちていった時には、あちこちからほっとしたような声が漏れていた。
その敵は、その戦いは明らかに異質すぎたために、不安と恐怖をみなが抱いていたようだった。
そこで映像は終わりのようだ。
パッと部屋が明るくなる。
そのざわめきの中からメルチは一歩前へ出た。
「今のが滅びの巨人です。推定レベル1500です」
「せんごひゃく!?」
「1500とか……無理だろう」
あちらこちらから聞こえる声。
「ゴブリンで高い奴でも40とかだ」
この声はグレーターゴブリンロードのイグニッシだろう。
人間でも50を越えるのは稀少だ。
いればすぐに英雄と呼ばれているだろう。
それを考えると滅びの巨人の規格外さがはっきりとわかる。
ヤヌラスが確かレベル500。
時の神が三柱いれば勝てるかも。
いや、双子だから二柱しかいない。
十二大神のうち武闘派の面々が協力しあえば対抗しえるかもしれない。
「それで、勝てますか?」
「今のままでは難しいな」
「ではどうします?」
「新たに魔将を選定する。強力な力を持つ十二魔将が揃えば、滅びの巨人といい勝負ができるかもしれない。故に新たな魔将を選ぶ」
「魔将になる条件は?」
「それも、決まっておる。現時点での魔将の推薦が必要とする」
「現時点での魔将の推薦?」
「誰も彼も、魔将だ魔将になる、と大騒ぎすれば収集がつかぬ。故に余も知る現役魔将に判断させる」
「なるほど」
「そして、候補者にはベリティス仕込みの教練に耐えてもらう」
ベリティス仕込み……というよりはファリオスの脳筋トレーニングな気もするが。
まあ、あれなら病弱な新人でも、明日には豪傑になるような訓練だからなあ。
「そして、十二の魔将が揃い、軍備が整ったとき。魔王軍は出陣することになろう」
「ちなみに俺も対象者ですか?」
キースは魔王に聞いてみる。
「キースの代わりになるような奴はおらぬ。それにお前はもう条件を満たしておる」
「そう……ですね」
魔将であるベリティスに認められて、ファリオスの訓練を受けているキースは知らないうちに条件を満たしていたのだ。
いや、違うな。
魔王様は俺を見て基準を決めたのだ。
たぶん。
はじめに雄叫びをあげたのは獣人たちだった。
我こそは次の魔将なりと血をたぎらせているのだ。
虎視眈々と相手を観察しているのは、力より知に長けたタイプだ。
こいつらも次の魔将の座を狙っている。
その興奮の中、魔王は口を開いた。
「ああ、そうだ。特別に余を倒したものも魔将として認めよう」
「いえ、それは無理です」
と、全員が突っ込んだ。
次回!詳細未定!あーでも敵と味方がはっきりするかも。
明日更新予定です。




