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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
78/142

レベル77 魔王様にさよならを

目覚めた。


うすぼんやりとした風景。


「ここは?」


「ベリティス公のお城らしいですよ」


まだ夢の中にいるようだ。

だが、メルチがいるということは約束通り起こしに来てくれたのだろう。

魔王は寝台から体を起こした。

そして、伸びをする。

ゴキゴキゴキと骨だか関節が鳴る。

首を横にするとまたゴキゴキゴキ。


「む?」


体の感覚が妙に懐かしいものになっている気がする。

手足が長い?


「気付かれました? ラス様、ほとんど元の姿ですよ」


「なに、そうなのか?」


“天凛の窓”を開き確認する。


ラスヴェート レベル99

HP 14190

MP 7624

スタミナ 3475

力 1459

守 1409

速 1439

知 1449

運 1419


「なるほど、確かにレベルが99になっているな」


「あの夢の中で戦った巨人から得た経験値がものすごいことになってたみたいですよ」


「滅びの巨人か」


「メルチはどうなのだ?」


「え? 私ですかぁ、私限界突破しました!」


「限界突破!?」


「私のステータス見てくださいよ」


メルチ レベル101

HP 2000

MP 4000

スタミナ 1102

力 200

守 200

速 600

知 1128

運 700


「レベル101じゃと!?」


「物凄い経験値のせいで一気にレベルがあがったんですよ」


「なんということじゃ。知ステータスにいたっては1000を越えておるぞ? これはもしや大賢者をも越えているやも」


「……でもなんで魔王様の方がステータスが上なんですか?」


「実はな、余はグランデにいたあたりから、レベルアップ時ステータス上昇のパッシブスキルをとっておってな」


「それって、レベルがあがった時にステータスに1ポイントボーナスがつくやつですよね?」


上昇値が少なすぎることからあまり人気がないスキル群である。


「忘れたか? 余は魔王の姿を強制的に取り戻すと、レベルが1になるのを」


「……もしかして、レベルが1になってそこから上昇するたびにボーナスをもらってたってこと!?」


「巨人と戦っていたときも3、4回は発動したぞ」


「そういえば部位破壊するたびに経験値入ってましたっけ」


滅びの巨人は体がいくつかの部位に別れていた。

爆発する炎を操る部位と、時間すら凍らせる部位、その他にもいくつかの箇所があった。

一年かけて少しずつ倒していったのだ。


「レベルが99になるたびに魔王化してな」


「え? レベルが100になったら魔王様の本来の姿になるんじゃないんですか?」


「100にはならんのだ。99でレベルアップが止まり、経験値がそれ以上入らなくなるのでな」


「大賢者様の呪い、ですか。すごいですね」


「奴は禁呪を使っておった」


「禁呪ってなんですか?」


「簡単に言うとHPをMPに変換する技術だ」


「うへぇ、辛そうですね。ん? それって前にラス様やってませんでした?」


「そうじゃ、グランデでお主らと戦った時にな」


「平気なんですか?」


「魔族はMP、魔力との親和性が高い。どちらかをどちらかに変換するのは簡単なのだ。しかし、人間はそうはいかん。言うなれば常にダメージを受け続けている状態で魔法スキルを使おうとするもの」


めちゃくちゃ痛そうだった。

想像しただけでメルチは痛くなりそうな気がする。


「私には無理かも」


「それほどの覚悟の封印じゃったということよ」


「なんだか、ラス様の話し方だと大賢者様が敵のような感じはしないんですけど」


「今思えば、余の城での決戦で敵と味方以上の何かを余と大賢者は得たのやもしれぬ」


『それは本当か?』


その声とともに、時間が止まった。

魔王とメルチは、夢の中で滅びの巨人の時間凍結攻撃を受けていたから、耐性がついていた。

そのため、時間が止まったと気付けた。


「聞いた覚えのある声だ」


止まった時の中で、揺らめく人影が窓際に立っていた。

幽霊のようにも見える。


『私はアーセム。かつて大賢者と呼ばれた者……の影だ』


「大賢者様……!」


『正確に言うなら、魔王にかけられた封印“百詩編”の制御用人格とでも言おうか』


「どことなく聞き覚えがあると思ったら、あの時の声か」


キディスで、トラアキアで魔王が封印解除を決意したときに聞いた声だ。


『魔王よ。もし、そなたが真にこの世界の崩壊を食い止めるために動くのならば、封印を解く準備がある』


「まこと、か?」


大賢者アーセムの影は頷く。


『この“謀将”の城よりはるか西。黒の海を越えて、ベルヘイムの地下神殿にて我が亡骸を探すがよい』


その言葉を言い残して、大賢者の影は消えた。

と、同時に時間が再び動き始める。


「聞いたか、メルチ」


「はい。ベルヘイムの地下神殿……ベルスローンの勃興によって廃れたベルヘイム国の首都、その地下だと思います」


「向かうしかあるまい」


どことなく楽しそうな魔王だった。

昔の友達に会いにでもいくような。


「女じゃないだけマシか」


「さて、メルチよ。行くぞ」


「もう出発ですか?」


「いや、余の子供同然の者を看取りに、な」


「ラス様……それは……」


魔王は寝台から降り、さっと服を着替える。

ピタリとサイズが合っていたのは、ベリティスの指示だからだろうか。


道案内もなしに、魔王とメルチはベリティスの部屋までたどり着いた。

扉は大きく開け放たれており、中にたくさんの人……とか亜人とか魔族がいるのがわかる。


「どうやら、間に合ったようだな」


部屋に入るなり、魔王はそう声を発した。


「魔王様!」


最初に気付いたのはキースだ。

なにやら雰囲気が変わったような気がする。


「アルメジオン、カレガンド、エルドラオン、ファリオス」


「ははッ!」


名を呼ばれた四人は膝をついた。

神だろうが、ダークエルフだろうが、族長だろうが関係ない。

唯一の主たる魔王の前なのだ。


「息災のようだな。余の不手際のせいで迷惑をかけた」


「迷惑などとッ」


いい募ろうとするアルメジオンらを魔王は手で制す。

さすがにそれ以上の言葉はでない。


「デルフィナの係累に、鬼、新たなるゴブリンの君主、ナイトハウンドの知を得た者、虚ろなる影の一族」


ハルピュイアも、カダ・ムアンのガランドも、グレーターゴブリンロードのイグニッシも、ナイトハウンドのフィンマークも、インビジブルたちも膝をつく。


「余の友ジェナンテラ」


「はいッ!」


ジェナンテラも膝をついた。


「余を守りし、ラインディアモント」


魔王は“鋼将”の鎧の欠片を手にした。


「そして、余の最も信頼する二人ベリティスとキース」


「はッ!」


キースも膝をつく。


魔王はベリティスの寝台に近付いた。


「余のために命を削るとはな」


「我が身は、生はすべて魔王様のものでございます」


「そうか……。お主がいなくなったあとはどうすればよい?」


「一切を我が息子キースに任せてあります」


「ほほう。なかなか良い男だろう? あやつは」


「間違いなく、魔王様のお役に立ちましょう」


「そうか。もう逝くのか?」


「もうすぐですな。時に魔王様、このベリティスの最後の願いを叶えてはいただけませんか?」


「最後の願い、だと?」


よくよく思い返してみれば、この“謀将”に対して魔王は何かを叶えてやったことなどなかったのだ。

初めての願いは、最後の願いとなる。


「我が息子キースとジャガーノーンの娘ジェナンテラの結婚をお認めください」


「は? キースとジェナンテラ!?」


魔王は勢いよく、キースを見た。

キースとジェナンテラは手をつないでいた。

それも指を絡ませて。


「よ、余の知らぬ間になにが?」


「私の知らないうちにキースが!?」


メルチもがっくりしている。


「いや、そもそもジェナンテラとキースは敵同士だったのではないのか?」


「色々ありまして」


キースは、そう答えるしかない。

色々あったのだ。


「どうですか、魔王様。この“謀将”最後のはかりごとは楽しんでいただけますな」


「ふ、ふふ、ふ。本気で驚いたぞ」


「ああ、良かった……」


本当に、と小さく息をはくように呟いて、ベリティスは目を閉じた。


そして。


それ以上動かなくなった。

次回!魔王軍が再編され、新たな目的が魔王より、知らされる!そして、新たなる魔将たちが胎動をはじめるッ!


明日更新予定です。

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